自然体験教育格差

子どもの体験は、誰が担っていくべきなのか?-家庭の負担頼みで、長期休みや連休に広がる体験格差

親子

2018年度から学校の休業日の分散化する「キッズウィーク」がスタートします。

文部科学省は、「キッズウィーク」の実施に向けて、学校教育法施行令の一部を改正し、大学を除く公立の学校の休業日について、従来の休業日に加え、「家庭及び地域における体験的な学習活動その他の学習活動のための休業日」(体験的学習活動等休業日)を例示として追加することを公示しました。

政府は、消費の活性化策・休暇改革の一環として「キッズウィーク」を創設していますが、文部科学省では、「家庭及び地域における体験的な学習活動等の円滑な実施及び充実を図ること」を目的とした休日として定めることにしました。

「体験的な学習活動等」とは?

「体験的な学習活動等」とは、どのような活動なのでしょうか?文部科学省では、10年以上前から体験活動を「体験を通じて何らかの学習が行われることを目的として、体験する者に対して意図的・計画的に提供される体験」として定義し、下記の3つの分野に分類して推進してきました。

①生活・文化体験活動(遊び、お手伝い、スポーツ、部活動、地域行事など)
②自然体験活動(登山、キャンプ、星空観察、動植物観察など)、
③社会体験活動(ボランティア活動、職場体験活動、インターンシップなど)

座学形式の学習は、特定の知識などを身につけるインプット型の学びですが、体験活動は実際に試してみるというアウトプット型の学びになります。この間でも国立青少年教育振興機構が繰り返し体験活動に関する調査を行い、様々な教育効果についても検証されてきています。

体験活動の推進体制の問題とは?

体験活動が子どもの成長にとって有意義だったとしても、誰が主体となって、子どもたちに体験活動の機会を設けていくのでしょうか?

教育の担い手は、「家庭」「学校」「地域」の三者であるとよく言われます。文部科学省では、体験活動の推進体制として、下記の3点を挙げてきました。

・学校教育における体験活動の推進
・家庭における体験活動
・地域と学校の連携・協働による放課後や土曜日等の学習・体験活動

基本的に教員養成の課程で、体験活動について学ぶことはありません。あくまでも学校教員は、学校内での授業が中心です。学校外で行われる体験活動は、当然として校内よりもリスクを伴うものであり、一定の専門性が必要です。教員の多忙ぶりは、多くのメディアでも報じられており、そもそもの専門外のことを求めること自体が無理な話です。

では、家庭はどうでしょうか?家庭の場合は、経済的な壁(費用)、親の就労形態(時間)の壁があります。

体験活動は、室内での教科学習などに比べ、移動・交通、宿泊、食事、プログラム費用など、様々な金銭的なコストが生じます。「子どもにとって良いことをしているから無料」となることは、ほとんどありません。今でも教育活動というよりは、余暇・レジャーの贅沢品として捉えられていることも多く、あまり支援の対象とは考えられていません。現状は、家庭の「所得格差」=子どもの「体験格差」となっています。

また、共働きやひとり親などで、なかなか子どもと休みを合わせられずに、思うように様々な体験をさせることが出来ないというケースも多々あります。もちろん、金銭的、時間的なコストをかけないでもできる体験はありますが、親の経済的・就労形態などによって、一定の制限が生じていることは間違いありません。

地域は、行政施策でもよく担い手として引き合いに出されることがありますが、家庭や学校に比べて、担い手が不明確であり、責任の所在もわかりません。地域といった時、自治会等の住民組織を指すことが多いように思いますが、全体的に高齢化していたり、人手もかなり限定的であり、一人の方が複数の役職を兼ねてやっていることも珍しくありません。

学校との連携して取り組んでいくためには、橋渡し役のコーディネーターが必要となりますが、学校と地域の双方の状況を熟知している必要があり、無償のボランティアで続くような活動でもありません。

学校、家庭、地域とそれぞれに継続的な教育活動として、子どもの体験を担って推進していくだけの余裕がないことは明らかです。もはや、掛け声や精神論だけで、一定の専門性や様々なコストが生じる体験活動を実施していくことは困難なのです。

子どもの体験を支える「現実的な」仕組みづくりが必要

今後、学校、地域が担っていくことが難しい状況の中、子どもの体験は、より一層、家庭の負担頼みとなっていくと予想されます。時間や経済的なゆとりのある家庭は、「キッズウィーク」などの連休・夏休みなどの長期休暇を上手く活用していくことができますが、どちらか一方、または両方のゆとりがない家庭の子は、子どもの体験できる機会が限定されていきます。

結果として、「体験格差」の開きが大きくなっていきます。文部科学省が「キッズウィーク」の目的としている「家庭及び地域における体験的な学習活動等の円滑な実施及び充実を図ること」とは、異なる状況になっていってしまいます。

海水浴

幼児保育・学童保育と同様に、子どもを預かる形で、様々な体験ができる教育事業に取り組む民間企業やNPOは、すでにいくつもあり、インターネットやメディアから様々な情報を得ることができます。時間的な問題であれば、こういった支援・サービスを活用していくことが必要になってきます。昨今、教育の現場でも子どもに関する事件が繰り返し報じられている中、家庭が選択する際に、事業者側の情報公開や第三者評価・審査なども重要になっています。

経済的な問題に対しては、行政やNPOなどの支援の仕組みが必要です。昨今、進学・受験を支援する教科学習に関する支援は、無料塾や塾代助成など様々な形で行われていますが、体験に関する支援は、公共施設などで時々行われている親子参加のイベントが中心で、まだまだ限られているのが現状だと思います。スポーツや文化活動、自然体験活動など、子どもの体験の担い手となる事業者で使用できるバウチャー(クーポン)を発行することも有意義です。

家族で一緒に体験する機会が増えることは素晴らしいことですが、家族が置かれている状況は多様なのです。家庭の状況に関わらず、長期休みや連休における体験を通じた子どもたちの成長の機会を支えていくための仕組みづくりが急務となっています。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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