ひとり親

ひとり親家庭の養育費が減額や不払いとなっている理由とは?-不払いの強制執行は、大きな心理的・経済的な負担に

女性とお金の悩み

「養育費」とは、子どもの監護や教育のために必要な費用を指し、子どもが成長していくにあたってなくてはならないお金です。離婚して親権がなくなった親も、親として支払い義務があるとされています。しかし現状では、離婚の際に養育費について取り決めていなかったり、取り決めたとしても十分に支払われていないケースを、前編の記事を通してお伝えしました。

後編の記事では、「なぜ、養育費について取り決めないのか?」と「取り決めたにも関わらず、どうしてもらえなかったり、減額されたりするのか?」という視点で、整理していきたいと思います。

前編と同様、2016年に実施された「全国ひとり親世帯調査」(以下、同調査)と、2022年1月に結果が発表された、認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンによる「ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート」(以下、同アンケート)を参照していきます。

※同調査は、母子世帯・父子世帯・養育者世帯を合わせた4006世帯を対象に、同アンケートは、ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」を利用する「ひとり親家庭等医療費受給者証」を持つ関東1都3県および大阪のひとり親、計882名を対象にしています。

取り決めをしない理由・背景

同調査で、養育費の取り決めをしていない理由について尋ねた設問があります。それによると、母子世帯の母が取り決めをしていない理由で、最も多い割合が「相手と関わりたくないから」で31.4%でした。次いで「相手に支払う能力がないと思った」が20.8%、「相手に支払う意思がないと思った」が17.8%でした。

逆に、「自分の収入等で経済的に問題がない」は2.8%でした。つまり、経済的に問題がないわけではないけれど、関わりたくない、そして、相手に支払う能力や意思がないから取り決めない、という人が多いことがわかりました。父子家庭で「自分の収入等で経済的に問題がない」と答えたのは17.5%だったので、女性のひとり親の方が、経済的な苦しさを抱えながらも養育費を取り決めることができていないことが想像できます。

全国ひとり親世帯調査:母子家庭の母の養育費の取り決めをしていない理由

前編でも述べた通り、養育費を取り決めるためには、離婚後に家庭裁判所へ「家事調停」、その中の「養育費請求調停」を申立てる必要があります。申立書や必要書類を裁判所へ提出し、調停のスケジュールが組まれ、月に1回程度のペースで調停が行われ、「成立」「不成立」「取り下げ」のいずれかの決定が下されます。期間は事案によりますが、6か月程度のケースが多いようです。

調停の期間中は、当然のことながら夫婦両方の出席が必要となります。毎月1回、半年程度の間、必ず顔を合わせることになる。「それくらいのこと」と思われる方もいるかもしれません。しかし、DVなどの被害を受けて離婚に至ったとしたら、定期的・継続的に顔を合わせることに耐えられるでしょうか。「だったら養育費はいらない」と考えるお気持ちになることも理解できます。

取り決めをしても受け取れない、減額される理由・背景

同アンケートで、養育費減少の理由について尋ねた質問があります。自由記述の回答をご紹介します。

「コロナの影響による相手の収入減少。」
「念書に『増減可能』と記載されている為。」
「養育費を払ってもらえるように、毎月LINEで何度も連絡して、なるべく払ってもらうように頼んでいるが、お金がないといい、いつも減額したり、払ってくれないことも多い。」
「相手は自営業なので仕事の状況や、再婚、子供が生まれるなどの理由で支払いが滞り、必要時にはLINEで連絡はとれるがあまり話し合いに応じてはくれない。」

理由は一概には言えず、様々な背景があることがわかりました。新型コロナウイルスなどの不測の事態による理由もあるようですが、支払う側の意思次第で急に滞ったり、減額されたりしてしまう、という状況が読み取れました。

では、このような状況を改善することはできないのでしょうか。同アンケートで「養育費を減額されたことがある/貰えなかったことがあると回答した方は、その状況を改善するために働きかけたことがありますか?」という質問で、「ある」「ない」と答えたのはそれぞれ3割程度でした。(無回答・無効回答が4割程度)

全国ひとり親世帯調査:養育費をもらえることができていない状況を改善することはできるのか

「働きかけたことがない」と回答した人の理由を一部ご紹介します。

「もと主人のDVが原因で私が離婚調停をして離婚したので、怖くて先方には連絡していません。」
「養育費の話をすると火がついたようにキレだす。酒癖が悪く、DV、子供も殴られた事があるので、これ以上言うと命の危険があるので言えない。」
「今住んでいる自宅を知られる恐れがあるため。」

テーブルに座る男女

また、「働きかけたことがある」と回答した人の中でも、以下のような声がありました。

「何度か話合いの場を設けたが、声を荒げ話合いにならなかった。」
「裁判所に勧告してもらったが、また数回だけで払われなくなった。」
「一度、親戚から電話をかけてもらったが無視された。DVなどの問題があり、協議や調停を行うと負担が大きい。弁護士は費用が高額となるので難しい。」
「何度も電話で話し口座を聞かれ教えたが一度も振り込まれなかった。」

働きかけたとしても、必ずしも改善に至るわけではないということがわかりました。ひとり親で、時間的にも経済的にも余裕がないとしたら、働きかけを途中で諦めるお気持ちになることも理解できます。

強制的に払ってもらうことはできないのか

ここで一つの疑問が湧きます。「取り決めているならば、強制的に支払いを命じることはできないの?」です。確かに、取り決めたのに支払われないならば、その取り決めは意味がないように思えます。

養育費の取り決めのルートは大きく2つあります。1つは当事者間の協議によって決める場合。こちらは「口約束」になるため、支払いの強制力はありません。2つ目は調停で決める場合。こちらは裁判所で行うため、取り決めの効力が強いように見えます。

しかし実際は、調停での取り決め自体に支払いの強制力はありません。調停の目的は、第三者である調整員に仲裁してもらい、妥当な養育費の金額について一緒に話し合いながら決めていくことにあるため、決めた後の支払いに強制力を発揮するものではないのです。

養育費の支払いがなかった場合に強制執行を行うためには、「公正証書」の作成が必要となります。公正証書とは、公証役場で公証人が作成した公文書のことを指し、法的な間違いがなく、有効な文書であると認められます。ただし、公正証書を作成しただけでは強制執行を行うことはできず、「支払いがなかったら強制執行しても良い」という旨の記載(強制執行認諾文言)があることが必要です。

公正証書の作成・強制執行には大きな負担が

じゃあ「公正証書を作ればいい」ということになるのですが、調停で取り決めて、そのままの流れで公正証書が作れるわけではないので、またひと手間がかかります。

まず、本人確認書類や戸籍謄本などの書類の用意が必要になります。また、当事者双方が公証役場へ向かう必要があるため、日程を調整して決めて、公証役場へ事前連絡し、予約をとる必要があります。そして、手数料の支払いも必要です。この手数料は、支払期間中の養育費の総額に応じて変動します。

いざ「支払いを強制執行してほしい」という状況になった際も、簡単には行きません。公正証書が作成してあることは大前提ですが、加えて「相手の現住所を把握する」「相手の財産を把握する」という準備が必要になります。「誰の」「どの財産を」差し押さえるのか、という点を裁判所が把握していないと、差し押さえて、支払いを強制執行させることできないからです。

さらに実際に強制執行を申し立てる際は、公正証書以外に必要な書類がいくつもあります。弁護士に依頼すれば複雑ではないのでしょうが、依頼する費用の捻出が難しい場合は、自分自身でやらなければならなくなります。

子どもが不利益を被らないように

養育費が確実に支払われるために、先に述べた手続きをひとり親の状態で行うには、心理的にも経済的にも大きな負担です。この負担をかけられない場合は泣き寝入りするしかない、という状態は、子どもを一人で育てている親御さんにとって、また子どもにとって、大変な不利益であると感じます。

こういった養育費不払いの問題に対処するため、養育費の立替制度を始めている先駆的な自治体もあります。明石市が、その一例です。2020年7月に、1か月の養育費を上限5万円で市が立て替えるという事業をスタートさせています。

また、それに呼応する形で、法務省・厚生労働省が連携し「不払い養育費の確保のための支援に関するタスクフォース」を設置しました。設置以後、定期的な議論が行われており、今後の展開が期待されています。

神奈川県藤沢市では、新たな取り組みとして、養育費の不払いが起きた場合の申し立て費用などの支援を市議会に提案しています。公正証書などの文書を作成する費用や、家庭裁判所に調停を申し立てる費用、強制執行を申し立てる際の弁護士費用を補助するとしています。

様々な事情でひとり親になった際にも、安心して子育てができる社会の実現は必要不可欠です。生まれ育つ環境により、子どもが不利益を被ることがないように、養育費支払いの問題点が一つずつでも解消していくことを願います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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