多文化共生日本語教育

外国人保護者は、保護者会やPTAに参加しないで“ズルい”のか?-入学や転校時から置き去りにされる外国人保護者

文部科学省が毎年行っている「学校基本調査」によると、2017年度、日本の公立学校に在籍している外国籍児童生徒の数は86,021人。1年前の2016年度は80,119人でしたので、約6,000名近く増加しました。今、全国の公立学校で外国人の子どもたちが増えています。

公立学校に在籍する外国籍の児童生徒数

このうち、日本語がわからず学校生活に支障をきたしていると考えられる「日本語指導が必要な児童生徒」は34,335人(外国籍のみの数)います。中には、子どもは日本語がわかるけれど、その保護者は日本語がわからず、日本での子どもの教育に困難を抱えているというケースも少なくありません。

ここ数年はもともと外国人が多く暮らしてきた東京都や愛知県、神奈川県などだけでなく、これまで外国人がほとんどいなかった、という地方の自治体でも、外国人住民が増加傾向にあります。外国人保護者やその子どもたちが日本の学校や地域で「困っている」という状況に直面する可能性は誰にでもあり、そして、どんどんと高まっていると言えます。

外国人保護者は、参加しないで本当に”ズルい”のか?

YSCグローバル・スクールで、外国にルーツを持つ子どもたちに指導を行うスタッフ(YSCグローバル・スクールで、外国にルーツを持つ子どもたちに指導を行うスタッフ)

一昨年、筆者の長男は、小学校に入学しました。入学式を終え、晴れて小学1年生となったわが子の初めての保護者会。クラスの中を見渡すと、何人かの外国人保護者がいることに気づきました。保護者会では、大量のお便りや書類を渡され、これからの学校生活や持ち物についてなど、配布された書類を元に担任の先生が矢継ぎ早に説明して、終わりました。

その後、夏休みや冬休みに入る直前などの平日の昼間に保護者会が開催されましたが、複数いるはずの外国人保護者の方々は1回目の保護者会以降、ほとんど姿を見ることはなく、同じクラスの保護者同士、コミュニケーションを深める機会もありませんでした。

これは別の学校でのお話しですが、日本人の保護者からは、こうした外国人保護者は「保護者会もPTAも参加しないで“ズルい”」「参加する日本人だけに負担がある」という声が出る事も、あるのだそうです。

多くの外国人保護者の方にとっては、日本の学校制度や学校文化自体になじみが無く、「保護者会」や「PTA」がない(あっても形式がまったく異なる)地域や国の出身の方々も少なくありません。また、いずれも会が開催されるという情報自体が日本語のみで書かれたお便りで知らされ、読むことができなかった可能性も大いにあるはずです。

さらに、なんとか出席してみても、担任の先生も周囲も「ふつうの日本語」で書類を用意し、会話し、全く理解できないという経験が一度でもあったとしたら、わざわざ平日の日中に仕事を休んでまで保護者会に出席しようというモチベーションは削がれてしまうでしょう。

一部の日本人保護者の方が感じるような「外国人保護者は参加しなくてズルい」という見方よりは、「外国人保護者は、言葉の壁に阻まれ、参加したくてもできない」と考えるほうが、より実態を正確に表していると言えます。

「したくてもできない」マイノリティを見て、「しなくてズルい」とマジョリティが感じてしまう状況は、お互いにとって、決して良いとは言えません。こうしたマインドに陥らないためには、とてもシンプルですが「相手の立場に立って考える」という事が重要です。

こうした状況に遭遇した際に、私たち一人ひとりにできることはあるでしょうか?

YSCグローバル・スクールでは、多くの外国にルーツを持つ子どもたちに教育支援を行っている(YSCグローバル・スクールでは、多くの外国にルーツを持つ子どもたちに教育支援を行っている)

今すぐできる!やさしい日本語インタープリター

外国人住民が増えている中で、今、「やさしい日本語」という考え方が注目を集めています。

もともとは、阪神淡路大震災の際に、日本語も英語もあまり得意でない、という外国人の方々に情報が届きづらく、避難が遅れたり、避難所で大変な思いをしたことなどがきっかけとなり考え出されたものです。現在は、防災・減災の観点からだけでなく、自治体の日常的な業務や広報、ツーリズム、住民同士の交流などにも活用事例が広がっています。

特に日本の学校生活には、「保護者会」や「運動会」「うわばき」「下駄箱」「特別時程」など、日常の中であまり出会うことのない言葉や表現がたくさんあり、保護者会やお便りを理解するのも一苦労です。

例えば、「授業参観」という言葉は「じゅぎょうさんかん」と聞いても、日本語があまり得意でない方や日本で学校生活を体験したことがない方にとって、それがどのようなことなのかをパッと理解することは簡単ではありません。

しかし、「お父さんやお母さんが学校にきます。学校で子どもの勉強を見ます」というように、易しい日本語表現に置き換えることで、日本語のハードルを低くしたり取り除いたりすることが可能になります。

やさしい日本語は、日本語ネイティブの方であれば、いくつかのコツを掴むことでどなたにでも手軽に取り組んでいただけるものです。保護者会がある時には、隣の席に座った日本人保護者の方が、担任の先生のお話しをその場で「やさしい日本語」に置き換えて「通訳」をすることで、ぐっと理解を深める事ができます。

また、学校のお便りも各国言語に翻訳をすることは難しくても、「やさしい日本語版」を提供する事で、そこに何が書かれているのかを読める外国人保護者の割合は増えるはずですし、さらに、「やさしい日本語」で書かれた文章は、機械翻訳を通した際の翻訳精度を高めることにも貢献します。

例えば、PTA活動の一環として、学校文書を「やさしい日本語に翻訳する」「(保護者会や学校行事の際の、学校内での)やさしい日本語通訳派遣」の仕組みを作るなどの取り組みは、元来のPTAの役割にも合致するものであり、おすすめです。

1月に行った「書き初め」の様子。中国からの生徒以外にとっては初めての経験(1月に行った「書き初め」の様子。中国からの生徒以外にとっては初めての経験)

小さくとも「できること」を着実に

外国人保護者の方々が、学校のお便りが読めなかったり、子どもの学校生活に主体的に参画できない状況は、長引けば長引くほど、学校、保護者、子どもそれぞれにとって負担の増加や悪循環を引き起こします。入学や転校などで新たな出会いが増えるこの時期に、共に笑顔のスタートを切る事ができるように、小さくとも「できること」を着実に実行して行く事が大切です。

【参考情報:「やさしい日本語」の作り方やコツ】

この「やさしい日本語」の作り方やコツは、今、インターネット上にたくさん公開されていますので、ぜひこうしたリソースを積極的に活用してみてください。公益財団法人かながわ国際交流財団が作成したリーフレット「やさしい日本語でコミュニケーション」は無料でダウンロードが可能です。やさしい日本語について、基本的な内容をわかりやすく、見やすくまとめています。

愛知県地域振興部国際課多文化共生推進室より発行されている『「やさしい日本語」の手引き』は、より詳細なやさしい日本語作成のコツや練習問題がたくさん掲載されていて、こちらも無料で公開されています。

Author:田中宝紀
NPO法人「青少年自立援助センター」定住外国人支援事業部責任者。1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する「YSCグローバル・スクール」を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。現在までに35カ国、750名を超える子ども・若者を支援。日本語や文化の壁、いじめ、貧困などこうした子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2019年度、文科省「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」委員。
著書:海外ルーツの子ども支援 言葉・文化・制度を超えて共生へ

外国にルーツを持つ子どもたちをご支援ください!

YSCグローバル・スクールは原則として保護者の方よりいただく受講料で運営されていますが、スクールでのサポートを必要とする外国にルーツを持つ子どもたちのうち、約30%が困窮・外国人ひとり親世帯に暮らしており、経済的な負担が難しい状況です。こうした子どもたちが経済的な格差により日本語教育や学習支援機会へのアクセスが閉ざされてしまうことを防ぐために、「学内奨学金制度」を設置しております。

ぜひ、日本に生きるすべての海外ルーツの子ども達が安心して学び、日本社会へ巣立つことができるよう、プロジェクトへのご協力をお願いいたします!

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