NPO法人ダイバーシティ工房(以下、ダイバーシティ工房)がシェルターを開設した背景には、私たちが運営する無料のLINE相談や自立援助ホームに届いた10代~20代の若年女性の声があります。
「家に居づらい」「親から暴力を受けている」「家を出たいがどこにも繋がれない」など、家に居場所がない状態で、どこにも行く先のない子ども・若者たちからの相談を受け、SOSを受け取ってきました。
ダイバーシティ工房には、シェルターに先行して運営していた自立援助ホームLe port(ルポール)があります。虐待をはじめ様々な理由で家庭では生活できなくなった15歳〜20歳の女性たちが自立に向けて支援を受けながら暮らす場所です。
しかし、自立援助ホームは家庭で生活ができなくなった全ての若者が利用できるわけではなく、利用できるか否かを分けるものの1つに制度の壁が存在していました。
自立援助ホームでは受け入れができないケースも
自立援助ホームは原則として、まずは「児童相談所への相談」というステップが必要になります。また、児童相談所を介した自立援助ホームへの入居が選択肢に入っても、ホームの定員が埋まっている状況で、受け入れができないケースもあります。
そんな行き場のない状況で生まれる選択肢は、例えば家出です。
近年、SNSを通じて家出先を見つける場合も多くありますが、若い女性が、行き場がないとわかっていて声をかける男性宅に住まうことは決して安全なことではありません。場合によっては、心身ともに傷つけることになりかねません。
そんな若年女性たちに安全で安心な逃げ場、居場所を作りたい。その思いから、自立に向けた次のステップへ移る前に一時的に暮らしを提供できる場として、2020年12月に立ち上げたのが民間シェルター「Le Phare」(以下、ルファール)です。
民間シェルター「ルファール」ができるまで
若年女性たちにとって安全で安心できる居場所になろうと、ルファールを作るためにまず始めたのが物件探しです。
個室はあるか、駅からの距離はどうか、安全面は確保できそうか。そういった項目に加え、複数人で住むことに問題がないか、オーナーさんの理解を得る必要もあります。数軒の物件見学を経て、ようやく個室が3部屋ある1軒家を借りることができました。
物件契約後は、部屋に何もない状態です。他の事業部で余っていた布団を運び込んだり、家電や家具を購入し組み立て、セキュリティを強化したりするなど、2〜3週間かけて「住む」場所をつくっていきました。
(NPO法人ダイバーシティ工房:民間シェルター「Le Phare」の開設準備の様子)
シェルターと聞くと「薄暗く冷たい場所」のイメージを抱き、入居に抵抗感を持ったり拒んだりする人も出てくる可能性があります。明るい色の家具やカーテンを揃えるなど、利用する方が少しでも良い部屋だと思ってくれるような場にすることも、安心できる場所を作るうえでの大事な要素です。
設備や備品も、寄付で電気ストーブや洋服、食料をいただくなど多くの方の協力を得て、利用者が入居するまでにシェルター内外の環境を整えていきました。
住環境の整備と同時に、他団体のシェルターや自立援助ホーム、社会的養護が必要な人を対象としたシェアハウスなどを見学しながら、ルファールの運営方針やルールを決めていきました。
「ルファール」は、どのように運営されているのか?
ルファールは、休眠預金などを資源とする助成金によって立ち上げられました。
立ち上げ後の運営においてかかる支援員の人件費や家賃、光熱費、食費なども、こうした助成金によって賄われています。また、ルファールやダイバーシティ工房の活動を知った個人の方から、継続してご支援を頂いているご寄付にも支えられています。
助成金は継続して受け取れるものではなく、運営を継続していくための資金調達が引き続き課題となっています。
資金面以外に運営方針の面でルファールが1つ特徴的なのは、生活を共にしながら利用者へ伴走型支援を行っていることです。
安心して生活できる場所という前提を守るために、決まりや利用ルールは設定されています。しかしルファールは住居のない方の緊急の受け入れ先ということに加え、利用者が次のステップへ進んでいくための場所としての特徴も持つため、利用者たちがルファールの外にある社会と繋がり続けながら生活をしていけるよう、サポートの方法を考えています。
団体の内外問わず、様々な専門性をもった支援者が伴走
ルファールは、常勤・非常勤あわせて3~4名ほどのスタッフによって運営されています。 支援員を務めるスタッフは児童福祉の分野に専門性・バックグラウンドを持ち、利用者の相談対応や生活支援から就労支援まで幅広く関わります。
他にも、入居者を掃除、洗濯、食事、買い出しといった基本的な生活面から支えることに加え、行政等へ提出する書類作成のサポートや外出の付き添い、話し相手になるなど、その時々で必要なサポートを行っています。
(NPO法人ダイバーシティ工房:民間シェルター「Le Phare」での生活の様子)
ダイバーシティ工房が運営する自立援助ホームの職員とも共同で支援会議を開催する他、LINE相談からシェルターでの宿泊や食料支援に繋げるケースもあるため、LINE相談の相談員とも密に連絡を取っています。
ダイバーシティ工房の内部だけでなく、1人の利用者に対して、行政、病院、弁護士、学校、生活支援拠点、NPO等あらゆる支援者が存在します。支援をする上で利用者をルファールの中だけで完結せず、外部の相談先、頼り先に繋ぎ、それぞれの専門性や役割が発揮される場所に繋いでいくということが重要となっています。
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。