日本では、7人に一人の子どもが貧困であり、ひとり親家庭の半数が貧困といわれています。ひとり親家庭は、社会的にも孤立しがちで、周囲に悩みを打ち明ける相手がおらず、インターネットの情報に振り回されている傾向にあります。
例えば、ネット上にあるひとり親への偏った意見を目にし、ひとり親である自分を責めたり、助けになる支援制度や相談窓口の情報に辿りつかず、お子さんと一緒に辛い生活に絶望したりするひとり親家庭が多いのです。
そのようなひとり親に確かで役に立つ情報を届けたいという思いから、認定NPOしんぐるまざあず・ふぉーらむでは、書籍「シングルマザー365日サポートブック」を出版したり、ひとり親向けのフリーペーパー「Smoms」を年1回発行し自治体を中心に発送したりしてまいりました(vol3は11万部発行)。
しかし、紙媒体で届けられる人数や情報量、情報鮮度には限界があり、またスマホ文化の若い世代に届きにくいという課題がありました。
そのため、確かな情報を必要としているひとり親の方々に幅広く、よりタイムリーに情報を届けるために、この度「赤い羽根福祉基金第5回助成金」のご支援をいただき、子そだてシングルのための応援サイト「イーヨ」を立ち上げることにいたしました。
サイトを開くたびに、ホッとする気持ちになれるように
本サイトを通してお届けしたいことのひとつに「受容」があります。
ひとり親は、ひとり親になるプロセスで深く傷付いたり、周囲やネットでの偏った意見に翻弄されたり、経済的に困窮した生活に心身ともに疲弊したりなどして、自身への肯定感が低く自信を失っている方が多い傾向にあります。
そのようなひとり親の方々がイーヨのサイトをご覧になるときに、「どんなあなたでも大丈夫だよ」という安心感をお届けしたいと考えました。そのため、大きく2点の工夫をしています。
まずサイト名である「イーヨ」です。「肯定する」言葉の意味そのものとしての名称と、世話好きな人が何かをしてくれる時に「気にしないで」という意味で言う「いいよ、いいよー」の「いいよ」から名付けました。
そして、トップページを開いたときに、アニメーションで「ひとりで頑張らなくてイーヨ」「何度でも相談してイーヨ」など「〇〇イーヨ」な一言を表示するようにしています。
この「〇〇イーヨ」な一言を決めるにあたって、当事者団体でもある「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のスタッフやそのお子さんに、ひとり親に伝えたい一言を募集しました。
集まった80以上の一言から厳選した45個の一言がランダムに表示される仕掛けになっており、中には小学生のお子さんが発案した「もういいかい、もうイーヨ」という遊び心のある一言もあります。「イーヨ」のサイトを見るたびに、読者自身がホッとし肯定された気持ちになるといいなと願っています。
(イーヨでは、サイト訪問者の状況に合わせて、知りたい情報が見つけられるように様々な工夫がされている)
少しでも孤独感が少なくなることを願って
もうひとつの工夫は、Q&Aの記事での回答部分にあります。
回答の冒頭には、「よくぞ伝えてくださいました」「よくやっていらっしゃいます」など、できるだけ相談してくれた方への受容のメッセージを掲載するようにしています。
「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」に寄せられるメール相談にも、最初にこのような受容のメッセージをおつけしてお返事しているのですが、「こんなに温かく受け入れてもらえるのは久しぶりで涙した」など、感謝の反応が返ってくることが多いです。それだけ孤立して、周囲に相談する相手がいない孤独な状況なのだと痛感させられます。
そのため、同じ相談内容の悩みを抱えた読者がQ&Aの回答部分を読み、現在のご自身を肯定できるよう、受容部分は特に深い思いを込めて文章を綴っています。また、読者が行動しやすくなったり孤独感が減ったりすることを願って、回答の本文全体にも「いつでも相談してくだいね」「あなたを応援しています」というメッセージを織りこむようにしています。
(「イーヨ」の編集会議の様子)
当事者に寄り添う「確かな情報」を届ける
本サイトの特筆すべき特徴のひとつは「確かな情報」です。
コラムやQ&Aの記事は、医師や弁護士、社会福祉士、キャリアコンサルタントなどの専門家が執筆・監修しています。また、30年以上シングルマザーへの支援を行い、累計5000件を超える相談を受け付けてきたしんぐるまざあず・ふぉーらむの経験知を回答に反映し、当事者に寄り添った内容になっています。
そのほかにも、プロの校正の方に記事を確認いただき、書籍制作と同じレベルのチェックを経て公開したり、イラストの内容がひとり親である読者の多様性や状況に適したものであるか厳格に確認したりしています。
(左:イーヨのイラスト制作の様子、右:イーヨのイメージキャラクター)
親しみやすいデザインやイラストでサイトを構成
本サイトは「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」代表の赤石が全体の統括をし、筆者がディレクションや編集、一部記事の執筆を担当する体制で主にコンテンツ制作をしています。
イーヨ立ち上げ時期からのこの1年、世の中はコロナ禍となり、代表の赤石は経済的に困窮するひとり親家庭への食糧物資支援や相談業務などに多忙を極めております。そのため、時に日付が変わった深夜に編集会議をすることもございました。
サイト制作とイラストに関しては、社会問題に真摯に取り組みデザイン性のあるサイト制作をしているチャリツモ(※)さんにお願いしました。赤石も筆者も、チャリツモさんなら読者が親しみを持てるサイト構築をしてくれると確信していたので、お引き受けいただけるとわかった時は二人して飛び上がるほど喜びました。
そして、実際のサイト制作では、私たちの細かいわがままなオーダーにも、その期待を超える形で、親しみやすいデザインやイラストでイーヨのサイトを構築してくださり、さらにサイト名称の提案やアクセスを増やすためのアドバイスなど、多大なご尽力をくださっています。イーヨが素敵なサイトになるよう全面的にバックアップくださり心から感謝しています。
チャリツモさんが工夫してくださった親しみやすいサイト作りの秘話をひとつご紹介しますね。ロゴデザインを担当してくれた清水槙子さんが長男の然太くん(7歳)にお願いし、彼がトップページにある「アマビエ」のイラストや、イーヨのロゴ文字の切り絵を制作しました。ちびっ子デザイナーとしてイーヨの親しみやすさに一役を担ってくれています。
(左:清水然太くんの制作の様子、右:イーヨに掲載されている「アマビエ」のイラスト)
情報を必要としている、より多くのひとり親家庭に届けるために
さて、イーヨは、2020年8月にコロナ関連の支援記事を中心に先行リリースし、同年10月にQAや体験談などある程度数を準備し、本格リリースをしました。合わせて10月にはTwitter、Instagram、Facebookのアカウントを開設し、記事の紹介を開始しています。
アクセスは順調に増えていて、2020年8月〜2021年2月末までで累計7万7千ページビュー、2万ユーザとなっています。GoogleのChromeでの検索では、「シングルマザー 相談」という単語で検索すると2番目に表示されるなど、上位にくる検索ワードもでてきました。
しかし、80万世帯を超えるひとり親家庭やその予備軍の中で、情報を必要としている「子そだてシングル」に届いているのは、まだまだごく一部だといえます。また、都市圏からのアクセスに偏っていて地方からのアクセスが非常に少ない状況にあります。
そのため、今後はイーヨのサイトを多くの人に知ってもらえるような活動やコンテンツの充実をはかっていきたいと考えています。全国のシングルマザーサポート団体の紹介や、体験談募集キャンペーンなども予定しています。
この文章をお読みになったあなたが、プレシングルやひとり親の方にイーヨをご紹介いただき、ひとりでも多くの当事者やそのお子さんに役に立つ情報が伝わったら、これ以上の喜びはありません。
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむスタッフ。「イーヨ」ではディレクション・編集・記事執筆を担当。「シングルマザー365日サポートブック」共同編著、ひとり親向けフリーペーパー「Smoms」編集担当。