多文化共生日本語教育

新型コロナで海外ルーツの子ども・家庭支援団体の65%が活動休止・縮小に-不就学のリスク増!外国人保護者の経済状況悪化

YSCグローバル・スクール:海外ルーツの子どもたちのオンライン支援の様子(YSCグローバル・スクール:海外ルーツの子どもたちのオンライン支援の様子)

新型コロナウィルスの影響によって外出自粛や一斉休校が続く中、日本で暮らす海外にルーツを持つ子どもや外国人保護者にも大きな影響が出ています。

その影響の実態をつかもうと、筆者が2020年4月15日から21日にかけてインターネット上で、海外にルーツを持つ子どもやその家庭を支援している全国のボランティア、NPO等関係者を対象に、アンケート調査を行いました。

新型コロナの影響で縮小する支援

アンケートの結果によると、回答が寄せられた104件の個人支援者や団体などの内、活動休止を余儀なくされている個人や団体は47%に上り、平時より活動を縮小していると答えた18%とあわせて65%が普段通りの支援を行えていないことがわかりました。

YSCグローバル・スクール:海外にルーツを持つ子どもの支援状況アンケート調査結果海外にルーツを持つ子どもの支援状況アンケート調査結果

普段は、公民館等の公共施設を活動場所としているボランティア団体等からは、「早くから公共施設の利用ができなくなり、活動を休止せざるを得ない」といった声が聞かれました。他にも、公立学校と連携、または自治体に雇用され、学校内で日本語学習支援などを行う支援者からは、休校措置が解除にならなければ、支援の再開が難しいといった状況も寄せられました。

海外にルーツを持つ子どもたちの場合、外国人保護者が日本語を理解できず、緊急に発信される情報がわからなかったり、休校措置中に学校から出された宿題を教えることができなかったりなど、日本語母語話者の家庭と比較してより困難に直面しやすい状況にあり、普段から丁寧な支援が求められる状況です。

一方で、もともとボランティアによる手弁当の活動が主流であった海外ルーツの子ども支援団体では、緊急時に活動を増やして対応できる団体はあまり多くありません。

オンラインでの支援を行っているのは2割

前述のアンケートで『海外ルーツの子どもたちのオンライン支援(学習や相談など)について』を訪ねたところ、104件の回答のうち、「オンラインでの支援活動を行っている」と答えたのは20%にとどまりました。一方で、45%は(回答時に)「オンラインでの支援を行ってはいないが検討している」と答えたものの、30%は「オンライン支援は検討もしていない」としています。

北陸地方で活動を行うNPOの担当者は、オンラインへの支援について「ボランティアの高齢者にとっては、オンラインでの支援や会議の実施は難しい」と指摘しています。ボランティアの自宅にネット環境が整っていなかったり、パソコンやスマホの操作に慣れていない中で「ボランティア支援者へのICT活用支援が十分にできない」状況だといいます。

YSCグローバル・スクール:海外にルーツを持つ子どもの支援状況アンケート調査結果海外にルーツを持つ子どもの支援状況アンケート調査結果

つながりを途絶えさせないために

海外ルーツの子どもやその家庭への支援活動が停滞する中でも、SNSや電話で子どもたちの状況を把握したり、家庭訪問で様子を確認するなど、7割が何らかの形で海外ルーツの子どもたちとのつながりを維持しています。

海外ルーツの子どもと家庭の場合、日本語の壁によって学校や行政とのコミュニケーションが難しかったり、地域とのつながりが弱いことも少なくありません。日本語ボランティアや支援団体だけが唯一の日本社会との窓口となっていることも珍しくなく、つながりを途絶えさせないことが非常に重要です。

しかし、今後の実施を検討している場合を含めて、2割以上は子どもたちの状況把握が行えておらず、つながりが途絶えてしまっていることもわかりました。

特に学校と連携し、学校の内外で海外ルーツの子どもを支える日本語支援員やボランティアの方々の場合、学校側から直接家庭へ連絡を取らないようにと指示されていたり、そもそも連絡先を伝えられていなかったりなど、支援したくてもできないという状況にあります。

学校と外国人保護者とのコミュニケーションを仲介してきたこうした支援者からは、休校中に学校側がどこまで外国人家庭に対応できるのか疑問視する声もあり、緊急時の対応にも、専門性のある支援者やNPO等と協働できるようにしてほしいと訴えています。

YSCグローバル・スクール:各家庭へ教材を届けるための発送作業の様子(YSCグローバル・スクール:各家庭へ教材を届けるための発送作業の様子)

外国人保護者の経済状況は悪化の傾向

アンケートの中では、海外ルーツの子ども支援者が目の当たりにしている子どもや家庭の現状についても尋ねており、自由記述ながら200件以上の声を寄せていただくことができました。

外国人保護者や家庭の状況では、アンケート回答時(4月15日~21日)で「今はまだ持ちこたえているが、今後は確実に収入が減り状況が悪化するだろう」という声もありましたが、すでに「生活困窮は本格化している」「経済状況の悪化による影響が顕在化し始めている」といった現状も寄せられ、時間差はあるものの、今後の見通しはかなり厳しいことがわかりました。

支援者らからは、外国人学校の学費が払えなくなっており、外国人保護者から公立学校への転入についての相談が増えているといった声や、家庭の経済状況の悪化により高校進学をあきらめてしまった海外ルーツの子どもが出てしまったと、やりきれない思いも寄せられていました。

YSCグローバル・スクール:新型コロナウイルスの影響が出る以前の授業の様子(YSCグローバル・スクール:新型コロナウイルスの影響が出る以前の授業の様子)

リーマンショック後と同様の事態を懸念

実は、コロナ禍が続く中で、海外にルーツを持つ子どもや外国人保護者を支援する関係者の間では、共通して抱いている「恐れ」があります。それは、リーマンショック直後の事態の再発です。

当時、多くの日系人が派遣労働者として製造業の現場を下支えしていました。主な日系人は「定住者」という、就労にも家族の帯同にも制約のない在留資格で来日しているため、小さな子どもと共に、日本にやってくる家庭が少なくありませんでした。

特に外国人が多く暮らしてきた製造業が中心の地域では、ブラジル人学校等が多数開校し、日系人の子どもたちの学びを支えていましたが、ほとんどが自費で運営されていたため、外国人保護者は月謝を払って子どもたちを通学させていました。

しかし、リーマンショック直後の雇止めや派遣切りの影響はまっさきに日系人や外国人労働者を襲い、ブラジル人学校等への学費を支払うことができない家庭が急増しました。かといって、日本語ができない状況の中、公立学校への転入もスムーズには進まず、地域では不就学となった子どもたちが平日の昼間にあふれかえるというような状況が生まれました。

また、そのような経済状況の悪化は、海外ルーツの子どもたちの進学にも影響を及ぼします。前述のケースのように、高校進学すらあきらめざるを得ないばかりか、義務教育の対象外となっている外国籍の子どもの中には、家庭を支えるために「公立中学校を退学」するような事態にも発展しています。

私たち海外ルーツの子ども支援関係者にとって、今回の新型コロナの影響による外国人家庭の経済状況の悪化は、支援者同士で情報交換をする際に「リーマンショックの時のようにしてはいけない」が合言葉のようになっています。

当時の状況を想起させるだけでなく、当時以上に外国人や海外ルーツの子どもが増加している中で、予想もつかないような悪い事態に陥るのではないかといった強い危機感を抱かせるものです。

YSCグローバル・スクール:4月4日に完全オンラインの卒業式を実施した(YSCグローバル・スクール:4月4日に完全オンラインの卒業式を実施した)

一層脆弱な立場に追い込んではならない

社会の誰もが大変な状況にある時、平時から困難に直面してきたマイノリティは、一層脆弱な立場に追いやられます。だからこそ、彼らに対する関心をより強く持ち、視点を強化し、必要な支援について先手を打って施策や対策を展開する必要があります。

最も弱い立場の方々のために用意されたきめ細やかな支援の網の目は、どんな人にとってもセーフティネットとなり得えます。新型コロナウィルスによる影響を長期化させないためにも、特に未来を担う子どもたちの人生に禍根を残さないように、知恵と経験を持ち寄ってあらゆる方向から支援の手を伸ばしてゆくことが重要です。

Author:田中宝紀
NPO法人「青少年自立援助センター」定住外国人支援事業部責任者。1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する「YSCグローバル・スクール」を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。現在までに35カ国、750名を超える子ども・若者を支援。日本語や文化の壁、いじめ、貧困などこうした子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2019年度、文科省「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」委員。
著書:海外ルーツの子ども支援 言葉・文化・制度を超えて共生へ

外国にルーツを持つ子どもたちをご支援ください!

YSCグローバル・スクールは原則として保護者の方よりいただく受講料で運営されていますが、スクールでのサポートを必要とする外国にルーツを持つ子どもたちのうち、約30%が困窮・外国人ひとり親世帯に暮らしており、経済的な負担が難しい状況です。こうした子どもたちが経済的な格差により日本語教育や学習支援機会へのアクセスが閉ざされてしまうことを防ぐために、「学内奨学金制度」を設置しております。

ぜひ、日本に生きるすべての海外ルーツの子ども達が安心して学び、日本社会へ巣立つことができるよう、プロジェクトへのご協力をお願いいたします!

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