中等教育高等教育

高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?-通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと①

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

2014年2月27日に行われた”ひみつ基地会議Vol.2「高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?~通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと~」”を開催しました。

今回のセミナーでは、関西圏を中心に大学・専門学校での中退予防や不登校経験が多い通信制高校の高校生にキャリア教育に取り組んでいるNPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、高校生が大学生と一緒に授業を受け、普段の大学を体験する「WEEKDAY CAMPUS VISIT」のプログラムの企画・推進を行っているNPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏にご登壇いただき、その実情を伺い、その解決方法を議論しました。

そのときの全文書き起こしを3回に渡ってレポートいたします。なお、本書き起こしは、プロブロガー(イケハヤ書店)・「ビッグイシュー・オンライン」の編集長のイケダハヤト氏のご協力に頂きました。

岩切:定刻になりましたので始めて参りたいと思います。みなさんこんばんは。お忙しいなかお集りいただきありがとうございます。マニアックな内容で定員30人くらいを考えていたのですが、蓋を開けてみると50人位申し込みがあって驚いています。

自己紹介が遅れましたが「夢職人」という団体をやっている岩切と申します。10年前から子どもたちの学校外の多様な体験活動を推進するNPOをやっています。

活動に取り組む中で、様々な困難を抱える子ども達と出会うようになりました。多種多様な問題や原因があり、一つの団体でできることにも限界があるなと感じておりました。

そういった問題意識があり、昨年から教育関係のNPOの方と共同で情報発信をする「ひみつ基地」というウェブマガジンを始めました。ライターになってくださっている方々は20名ほどおりまして、それぞれ子どもの諸問題に取り組む専門家です。本日登壇していただいている今井さんにも、川原さんにも記事を書いていただいています。

この場には政治家の方、官庁の方、メディアの方、実際にお子さんが不登校で悩まれている方、色々な方がいらしています。バックグラウンドは違いますが目指すところは似ていると思いますので、皆さんと有意義な時間をつくっていきたいと思っています。

はじめにお二人に20分ほどお話をいただき、高校と大学の中 退問題と解決のアプローチについて、理解を深めていきたいと思います。まず始めに今井さん、活動紹介と自己紹介をお願いします。

2人に1人は進学も就職もしない、通信制高校

今井:みなさんこんにちは、NPO法人D×P(ディーピー)の今井です。大阪からやってきたんですが、大阪は高校の中退率が全国的に最も高いといわれているところです。D×Pは通信制高校、定時制高校で授業をしていますが、今日は特に通信制高校で行っている事業と現状について、お話したいと思います。

D×Pは4人でやっている二期目のNPOですが、通信制高校で実施している授業が注目を集めています。通信制高校の仕組みを知っている方はいらっしゃいますか?

(会場から手が挙がらず)

名前は知っていても、仕組みは知らないですよね。通信制高校に通う生徒は約19万人いて、少子化の中、生徒数は増加しています。では、どんな生徒がいるのか。一般的には、勤労学生というイメージがあるかもしれません。

ところが今は違うんですね。通信制に通っている約19万人のうち、7割が一度学校を辞めた生徒で、4割が中学校までに不登校経験をした方です。学校によっては9割近い不登校経験者を抱えています。この数は増え続けてきており、来年度で230校になると言われます。学校基本調査では、通う生徒のうち2人に1人は進学も就職もしない、という現状が出ています。

DxPはそういった課題に着目して、ニートにならないためにキャリア教育の事業を始めている若いNPOです。関西から少しずつ事業を拡げており、ソーシャルビジネスコンペなどでも賞をいただいたりしています。

なぜこの仕事を始めたかというと、自分自身が対人恐怖症だった経験があるからです。引きこもった時期、ニートを経験した時期があって、就職と同時にD×Pの前進となる団体を立ち上げました。

なんとか若者のために何かできないか。一般企業に勤めながら学校にいってヒアリングをしたり、授業をやったりしました。そのときに、たまたま通信制高校の生徒と出会ったんです。話を聞くと、彼らは周りから否定された経験が強いんですね。親から、学校の先生から、友人から…僕と経験が似ていて。

一方で、通信制高校の課題解決はなかなか進んでおらず、先生たちも「自分たちはニートを生み出しているのではないか」と辛い思いをしていたようなので、だったら自分が何か出来ないか、とこの事業を始めました。

さて、通信制高校はどういうところにあると思いますか? 実は、この会場のような「ビル」の一室に学校があります。そこにキャンパスがあって、週に二回とか月に二回通うなど、様々な形態の学校があります。

が、場合によっては年に数回、またはほとんど通わないでいい、という学校もあります。「年に数回のスクーリングやレポート提出で校舎に通うことなく高校の卒業資格が取れる」のが通信制高校なんですね。

2人に1人が進学も就職もしないという進路未決定者の中からニートが出ていると言われています。定時制高校のほうがしんどいと思われがちですが、そこよりも進路未決定率が高いのが通信制高校です。

どういうところが違うか。全日制、定時制は毎日通わないとダメですよね。通信制高校は通う形態もあります。5日通うところもありますがそれは少数で、実際はほとんど通わずに単位が取れてしまいます。レポートとスクーリング(通学)で単位が取れます。

定時制高校は公立高校がほとんどです。通信制は私立が半分以上です。定時制高校は県とか都がトレーニングやサービスを提供しますが、通信制高校はそれが無いのが現状です。

進路未決定の理由と、DxPのソリューション

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏

今井:進路未決定者のヒアリングをすると、「尊敬できる大人に会えず、大学に行きたいと思えなかった」と話していました。進路未決定の理由として、見えてきたことがあります。

1つは「社会関係資本の欠如」。人とのつながりです。通信制高校の生徒になったことをイメージしてみてください。あなたは不登校になりました。まだ中学生です。「高卒資格くらいとっておきなさい」と言われて、通信制高校に行きました。そういう前提で学校にほとんど行かなくても進学や就職に結びつきますか?よっぽど行動力がないとつながりがないので難しいですよね。

2つめは「成功体験の欠如」。不登校であったり、サークルに通っていなかったり、自分に自信を持つ機会が少ないのが一般的な通信制高校の生徒像です。

DxPの独自のプログラムに「クレッシェンド」というものがあります。通信制高校4校と提携して、延べ120名の生徒が受講しています。これは授業を受けると単位になることが特徴で、日本でも特殊な授業の形態です。

クレッシェンドの目的はただひとつ。「できない」から「やってみたい」に変える。ここまでもっていくのが目的です。実際、DxPの授業を通して、9割の生徒がやってみたい、と感じられる状況まで持っていけています。

「クレッシェンド」は3ヶ月に4回の授業で、生徒10人に対してスタッフ含めて8名の社会人・学生(「コンポーザー」)がつきます。そうして、主に社会人から体験談を語る授業になっています。18歳から39歳の社会人、80名くらいがコンポーザーとして登録して、長期的に関わりながら生徒たちを支援してい ます。

コンポーザーについてですが、まず面談を受けないとコンポーザーになれません。面談では、不登校の経験を持った方々を中心に、失敗経験をして、そこからどのようにして生きているか、という話をしてもらいます。

この授業では、意欲的に「やってみたい」という状況まで持っていき、さらに「できた!」までつくるためのチャレンジプログラム「フォルテッシモ」も持っています。この4回のなかで生徒たちとの関係性ができて、「挑戦してみる?」と誘うことができるようになって、生徒のモチベーションも高まっています。今年度は50人くらい参加しています。

「フォルテッシモ」では企業インターンの人気があって、進学や就職につながるきっかけになっています。インターンは通信制高校の特色である「学校に通わなくてもいい」という利点を生かしています。たとえば、島根県の海士町までインターンに行きます。あとは、大阪や京都の会社さんと提携して3ヶ月間、5ヶ月間といった長期間の挑戦ができるようにしています。

ちなみに、通信制高校の生徒はアート系に親和性が高い子がなぜか多いです。自分たちでアート展、写真展を企画させて、実際にイベントをやってもらって、勝手にフォトブックも出版しました。このフォトブックは250冊売れましたが、自主制作・自主編集になっています。ほかにもPC研修講座もやっており、ゲーム好きな子たちが制作会社に行くような道になっています。

DxPのこれから:定時制高校にも授業を提供

今井:体験者の生徒はこんな風にプログラムのことを語ってくれました。

「中学校時代に不登校になったんですが、話すことも苦手で、自分の好きなリズムで生活できるということで通信制高校を選びました。(クレッシェンドの)第一回目を終えた瞬間に世界が180度変わったような気分でした。大人の人に理解してもらえることはないと思っていたので、周りが大人ばかりで不安だったけれど、そのプログラムの中で話をしていくうちに、自分は高校生で、通信制高校の生徒という立場と大人の人たちの立場は変わらない。何の隔たりもないということを教えてもらいました。」

D×Pのこれからですが、来年に京都と大阪の定時制高校でクレッシェンドを応用した授業が始まります。定時制高校も課題が多いんですよね。進路未決定率が35%です。これは「卒業する時点」での進路未決定率で中退者は含んでいません。定時制の中退率の実態は40%くらいだと考えられます。

ざっくり、半分の生徒が中退しているわけです。生活保護家庭率、一人親家庭率も高く、学校によっては5割に達することもあります。

定時制高校にもしんどい子がいるんですね。そこに総合学習で8回から10回、イメージとしては半分くらいの授業を請け負って、クレッシェンドの応用バージョンをやっていきます。

地域の資源、人たちと協力して事業を運営していく。そうすることで、夜間の生徒たちに「できない」から「やってみたい」という気持ちを持ってもらいたいと考えています。大阪と京都でモデルケースとして作っていきたいと感じています。

寄付は若者への「投資」である

今井:うちは学校さんからの事業収入もありますが、企業のインターン、プロジェクトは寄付でやっています。ここは若者への投資だと思ってやっていただきたいんです。行政は予算が減っていきます。日本は借金が90兆円で税収が40兆円なので、若者支援の予算も減らざるを得ないので、民間の力で少しずつ問題解決していく必要があります。

寄付という行為は意思表示であり、投資なんです。僕自身もいくつかの団体に投資として寄付をしています。そういう風に考えていただけたら、非常に嬉しく思います。

最後になりますが、私たちのビジョンのゴールは「一人ひとりの若者が自分の将来に希望を持てる社会」です。どんな状況でも希望を描けるのが大切で、それを皆さんと作っていくことが大切だと考えています。

今の若者を自己責任論で潰さないで、支える仕組みを作るんだというところで、皆さんと仕事ができればな、と思っています。ありがとうございました。

なぜ、通信制高校が増えている?

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏

岩切:質問をしたいのですが、少子化が進むなかで、どうして通信制高校は増加しているんですか?普通に考えると減りそうなものですが。

今井:学校数も生徒数も増えています。構造改革がありまして、今は株式会社でも高校を作れるんです。たとえば、トヨタが学校を作った例で、全寮制の海陽学園がありますよね。あれは株式会社立です。そうした構造改革で、学校数が増えています。

生徒数でいうと、いくつか要因があるなかで考えられるのは、一般的な学校に合っていない生徒が出てきているんじゃないかな、と。情報も価値観も多様化しているなかで、通信制高校は自分のリズムで通えて、カリキュラムもバリエーションもあって生徒のニーズに合っていて選ばれやすいというのがあるのかなと思い ます。

岩切:ありがとうございます。この後は、もう少し上の年齢の大学生について。大学をミスマッチで中退する人が増えているというので、次はそのテーマについて川原さんからお話をいただきます。それでは川原さん、お願いします。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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