中等教育高等教育

高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?-通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと③

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

2014年2月27日に”ひみつ基地会議Vol.2「高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?~通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと~」”を開催しました。

今回のセミナーでは、関西圏を中心に大学・専門学校での中退予防や不登校経験が多い通信制高校の高校生にキャリア教育に取り組んでいるNPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、高校生が大学生と一緒に授業を受け、普段の大学を体験する「WEEKDAY CAMPUS VISIT」のプログラムの企画・推進を行っているNPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏にご登壇いただき、その実情と解決方法を議論しました。

そのときの全文書き起こしを3回に渡ってレポートいたします。(第一回目の記事、第二回目の記事)なお、本書き起こしは、プロブロガー(イケハヤ書店)・「ビッグイシュー・オンライン」の編集長のイケダハヤト氏のご協力に頂きました。

ディスカッション:中退は自己責任なのか?

岩切:ではディスカッションを始めていきます。今回のイベントは「本 人の問題なんですか?」というタイトルにさせていただきました。二人に聞くと「そうじゃない」で終わると思いますが、世論的に言えば「決めたのはお前じゃ ないか」というのが実際だと思います。また、お二人の中でも自己責任の部分はゼロではないと思います。

どれくらい個人の責任で、どれくらいが社会環境に責任があるのか。白か黒かではなく、責任の割合はどれくらいだと思うかを教えてください。

今井:僕の場合は通信制高校に関わっているので、そこに関してだけ言うと、正直彼らは悪くはないと思います。仕組みが8割、本人が2割くらいでしょうか。

通信制高校は先生も頑張っている方が多いんですが、仕組みとして生徒と関わる機会が少ないんですよね。生徒と担任の割合が80対1なんて場合もあります。しかも学校に通うわけでもない。これでは生徒へ丁寧なフォローをすることは難しいです。

仕組みに問題がありますよね。進学・就職だけではなく、生徒が次のステップにいけるきっかけがないんですよ。先生、親以外の存在や居場所がない。仕組みの方が問題だと思っているので、網のように色々な人を配置して掬い上げるようにしています。

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

岩切:自分も子どもを見てきましたが、80対1は「無理ゲー」ですね。

今井:相当しんどいと思います。

岩切:仕組みにそもそも無理があるんじゃないかな、ということですね。

今井:ネガティブなことを語っていますが、通信制高校はある種、新しい可能性があるとも思っているんです。学校に通わないでいいので様々な体験ができるんですよ。しかし、潜在的にニートになる層が多いのでそこは危機感があります。

岩切:インターンするまで学校に行かない時間は家にいるんですか?スポーツや芸能活動に打ち込む子は少ないですか?

今井:少ないですね。通信だと1〜2%はスーパーマンがいるんですよ。サッカーの香川さんみたいな。彼は通信です。あとはスノーボードの角野さんも通信制高校です。でも、ほとんどはしんどい子で、ほとんど何もしていない子が大半ですね。

高校生に見せられない授業をする大学

岩切:川原さんの場合は、自己責任についてどうでしょう。一般的には「自分で決めたんだろう」ということが多いと思いますが。

川原:本人の理由は3割くらいだと思いますね。大学を選ぶときに考えておくという点で。2割は周りの大人、保護者や高校の先生。大人がちゃんと考えさせて欲しいです。
5割は大学の問題だと見ていて思います。大学は研究機関であって教授は研究者である、とお考えの方も多いですし、教育機関としてどうかという見方をしていないです。ひどい授業、ひどい先生、ひどい大学もあるんですよね。

<会場笑>

川原:もちろん、ちゃんと教育に力を入れて熱心にやっている大学もありますが、学費に見合う教育効果が得られる学校が日本にどのくらいあるのかと考えると…大学が半分以上悪いなと思いますね。

岩切:奨学金の話が話題になっています。ローンを組んで、川原さんの指摘するような質の悪い大学にいくのはしんどい状況ですよね。

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

川原:WEEKDAY CAMPUS VISITを大学さんにお願いすると「授業を見せられない」と言われて断られることもあります。

AO入試も話題になりますが、入試の段階で問われない学力を授業で問われることがあります。教師が目の前の学生を見て授業が出来ていないのなら、本人の問題だけではないなと思います。

先生向けの研修もやっていますが、授業を観に行っても、生徒たちがみんな寝ているか喋っているかで、マイクで大きい声で話さないと届かないような授業もあった、という話も聞きます。

岩切:今まで大学では教員向けの研修はされていないことが当たり前だったんでしょうか。

川原:教員向けの研修自体は2008年から文科省で義務化されたのですが、形骸化している大学も少なくありません。

岩切:ちゃんとやっているのはどのくらいの割合でしょう?

川原:感覚的には数%かと思います。ただ、フォローすると、良い教育 をやっていても学生が集まらないマーケットだったんですね。予算を駅近、都心のキャンパスにすることに割いて受験生を集めていました。先生たちの教育研修 に予算を割いても生徒が集まらなかった、という背景もあります。

岩切:進路を決定するためのモノサシをつくるために何が足りないですかね?

川原:何かに熱中した経験かな、と思います。何をやりたいか、将来どうしたいか、自分は何が好きで何が嫌いで何が得意で何が不得意か、というのは何かに熱中した経験がないと見えてこないので、それは前段階で踏んでいかないと難しいと思います。

学校教員だけではなく、多層的に生徒を支える仕組みが必要

今井:そもそも高校段階でそういった経験が作られていないんですよね。学校に仕組みがないんです。ただ、学校だけが悪いのではなく、僕らが求めすぎているというのもあると思います。

教員の問題を言うときによく「先生が悪い」という論調がありますが、学校の先生にすべてを期待し過ぎだと思います。DxPが社会人を投入しているのは、多 層的に生徒を支える仕組みが必要だと考えているからなんです。先生にしかできないことも多くあると思いますし、多くの生徒は先生によって救われるかもしれ ません。ただ一部で先生と合わない生徒っていますよね。

たとえば、僕ってどういう生徒から嫌われると思います?
僕はうるさいから、静かなタイプの女の子から嫌われます。DxPが「生徒10:先生8」という構成にしているのは、それだけいれば誰かひとりの大人とは趣味があって話があう、という状況をつくるためです。

定時制とかだと学校の先生と彼らの体験がずれまくりで合わない、というのが多いです。生徒との共通の体験がないので。DxPのコンポーザーがなぜ彼らに教 えられるかと言うと、ひきこもり、不登校という体験があるからなんです。このように、生徒層によっては仕組みが必要だと思います。

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

岩切:川原さんは、前職で新卒採用のコンサルティングにも携わっていらしたそうですが、進路決定というところで、高校から大学に進路を決定する力と、就職活動の力は同じですかね。

川原:まったく同じだと思いますね。自分が何に時間を使うのかという 選択って、幼少期は色々なことに興味をもって熱中するということでいいと思うんですが、あとは仮説を立てて動いてみるということだと思うんです。ミスマッ チはゼロになりませんが、何を目標にして、どんな意図でこの環境を選んだのか、という体験が繰り返されて選択する力が磨かれていくと思っています。

岩切:学校の話も出ていましたが、私も学校の評議員を8年やっていま す。当然、学校教員が出来ることにも限界があります。今日は民間企業の方がたくさんお申込み頂いたことにとても驚いています。学校の先生以外の人は、子ど もたちにどうやってサポート、支援を提供できるのでしょうか。

今井:それは非常に難しい質問で…学校現場に関わることって、民間からするとハードルが高いじゃないですか。それをうちは作ろうと思っていて、1つのモデルを作ろうとしているんです。

学校の先生は「教えるプロ」であって欲しいですが、総合学習はうちが担当しますと、役割分担しているんです。学力は先生たちに教えて頂き、総合学習は地域 の人たち、民間がセットになって支えていく。特に定時制や通信制は。そうすることによって進学、就職に結びつけるという制度作りが、高校段階から必要じゃ ないかと思っています。

岩切:インターンがだいぶ一般化されましたが、その状況を見ると、 「1dayインターン」みたいな、「それインターンなのか!」とツッコミたくなるものもありますが、本当にインターンは大学生たちを育てていくことに繋が るのでしょうか。学校以外での成長の場というのは、どういう場があると思いますか?

川原:インターンシップにどういった教育効果があるかについては、学 校現場が関わって作っていかないと、企業側に都合のいいものになってしまうのは仕方がないとも思っています。教育的観点をもって、学校の先生方が民間の企 業や社会人の方と仕組みを作っていく必要があるでしょう。これが大学生向けでも高校生向けでも必要だと思っています。

今井:教育的観点のないプログラムは意味がないので、気をつけるべきだと思いますね。

川原:私たちも総合学習で取り入れていただくことがあるんですが、先生は脚本家であり演出家で、それ以外の人間はアクターだという話があって、それは凄く納得がいきます。先生は演出家であることを意識してプログラムを作るということが大事かなと感じています。

NPO法人夢職人の岩切準氏

岩切:そろそろお時間ですので、まとめに入らせていただきますが、私はまずアクションを起こすことが第一だと思っています。民間企業、NPO、教員、関係ありません。大事なのは、子どもたちが希望を見出すことを大人がサポートすることだと思います。
皆さん、是非、自分に出来るアクションをお願いします。今日はありがとうございました!

今井・川原:ありがとうございました。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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