ホームスクールアメリカ

日本で広がるか?家庭で学習するホームスクールとは(前編)-全州の法律で認め、支援団体が多数あるアメリカ

不登校の子どもたちの支援を進めることを目的にした「教育機会確保法」が2016年12月に成立しました。当初の法案では、フリースクールや自宅での学習といった学校以外の学習も義務教育として認めることが盛り込まれていましたが、国会の審議の中で削除されました。

子どもたちの多様な学びのあり方について考えるため、学校と学校外の学びを組み合わせた教育を実践している松浦真さん、智子さんが行っている「ハイブリッドスクーリング報告会」にお伺いしました。

今回は、実際にご自身でホームスクールを実践され、ホームスクールを行う家庭を支援する協会の理事を務められている北本貴子さん、サイエンスライターとしてメディアでも活躍され、フリースクールの「YES International School」の運営に取り組まれている竹内薫さんよりお話をお伺いしました。

前編では、北本さんより日本やアメリカでのホームスクールの現状、竹内さんの新たな取り組みに至るまでの経緯を伺いました。

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)、竹内薫さん(YES International School・学校長)

北本貴子さん:ラナンキュラス(株)代表、みらいの学校・代表、NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事、デザイナー。3人の子どもの子育て中。現在、長男と次女がホームスクールに取り組んでいる。

竹内薫さん:サイエンス作家。理学博士。物理学の解説書や科学評論を中心に100冊あまりの著作物を発刊。長年、テレビやラジオでも司会やコメンテーターを務める。2016年4月に、日本語、英語、そしてプログラミング言語で教えるトライリンガル教育のフリースクール「YES International School」をはじめる。

ホームスクールには、様々なスタイルがある

北本さん
最初にホームスクールについて、簡単にご説明したいと思います。

ホームスクールとは、「学校に通わずに、時には学校に通いながら、家庭で学習するスタイル」を言います。ホームエデュケーションと呼ばれることもあります。一言でホームスクールといっても、家庭によってスタイルは千差万別です。

元々は、アメリカのような国土が広く、物理的に学校に通うことが難しい子どもたちが、家庭で学校のことやる「スクールアットホーム」(school at home)が原型だと言われています。親が先生となって、教科書やカリキュラムは学校のものを使って、家で教育を受けるという形式です。

類似した形式で、学校のカリキュラムではないけれど、特定のことについて通信教材やeラーニングで学ぶ「ラーニングアットホーム」(learning at home)という形式もありますが、違いはそこまで明確ではなく、区別している人もあまりいないかもしれません。

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)

ホームスクーリング運動を創始したジョン・ホルトが提唱した「アンスクーリング」(Unschooling)という学び方もあります。子どもの興味や自主性に基づいて行うもので、子どもは生活や遊びの中で最も多くのことを学ぶと考えています。

現在のアメリカでは、スクールアットホームとアンスクーリングのハイブリット型である「エクレクティックホームスクール」(Relax/Eclectic Homeschooling)という形式が多いようです。アンスクーリングほどは子どもに委ねず、スクールアットホームよりもカリキュラムやスケジュールを持ちません。

他にも「ハックスクーリング」(Hack schooling)という形式もあります。ハックスクーリングは、当時13歳のローガン・ブラウン氏がTEDで提唱して話題になりました。徹底した「個」を尊重した教育で、自分で学びたいことを、学びたい場所や先生と取り組むという方法です。子どもの自主性や能力に完全に依存する学び方となります。

ホームスクールを認める法律が全州にあるアメリカ

アメリカでは、全州でホームスクーリングに関する何らかの法律が定まっています。どの州に住んでいてもホームスクーリングが認められています。

「アンブレラスクール」(Umbrella school)は、全州にあるわけではありませんが、国とホームスクーリングをしている子ども(ホームスクーラー)をつなぐ役割を担っていて、州ごとに何らかの基準を持っており、それに沿って子どもたちがホームスクーリングしているか監督する機関となります。日本にはまだありません。

今、アメリカのホームスクーリングの現状を説明しますと、支援団体が大変多くありますが、日本ではとても少ない状況です。

私たちの日本ホームスクール支援協会では、アメリカのホームスクール法的養護協会(HSLDA)と提携しています。アメリカではホームスクールのサポート校としてオンラインスクールがとても増加しています。1990年台からホームスクーラーを支援する動きがあり、大量の出版物もあります。アプリで「ホームスクール」で検索すると、無料のフリーペーパーのようなものが見れたりします。

法律もあるため、国民の認知も広がっています。公立学校も危機的状態にあり、ホームスクールを選択する親も増えてきました。市場人口の5%と言われており、2015年の段階で200万人という統計データが出ており、今は300万人近くになっているんじゃないかと言われています。

日本では、私たちの協会が出している推測で3,000世帯となっており、不登校の子どもが約12万人いる状況を考えると、今後、さらに増えていくと考えられます。

学校をつくる権利や教育する権利は、納税者である親にある

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)、竹内薫さん(YES International School・学校長)

私たちの協会の理事長が20年ほど前にアメリカに行き、ホームスクーラーの親にアンケート調査を行っています。ホームスクールは、教育の基本に還る動きであるという話が多く、学校をつくる権利や教育する権利は、納税者である親にあると考えています。

ホームスクールをしていると社会性が身につかないと言う指摘がよく言われますが、社会性とは同学年の中だけで育つものではないと主張しています。日本では、偏差値や点数で子どもの能力を図りますが、アメリカのホームスクールやアンブレラスクールでは、ポートフォリオ形式で成績評価をしており、ほとんど点数で競い合うことはありません。

「YES International School」さんが渋谷にある東京校を利用して、日本ではじめてのアンブレラスクールとなるホームスクーラーのための「YES Homeschool×PRO」というプロジェクトを立ち上げられています。

2年間、フリースクールに取り組んでわかったこと

竹内薫さん(YES International School・学校長)

竹内さん
「YES International School」は、娘を普通の学校には行かせられないと考え、娘のために作ったフリースクールです。娘とその友達など6名ほどではじめました。2年間やってきて、色々と問題が生じてきました。

フリースクールと言えども学校じゃないですか。その先生たちの意識改革が進みませんでした。どうしてこのフリースクールを作ったのかは、再三伝えてきました。特にインターナショナルスクールでアメリカ人の先生が多くいることもあり、当然、私の書いた本は全く読んでもらえず、私がメディアに出て話していても聞いてもらえていませんでした。(笑)

先生たちは、カリキュラムもあって、学年を分けて、科目別にして、「普通の学校」にしようとします。私は、そうではなくて、学年や科目も融合して、プロジェクト学習にしなければならないと伝えました。

教科書が絶対ダメということではないけれど、先生たちも工夫して、みんなでプロジェクトをやっていかなければならないのに、教科書を買ってそれを黒板にうつしてどうするんだという議論を延々やりました。

「普通の先生」はいない、「本物の先生」がいる場

段々とホームスクールの方が、自由度が高いことがようやくわかってきました。そして、そこに普通の先生がいるとダメだということもわかりました。200年間続いてる教育システムに伝統があり、それに頭が染まっており、新しい時代の教育がきているということが理解できない状態なわけです。そこで新しい試みをはじめました。

東京校には、先生がいません。既存の学校の先生には来てもらっておらず、プロフェッショナルの方に来てもらっています。つまり、そこが2年間やってみてわかったことです。

学校の先生のマインドの方は、常に200年前の教育に戻ろうとします。それではダメです。実際にそういうことに縛られていない人は誰といったら、それはプロとして活躍している方々なんです。そういうプロフェッショナルの方々がやっているのは、プロジェクトなのです。

例えば、音楽の指揮者の方であれば、コンサートがプロジェクトであり、コンサートを成功させるために、みんなで練習やリハーサルをして、曲を仕上げていきます。コンサートが終われば、そこでプロジェクトが終了となり、次のプロジェクトに向かって始動していきます。CDを発売するにしても同じです。全部プロジェクトごとに行われています。

物理学者が論文を書くにしても、その論文のための研究を何人かで行い、そして、それが結果として論文となってプロジェクトがいったん終了します。

結局、プロの方は、基本的にプロジェクトをどんどんやっているのです。だったら、その生の体験を子どもたちに見せてもらって、一緒にプロジェクトをやろうじゃないかと考えました。ここには、実際にプロとして活躍している本物の先生がいます。

この場をホームスクーラーの方にも開いて、使ってもらおうと考えました。そこに来てお茶を飲んでも良いし、意見交換をやってもらっても構わない。スクーリングのような軽いイメージです。凄いプロの先生が週に1回くらい来ているので、一緒に勉強することができます。

その他の日は、常住するスタッフがおり、インターネット環境で勉強できます。だから標準的な学習は、インターネットで勉強できるし、スタッフに質問しても構いません。「Umbrella school」であり、プロフェッショナルの人たちとプロジェクトをやるという取り組みをはじめました。

YES International School 東京校の内部の様子(YES International School 東京校の内部の様子)

北本さん
洗濯機もあり、キッチンもあり、日当たりの良い屋上があって、本当の家のような場所です。ホームスクーラーにとっては、夢のような空間です。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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