スウェーデン

グレタさんを生んだスウェーデンの若者参画社会-なぜ、社会が子ども・若者団体に投資しているのか?

スウェーデンの16歳の環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん。彼女は2018年の夏から登校拒否をし、議会前に座り込む抗議活動を開始しました。たった1人で始めたストライキの元には次第に賛同者が現れ、世界中にムーブメントを引き起こしました。彼女の想いと行動により世界中の若者が立ち上がることになったのは疑いようがありませんが、彼女が育ったスウェーデン社会のあり方から、若者の社会参画について考えていきます。

グレタさんを生んだスウェーデンの若者参画社会(気候変動ストライキの様子/撮影:白石美咲)

世界に広がった一人きりのストライキ

「私たちは、自分たちの行動を褒めてもらうために、路上に連れ出されているわけではありません。私たち子どもは、あなたたちおとなを目覚めさせるためにこれをしているのです。おとなが意見の違いを脇に置き、危機に瀕しているときのように行動し始めるために、これをしているのです。私たち子どもは、希望と夢をとり戻すために、これをしているのです。」

2019年4月、イギリス議会でこうスピーチを締めくくったのは、スウェーデンの16歳の環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんです。2018年の夏から登校拒否をし、議会前に座り込む抗議活動を開始しました。「気候変動のための学校ストライキ (Skolstrejk för Klimatet)」と書かれたプレートを掲げ、一人きりで座り込みを始めた当時は15歳でした。

グレタさんは、2018年の9月のスウェーデンの総選挙まで学校に通わないと決め、政府にパリ協定を守って二酸化炭素排出量の削減に約束してもらうために座り込みを始めました。たった1人で始めたストライキの元には、次第に賛同者が現れ、すぐに数百人を超える規模に膨れ上がりました。中にはわざわざ休みをとり参加をした教員もいました。

その後、彼女は2018年12月にポーランドで開かれた国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)や、2019年1月のスイス・ダボスでの世界経済フォーラムに招待され、そこでの発言やスピーチがさらに注目を集めることになります。

グレタさんの主張に世界中の若者が賛同し各地でストライキが勃発していきます。2018年11月のオーストラリアでは15000人、12月にはスイスで4000人、年明けのベルギーでは12750人、ドイツでは25000人、と徐々に規模が大きくなり、オランダ、アイスランド、ノルウェー、ニュージーランド、デンマーク、フランス、イタリア、イギリス、アメリカ、カナダ、チリへと全世界に活動は広がりました。最終的には全大陸の2000都市で抗議活動が起きました。

世界中のムーブメントの中、グレタさんはメッセージを発し続け、その行動力が評価され、ついにはノーベル平和賞の受賞候補にもなりました。現在では全世界400万人がこのムーブメントに関わったとされています。

彼女の想いと行動によって、世界中の若者が立ち上がることになったのは疑いようがありません。しかし、それでもここまで彼女の行動が世界に広がったことには別の理由がありそうです。その理由をスウェーデン社会のあり方に求めてみましょう。

若者が社会に参画する国、スウェーデン

スウェーデンは北ヨーロッパのスカンディナヴィア半島に位置する国です。人口は約1000万人ですので、日本と比べると小国です。

しかし、最近では家具大手のIKEAや、ファストファッションブランドのH&Mなど国際的に有名な企業の活躍が目立ちます。それだけでなく、北欧は国民の幸福度が高く、環境意識の高い国としても知られています。スウェーデンも例外ではなく、世界幸福度ランキング2019[1]では7位、2019年のSDGs達成度ランキング[2]では2位となっています。

また、スウェーデンは若者が社会参画する国としても知られています。例えば、スウェーデンではほとんどの人が選挙で投票所へ向かいます。2018年の総選挙では投票率は87.2%、若者世代(18〜24歳)の投票率も84.9%でした。また、スウェーデンの若者の状況に関する報告書 Ung Idag 2016[3]によると、16-25歳の若者の45.6%が「住んでいる地域の自分に関連のある問題に影響を与えたいと思う」と答えています。

一般的には投票率が低いと考えられがちな若者の投票率がここまで高いのはなぜなのでしょうか。なぜスウェーデンではグレタさんのような若者が育ち、若者は社会の問題への関心が高いのでしょうか。端的に答えると、スウェーデンには、若者が社会参画する場が多様に存在し、それを応援する若者政策が整備されているからです。

スウェーデンの若者が社会参画する多様なチャンネル

これまでスウェーデンの教育といえば、学校教育や教育施策全般に加えて社会教育の分野では多様な成人教育の機会に注目が集まっていました。

具体的には成人の余暇の時間の営みのひとつである「スタディーサークル(Studiecirklar)」や、18歳以上が通うことができる「民衆大学(folkhögskola)」などです。また、子ども・若者の社会教育を担う余暇リーダー(fritidsledare)や社会教育者(socialpedagog)に関する研究もあります。

しかしスウェーデンは大人の、あるいは大人による教育的な営み以外にも、若者自身が主体となって社会参画する場として「若者団体(ungdomsorganisationer)」が存在します。図1では、スウェーデンの若者が社会参画する機会を可視化してみました。

グレタさんを生んだスウェーデンの若者参画社会(図 1:スウェーデンの若者が社会参画するチャンネル)

子ども(図下)から大人(図上)になる「移行期」にあるスウェーデンの若者は、様々な機会で社会参画をしています。

スウェーデンの学校(図右)には民主主義の価値と知識を伝達する「ミッション(使命)」があります。学校が基本とする価値は、学校全体の運営と組織、教育、その他の会議や活動にも行き渡っていなければいけないとされています[4]。故に、教師は民主主義の守護神(ガーディアン)とも呼ばれています。

そのため、スウェーデンの学校ではあらゆる機会で、生徒が参画する機会があります。例えば、学級会(klassråd)ではクラスの環境について、給食委員会(matråd)ではランチのメニューについて、生徒会(elevråd)では学校全体のことについて生徒が意見を伝え、それが環境の改善に活かされます。何故このようなことをやるかというと、学校は生徒にとって最も身近な社会であり、生徒自身が影響を受ける場だからです。こうして学校で民主主義を教え、実践しています。

図1の左側には学校の反対に「余暇(fritid)」を配置しています。

スウェーデンでは、日本のように放課後の時間におこなわれる部活動やクラブ活動は基本的に、学校の外の時間・空間である「余暇」の範疇にあります。その余暇の時間で若者が過ごすひとつのチャンネルになっているのが「若者団体」です。

地域には、若者が自由に様々な活動ができる余暇センター(fritidsgård)やユースセンター(ungdomsgård)が設置されていますが、このような施設を利用している若者は少数派であり、月に少なくとも一度このような施設を利用している若者は11%しかいません[5]。

若者団体の活動が盛んな理由

スウェーデンでは、若者団体での活動が盛んです。少なくとも1つの若者団体に属する若者の割合は、16-24歳で58%、25-29歳で70% となっており、若い世代だけでも約6〜7割が若者団体に所属しています。ここでいう若者団体とは若い世代によって構成されるフェレーニング(förening:英訳はassociation)のことを指します。

活動分野や属性は様々で、趣味やスポーツに関する団体が3割を占め、他にも文化・芸術、野外活動、節酒など活動によって特徴づけられる団体、宗教や民族的な属性に特徴づけられる団体、あるいは障がいや環境などのテーマによって特徴づけられる団体まで多岐にわたります。

さらに若者の利益を代表して若者の声を届ける「圧力団体」として政党の青年部や、生徒会の全国連盟、さらに各地の地域を拠点とする若者協議会の全国連盟なども存在します。

これらの若者団体は国や地方自治体の助成金を資金として活動を展開しています。2014年には条件を満たした全国の100以上の子ども・若者団体及び市民団体へ、約30億円が国から助成金として割り当てられました。団体は、その資金で専従の職員を雇ったり、組織開発やリーダーシップの研修をしたり、キャンペーンを実施したり、事務所を借りることができます。こうして、活動を持続的に運営しながらも、一定の社会的なインパクトを伴いながら継続することが可能となっています。

日本には、国立青少年教育振興機構による子どもの体験活動に助成をする「子ども夢基金」がありますが、交付額はおおよそ15億円規模[6]です。スウェーデンは、日本の人口の10分の1程度の人口にもかかわらず、子ども・若者の活動への国から助成金が日本の約2倍です。なぜこれほどスウェーデンでは子ども・若者団体に社会が投資しているのでしょうか?

子どもの意見表明権を確保するということ

それはスウェーデンの社会において、子ども・若者が社会の発展に必要不可欠であるという認識があるからといえるでしょう。スウェーデンは1990年に子どもの権利条約を批准し、条約に則り国の機関として子どもオンブズマン(Barnombudsmannen)を1993年に設置し、強い権限を与えました。

子どもの権利条約第12条では「子どもの意見表明権の確保」が明記されていますが、スウェーデンは徹底的にこれを保障するために、あらゆる措置を講じていることがわかります。2020年1月には、子どもの権利条約はスウェーデンの法律になりました。助成金の額の規模には、社会の若者に投じる「覚悟」が現れています。

また、子どもの権利条約よりも長い歴史のある現在のスウェーデンの若者政策では、若者が社会に影響を与られるようになることが理念として位置付けられ、若者団体こそがスウェーデン社会が根づかんとする民主主義を担っているとされています。

「若者は社会の問題ではなく、社会のリソース(資源)である」というスウェーデンの若者政策の認識は、保護の対象ではなく、子ども・若者が社会参画をし、今の、そしてこれからの社会をつくる権利の主体としての社会や大人からの「信任」の現れと考えることができます。それを若者も感じられるから、若者も安心して意見を発し、行動に移すことができ、選挙でも投票するのではないでしょうか。

グレタさんがたった一人で国会前に「座り込む」という意見表明ができたのは、彼女自身の家族や大人、スウェーデン社会に対する「信頼」抜きには成り立たなかったでしょう。若者の声が社会に響くことが、尊いとされる社会をつくるために、私たちができることは何でしょうか。

<注釈>
[1] Helliwell, J., Layard, R., & Sachs, J. (2019). World Happiness Report 2019, New York: Sustainable Development Solutions Network.
[2] Sachs, J., Schmidt-Traub, G., Kroll, C., Lafortune, G., Fuller, G. (2019): Sustainable Development Report 2019. New York: Bertelsmann Stiftung and Sustainable Development Solutions Network (SDSN).
[3] Sjö, Fabian, とIngrid Bohlin. 「Ung idag 2016」. Myndigheten för ungdoms- och civilsamhällesfrågor, 2016年4月15日.https://www.mucf.se/publikationer/ung-idag-2016.
[4] Skolverket (2013b). Förskolans och • skolans värdegrund – förhå llningssätt, verktyg och metoder. Stödmaterial. Stockholm: Skolverket.
[5] Fokus 10: en analys av ungas inflytande. Ungdomsstyrelsens skrifter, 2010:10. Stockholm: Ungdomsstyrelsen, 2010年.http://www.mucf.se/publikationer/fokus-10-om-ungas-inflytande.
[6] 国立青少年教育振興機構. 「令和2年度子どもゆめ基金助成金申請・採択状況|審査情報」. 子ども夢基金, 2020年4月.

※この記事は、日本子どもを守る会から転載の許諾を受け、「子ども白書2020」の一部を転載したものです。

Author:両角達平
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の研究機関と大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。著書に「若者からはじまる民主主義-スウェーデンの若者政策」。

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