近年、全国各地で新しい学校教育のあり方を模索する動きが日本でも広がっています。韓国でも、これまでの競争や成果主義的な教育から脱却を目指し、「革新教育」「革新学校」というオルタナティブ教育に取り組む公立学校も地方の学校から広がっているようです。
2020年2月8~11日に、「EDUTRIP in 韓国」が開催されました。「EDUTRIP」は、「世界の教育に学ぶ旅」がコンセプトで「Demo」が企画運営しています。今回、「EDUTRIP in 韓国」のツアーに参加し、韓国の教育について学んだことや感じたことをより多くの人に発信したいと思い、ツアーの内容をレポートします。
前回の記事に引き続き、今回も訪問した施設の内容をレポートします。韓国の学校教育について、より理解を深める時間となりました。
(「実践教育教師の会」の皆さんと「EDUTRIP in 韓国」の参加者での集合写真)
先生のコミュニティ「実践教育教師の会」
二日目の午後は、実際に学校現場で働いている先生たちで構成されている「実践教育教師の会」と交流させていただきました。(韓国では2月が春休みだったこともあり、小学校の一室をお借りしてお話を伺いました。)
実践教育教師の会は、教師同士の研修やオンラインでのコミュニケーションを通じて、情報共有、教材研究、書籍の出版、現場教師の声の発信などを主に行なっている団体です。比較的若い先生方が多く、Facebookグループで繋がっていて、今回もそのグループの中から参加者を募ったそうです。
実践教育教師の会では、韓国の学校で現在行われている「革新教育」がどのような目的で行われているのか、現在、どのくらい浸透しているのかを聞くことができました。
(「実践教育教師の会」の皆さんとの交流)
学校に関わる全ての人が、共に学び育ち合う
「革新教育」とは、競争、成果主義から脱却し、子どもの主体性や個を大切にする民主的な学校運営を目指そうとする教育改革のことです。
革新教育のモデル実践の一つとして、日本の佐藤学さんが提唱している「学びの共同体」も参考にしています。この「学びの共同体」とは、学校内で、活動や協同、表現を中心とした子どもの「学び合う」学校づくりのことを表します。
「学びの共同体」を掲げている学校は、子どもたちだけが学び育ちあうだけでなく、教師たちも教育の専門家として学び育ち合い、さらに保護者や地域の人も学校の改革に協力し、学校に関わる全ての人が共に学び育ちあう「二一世紀型の学校」を目指しています。
この「二一世紀型の学校」を韓国では、「革新学校」と呼んでいます。
(「実践教育教師の会」の皆さんとの交流を行った小学校)
「革新学校」とは?
「革新学校」は現在、地方の小さな学校を中心に、韓国全体で広まりつつあります。
革新学校が行っている具体的な取り組みとしては、例えば、教室の机の向きをコの字型にして教室内で議論しやすいような机の配置にしたり、4人1組のグループ学習を中心として授業を展開するなどといった、子どもたちが自主的で主体的かつ対話的で協同的な学びを行っています。
また、「開かれた教室」、「開かれた学校」として教師と保護者や地域の人々が連携し、学校に関わる全ての人が主体的に学校運営に参加できるようにしています。
このような「革新教育」「革新学校」を展開することで、一人残らず全ての子どもの学ぶ権利を実現し、学びの質を高めることができると考えられているそうです。
実際に「革新学校」で勤めている先生は、教科書を用いた試験やテストを行うのではなく、討論や演劇の発表を中心とした授業や町や地域と連携した授業を行っているとおっしゃっていました。
また、別の先生はこの「革新教育」を実践するにあたり、「先生が職員室で学校をよりよくするためにたくさん話し合うようになった」とおっしゃっていました。
(交流した小学校の壁面・子どもたち一人ひとりの夢や目標が描かれている)
連携していくことの難しさ
しかし、この「革新教育」「革新学校」を浸透させていく上で現状まだまだ問題点もあるそうです。
学校や先生の熱量によって差があったり、町や地域と連携しようとしても問題が起きた時の責任が学校側のみに押し付けられたりなど「革新教育」「革新学校」に対する周囲の認知や協力する体制がまだ十分に整っていないようです。
日本では、学校と地域を繋ぐコーディネーターを配置したり、学校と地域が連携して学校運営を行う「コミュニティ・スクール」の取り組みを導入している地域がありますが、教員や保護者の負担や地域の教育力の格差から、まだ発展途上であるのが現状です。
日本の「コミュニティ・スクール」も韓国の「革新学校」も、今後、認知度を上げ普及させるためには、「子どもの学びが深まる学校とは、どのような学校であるのか」について、学校、保護者、地域に関わる全ての人が考え、意見を出し合い、実践することが必要になると思いました。
(「実践教育教師の会」の皆さんとの交流)
民主的な学校を目指して
私は、韓国の先生方のお話を伺っているなかで「面白いな!」と思ったことがあります。
ある先生の学校では、学校の制度やルールをつくるのに生徒も参加するそうです。先生と生徒、PTA・保護者、三つの立場から話し合い、学校内のルールを決めるということでした。(先生や保護者など、大人の意見が優勢で、生徒の意見が通らないことも多いそうですが)
それでも生徒たちが自ら学校のルールや制度を変えていこうとするこの取り組みは「自分たちが主体となって学校をよりよくしていくんだ」という姿勢を育むことができます。
生徒たちが主体的に学校づくりに参加することは、民主的な学校をつくるうえで欠かせない要素だと思いました。
韓国の「革新学校」以外の学校や、日本の学校では自分たちでルールをつくるのではなく「決められたルールをいかに守るか」という教育が現状多く展開されているように思います。
日本でも教師だけでなく、生徒や保護者地域の人など教育に関わる全ての人が学校づくりに参加し、学校をよりよくしようとする姿勢を普及させていくことが、民主的な学校をつくるうえで重要であるように感じました。
本記事は、流矢武旺が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。