中等教育高等教育

高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?-通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと②

NPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

2014年2月27日に行われた”ひみつ基地会議Vol.2「高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?~通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと~」”を開催しました。

今回のセミナーでは、関西圏を中心に大学・専門学校での中退予防や不登校経験が多い通信制高校の高校生にキャリア教育に取り組んでいるNPO法人D×P共同代表の今井紀明氏、高校生が大学生と一緒に授業を受け、普段の大学を体験する「WEEKDAY CAMPUS VISIT」のプログラムの企画・推進を行っているNPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏にご登壇いただき、その実情を伺い、その解決方法を議論しました。

そのときの全文書き起こしを3回に渡ってレポートいたします。なお、本書き起こしは、プロブロガー(イケハヤ書店)・「ビッグイシュー・オンライン」の編集長のイケダハヤト氏のご協力に頂きました。

大学がもし100人の村だったら

川原:今 井さんとバトンタッチして、大学ミスマッチの話をさせていただきます。自己紹介としては、出身は熊本で小中高と公立で、東京の大学を出ています。卒業後は人事コンサルの会社で企業の人事の方と新卒採用の企画の仕事をしてきて、今はNEWVERYで高校生向けの進路発見プログラムの企画、運営をしています。

これからお話する中には3つポイントがあって、1つは大学中退の現状。2つ目はなぜそういったことが起きてしまうのか、最後に対策として私たちが何をやっているかをお話いたします。

先ほどからも中退の話が続いていますが、大学がもし100人の村であったら、というかたちで紹介しようと思います。

早速ですが、卒業までに約1割の12人が中退します。
ほかの13人が留年をします。
留年せずに卒業するのは75人です。
さらに、75人のうち卒業後に進学するのが9人。
就職できなくて進学している人もいるでしょう。
卒業は出来ても、就職出来ない人が21人もいます。
留年せずに卒業して、ストレートに就職するのは45人。
さらに、就職出来た45人のうち14人は3年以内に辞めていきます。

つまり、大学・短大・専門学校に入って、3年以上会社に入って勤めるというのは3割くらいしかいないのが現状です。もちろん留年、中退が悪いことかというと、必ずしもそうではないのですが、当たり前だと思っていることが実は3割であること、結構レアなケースであることを知ってもらいたいと思います。

大学中退は最近ニュースになっていて、文科省も調査を始めています。中退者の5割程度が非正規雇用のいわゆるフリーター、14%が無職という状態です。

中退対策が着目されていなかったのは「大学生にまでなって中退するというのは自分で選んだんでしょ」というイメージがあるからだと思われます。ですが、高等教育の社会的役割は変化しています。20年くらい前は、高校の中でも成績上位の意欲がある学生だけが進学していたところが、今は多様な学生が入学し、従来の授業のやり方ではついていけない、という大学生が出てきています。

スタートラインが下がってきている一方で、社会の仕事は高度化しています。コンピュータや機械に仕事を奪われる時代が来ており、機械化できない仕事が社会で求められています。スタートが低く、ゴールは高い。そうした学生たちを4年間、ないし2年間で成長させないといけなくなっている、というのが大学の現状です。

大学を中退する理由

NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクターの川原祥子氏

川原:なぜ辞めていってしまうのかというところでは、まず入試があって、新入生はカリキュラムや学習環境、生活環境に取り込まれて卒業していくという流れがあります。そのなかで逸脱したり不適応になってしまう学生が増えています。もう少しこの不適応、逸脱について話すと、私どもは色々とインタビューをしていて、大きく次の三つがあると思っています。

1つはカリキュラムとのミスマッチ。端的に言ってしまえば、やりたいことと違ったということですね。よくあるのが心理学部で「人へのカウンセリングを学びたい」と思って入学してみたら、「統計的なアプローチで数学の要素が強くてついていけなくなった」というのがあります。

あとは学習環境とのミスマッチ。学校の中で双方向のプログラムが普及していますが、それが合っている人もいますし、合っていない人もいます。授業自体に学力がついていかないという状況もあります。

最後に生活環境とのミスマッチ。友達が作れないだったり、一人暮らしをして、夜にネットにハマって昼夜逆転して学校に行けなくなる、というケースは多く見聞きしています。

中退者の7割は、1年生のうちにいずれか、または複合的な理由を経験して中退していきます。つまずきを感じる生徒のうち、5割が1年生の前期に経験しているということがわかっています。

大学というのは、高校などに比べて簡単に辞めてしまうんです。大学を中退しても何とかなるんじゃないか、こんな大学で学び続けていても無駄だ、ということで簡単に辞めてしまう、と。しかし、日本の社会は中退者をネガティブな面で捉えることがあるので、就職的に不利になることもあります。

日本の学士号の種類は679個

川原:ミスマッチがなぜ起きるかという点で、みなさんに質問があります。

今は大学の数、学部学科の種類も増えています。なんとかデザイン学部、環境なんとか学部が出来ていると思った方もいると思います。今、日本に学士号の種類、何種類くらいあるかご存知の方いらっしゃいますか?

679種類です。しかも、2011年の調査です。そして、その約6割が1つの大学にしかないオンリーワンの学士です。学生募集のためにオンリーワンの学部ですよ、とアピールしているわけですね。高校生が進学において重視する項目は「学びたい学部学科コースがある」が75.6%。でも、本当に選べているのでしょうか。

高校の進路指導の現場は「心理学に興味があります」「お前の成績ならA大学の心理学科は狙えるぞ」「がんばります」、以上、という流れです。実際には「それはいいな。人の心を学んで将来はそれをどう使いたいんだ?」という教師からの問いかけなどで深く会話をすることが大切です。

心理学部に行きたいと語る学生が「人の心理を勉強して新しい商品を作りたい」というなら、マーケティングを学ぶべきかもしれません。「うつ病に悩む人を助けたい」なら、医学部の精神医学かもしれません。「子どもたちの心理を学んで教育に活かしたい」のなら教育心理学かもしれません。こういったことを指導していないのが大学選びの現状だと思っています。

バラ色の学生生活を見せる大学広報

川原:大手の予備校の調査だと、大学に入学してミスマッチを感じ、一度中退し、別に大学に再入学する人は年間3万8000人います。

「ちゃんと選べよ」と高校生に言ったところで、大学のパンフレットにはだいたい同じことが書いてありますよね。「就職率が良い」「資格が取れる」「教養を大事にしています」「英語力がつきます」などなど。

オープンキャンパスの4大がっかりは、
「入試と就職の話しか聞けない」
「パンフレット以上のことは分からない」
「模擬授業を見ても他大学との違いが分からない」
「普段の雰囲気とはまったく違う」です。

大学関係者に怒られそうですが、オープンキャンパスはバラ色の大学生活を見せて「楽しそうな大学だな」という印象を抱かせてしまう、ただの「お祭り」じゃないかという問題意識を感じています。

そういった情報しか与えられないので、「たくさん資格が取れる」「パンフレットがきれい」「偏差値が高い」「オープ ンキャンパスが活気ある」「学部名がかっこいい」といった表面的な理由で大学を選択してしまうのが現状です。

やるべきこととして、自分の進路について考えるきっかけを高校生に提供したい、そして各大学学部の内容を深く理解し、マッチングを図ろうとしています。

WEEKDAY CAMPUS VISIT

もっと深く大学を選べる「WEEKDAY CAMPUS VISIT」

川原:私たちのプログラムについてもご紹介していきます。 NEWVERYは、高・大接続以外にも大学向け事業をやっています。1つは中退予防のコンサルティングです。次に大学の教員向けの研修もやっています。中退の対策に加えて、授業そのものを良くしていかないとね、ということです。

そして、WEEKDAY CAMPUS VISITという大学選びのプログラム、直近では大学生向けの学生寮もオープンしようとしています。教養を育むのは大学で、人間性を育むのは学生寮だと思っているんです。

大学選びの部分に着目しているWEEKDAY CAMPUS VISIT(ウィークデー・キャンパス・ビジット)についてお話します。

オープンキャンパスでは分からない大学の雰囲気や大学の選び方を学んでほしいということでこのプログラムをやっています。これについては、去年の11月にNHKでも特集していただきました。

WEEKDAY CAMPUS VISITは、高校生が無料で参加できます。特徴としては「普段の大学の授業を受けてもらう」という点になります。高校生 のために用意された模擬授業は高校生向けに身近なテーマになっていたりして、入学後とは違うんですね。高校生が、普段大学生がどういう様子で授業を受けているかを見られる、というのも重要です。

もうひとつの特徴は、高校生向けにガイダンスと振り返りのワークをやります。表面的な見方ではなく、自分は今日はどんなポイントを見るのか、先輩たちの様子を見てどんな気付きがあったのかを話すグループワークを前後にやっています。

「東京の大学で、資格が取れて、英語に力を入れている偏差値55の大学」と、「少人数授業で、キャンパスが充実した地方の偏差値50の大学」があったとき に、偏差値だけで決めるのではなく、自分のモノサシで大学を選ぶようになってほしいと考えています。

これは就職活動においても同じことだと思います。大企業が良い、上場企業がいい、中小がいい、これもモノサシの話です。大学選びの時点でモノサシがあれば、就職時にもうまく選んでいけるのかな、と思っています。

参加した大学生の声としては、「少人数の授業を見て大学のイメージと違って驚きました」「自分の努力やふるまいによって大学生活の充実度は変動すると実感した」「同じように授業を受けていると、あまり身に付かないと感じた」などの声があります。

このプログラムは2013年度に本格展開を始めました。去年は21校。来年度は100大学を目標にしています。全国の大学で実施していきます。 WEEKDAY CAMPUS VISITは、場を提供する大学さん、プログラムを開発する私たち、そして前後のフォローをしていただく高校の先生方、そういったネットワークとして機能しています。

最終的には全国で展開していって、今のようなブランドや知名度や偏差値ではなく、教育や研究の中身で大学が競い評価される時代をつくります。それなくしては、本当に教育をやっている大学が生き残れない状況になってしまいます。適切な市場原理が働くようにしていきたいと思っています。

高校中退・大学ミスマッチは、本人だけの問題なんですか?~通信制高校と進路選択・指導の現場から考える本当に必要なこと~

岩切:WEEKDAY CAMPUS VISITは、同じようなことを普通に大学独自でやっていてもおかしくないと思ったんですが、大学自身でこれまでやらなかった理由はあるんでしょうか?

川原:大学独自ではやっているところはありました。が、ほとんどは授業を公開するだけで、前後のプログラムがなかったんです。あとは、どんな大学でも不真面目な学生はいるので、表面的なネガティブな印象を持って帰ってしまってうまくいかなかったというのが現状だと思います。

岩切:ありがとうございます。ここで5分ほど休憩を取ったあと、ディスカッションに入りたいと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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