高等教育

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」に行ってみた。(後編)-学生寮は日本の大学生の成長の場となるのか?

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」

今や人生は大学名ではなく大学生活をどう送るかで左右されると言っても過言ではない。

NPO法人NEWVERYは本気で大学生活を充実させたい学生が集まる学生寮「チェルシーハウス」を運営し、学生たちがより充実した学生生活を送れるように支援している。「チェルシーハウス」は学生たちの成長の場となるのか?

前月号に続いて、編集部が体験宿泊させてもらったときの様子をお伝えします。

チェルシーハウスは昨年OPENしたばかりの学生生活を充実させたい学生たちが集まる学生寮。

そう聞くと、大学1・2年生の若手が集まりワイワイバリバリやっているのかと思いきや、この一年は大学3年生や4年生からの入寮も少なくなかったという。

3か月くらい前に入寮したばかりという大学3年生の寮生はこう語った。

「今までは部活を結構やってたんですけど、それももう引退。一通り学生生活を楽しみましたが、ほかにも学生のうちにできることはないかなと思って探していたらここのことを知って入寮を決めました。今は他のNPOでインターンもしています。」学内活動にも学外活動にも精力的な学生だ。

実際に入寮してからは「まだ入ったばかりなのでわからないことも多いんですけど…」と前置きしながらも、寮生同士のコミュニケーションが活発なようで、他の寮生が色々なことに取り組んでいるのを見て刺激を受ける毎日だと言う。

同じく話を聞かせてくれたチェルシーハウスオープン当初から入寮している寮生も3年生と4年生。

大学生活を1~2年過ごしたからこそ惹きつけられるチェルシーハウスの魅力があるのかもしれない。

「ほかに楽しいことないかな」と入寮してきたり、「このまま何もしないまま学生生活が終わるのはもったいない」などの動機が3年生、4年生にはあるあらしい。

動機は様々だが、とにかくより毎日を充実させたい学生が集っている。そしてお互いに刺激を与え合いながら興味や行動の幅を広げていく環境があるようだ。

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」

「誰かいる」という安心感

刺激を与え合う以外にも、ある寮生は、リビングに来ると誰かしらがいて、他愛のない話をして、満足したら気兼ねなく部屋に戻っていける距離感が心地良いと言う。

「夜な夜な語り合う時間が楽しいんですよね。単純に淋しくないっていうのもあるけど、なんか考えごとしてすぐに人に話せるっていうのがいいです。電話するまでもないし、外で会って話すまでもないけど、なんか一人で悶々としちゃうようなことも、たまたま居合わせた人に話してみたりもできる。それで眠くなって『おやすみ~』みたいな時間が日常であるのがいいですね。」

確かに、学生だけではなく社会人でも一人でふと考えごとをして悶々とすることはある。それを他人に説明し、理解を得たり反論をもらったりすることは思考力を鍛える上では重要だ。

時間の制限なくとことん話せるのは、学生で、しかも場所が確保されている者の特権だろう。

人と話ことは最大のアウトプットになる。アウトプットの量と質を上げていくことは社会力を向上させる上でも最も重要なことのひとつ。それが日常でできることは共同生活の大きなメリットと言えるだろう。

また、チェルシーハウスでは、地方からインターンや国内留学で来る学生や、海外からの留学生も受け入れている。

この日もアジアからの留学生が滞在しており、リビングで食事をしながら寮生たちと国際的なコミュニケーションをしていた。留学生も笑顔で楽しそうだ。

地方の大学を休学してNEWVERYでインターンをしている学生もおり、チェルシーハウスから職場まで通い、普通の会社員のような生活をしているそうだ。

寮生にとって、日常の中でそういった多様性に触れることはいろんな生き方を発見するヒントにもなる。

また、地方や海外から来る学生にとっては、友だちをつくる場にもなり、慣れない街で孤立することを避けられる。大学や企業・団体にとっても途中で辞めてしまうのを防ぐ手立てにもなるだろう。学生寮のこの活用の仕方は、三者にとって大きなメリットがありそうだ。

余談だが、各地のお土産が揃うというのも個人的な魅力のひとつ。

この日も帰省土産や旅行土産などがテーブルに置いてあった。寮生がお土産で買ってきたり寮生の家族が送ってくれたりするものもあるそうだ。こういったふとしたところからでもお互いのバックグラウンドが伺え、興味や会話も広がる。

個人的な経験として思うところだが、各地に友人や知り合いがいるというのは行動範囲も広がり、地方が身近に感じられる。新しい出会いの中でも出身地の話題で会話が生まれやすくなるメリットもある。ぜひともお土産をきっかけに日本各地・世界各地の話題で盛り上がってもらいたいものだ。

お土産のりんご

学生生活を伴走してくれる社会人メンターの存在

なんと、チェルシーハウスには、寮生8名につき2名の社会人メンターまでいる。メンターは、担当する寮生の学生生活をサポートするため、月1回程度寮に赴き、寮生と交流の機会を設けている。そこで、寮生の今後に対する考えなどを聞きながら、役立ちそうなものなども紹介してくれるという。

大学生は社会人と接することもそう多くはない。部活やサークルの先輩といえども、必ずしも自分の将来や自分自身に関わってくれるわけではないので、社会人メンターがつくというのはなんとも心強いことだろう。メンターが来る日は程よい緊張感もあり、自分を振り返る良い機会にもなるようだ。

また、寮には複数のメンターが訪れるので、多様な大人の姿を垣間見られるというのも良い点だろう。

なかには「○○さんは理論的に話すし、□□さんは感情的に話す。それぞれ合う人、合わない人がいるし、合う時と合わない時がある」などの意見もあり、それについて意見を交わしながら「自分はこういう大人になりたい」などの理想像を漠然とでも形づくっていく機会になっていると思った。

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」

多様な学生とのコミュニケーションの中で生まれる多くの課題解決の機会

チェルシーハウスでは、寮生が自治のため、月に1回「チェルシー会議」というものを行っているらしい。最初はほとんどの寮生が集まり、よりよい運営のために知恵を出し合っていたが、慣れてくると、段々と予定を合わせるのが難しくなってきたという。そこには、チェルシー会議の理想の状態を実現するために真剣に考える寮生の姿があった。

「強制するのはなんか違うと思うし、かといってみんなで運営する寮だから不参加の人には意見聞いて回ったりもしているが、手間もある。やりたいことがいっぱいある人たちの寮だから基本みんな忙しい。月1回でも集まるの難しいかなぁ。なんで来ないのかなあ。どうしたら出席してくれるんだろうなあ…。」と頭をひねらせて毎回試行錯誤しているとのこと。

チェルシー会議はホワイトボードで内容を告知していて、この日も次回のチェルシー会議について、仲間と一緒にホワイトボードに書き込む姿が見られた。

多少イライラすることもあるかもしれないが、多様な人がいる中でしか感じられない、考えられない課題を自分たちでアイディアを出し合って解決していく機会はとても重要だ。

日常の中でそういったことを絶えず考える機会があり、しかもアイディアをぶつけ合う仲間もいる。チャレンジできる機会もある。そういう環境の中で一歩一歩前進していくことは、この上なく将来に役立つトレーニングになるだろう。

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」

共同生活は、自分がどんな人間なのかを認識するきっかけがたくさん

「ぶっちゃけ、寮での生活ってなにがメリット?」という直球の質問を投げかけてみた。実家暮らしでも、一人暮らしでも得られないものとはなんだろうと。

「他人と生活することで、自分がどんな人間かっていうのがわかってくるようになりますね。

それは、全部わかってくれる家族と一緒に暮らしたり、一人暮らしではわからないことかなあと思います。あ、これ他人にされるとむかつくんだなとか、ここは許せるんだなとか、そういうのがわかってきて、じゃあ自分がイライラせずにお互い気持ちよく生活するにはどうしたらいいのかっていうことが考えられるようになる。

絶対、他人と暮らしたことのある人の方が結婚生活もうまくいくと思う(笑)。みんな絶対寮に入った方がいい」とある学生は語ってくれた。

その場にいた社会人も「うんうん、そうそう」と頷く。今回取材に同行してくれたスタッフの中には、チェルシーハウスの寮生ではない大学生もいたのだが、「へー、なるほどー!」と感心していた。

実際問題として、他人とのコミュニケーションが上手くできなくて社会に出てから苦労している若者や、最近では夫婦の離婚率が増えていたりもする。

社会生活を送っていく上での根本的な人と接する力というのは、実家暮らしでも一人暮らしでもない、他人との共同生活の中で手早く培えるのかもしれない。

NEWVERYが運営する国分寺の学生寮「チェルシーハウス」

寮生以外の大学生から見たチェルシーハウスはどのような印象なのだろうか。今回同行してくれた大学生ボランティアスタッフのY君が、その時の感想綴ってくれた。

「寮生の方々を見ていると、共同のキッチンで食事を作っていたり、帰ってくる寮生に「おかえり」と声を掛け合っていたりと寮生同士の仲の良さを感じました。

寮生の方からは、チェルシーハウスの暮らしについて、一緒の部屋で暮らしている相方の話や、定期的に行っているイベント、入寮してから本を読むようになった、共同生活においてのルールを決める会議をしているなど、実際に住んでいないと分からないお話を聞かせてもらえました。

よく留学をすると異文化に触れることができるといいますが、一泊して感じたのは、違った家庭環境で育ち、価値観も違う人と一緒に暮らすことで、プチ留学をしているみたいだということです。話を聞いた人たちからは、『色々な人がいて面白い、人それぞれ違うところがあるということをあらためて発見できる』などと教えてもらいました。

僕自身、家族としか暮らした経験がないので、共同生活は大変なことばかりだと思っていました。でも、今回話を聞いた人たちは皆、色々な人と暮らすことをとても楽しんでいるようでした。きれいな施設、入寮生の方々の生活を見て聞いて、本気で入寮を考えさせられた一晩になりました。」

百聞は一見にしかず。やはり傍から見ているだけではわからないことがあるのだろうと感じる。チェルシーハウスや学生寮に興味がある学生は、必ず足を運んでみて寮生に話を聞いてみることが大事だ。

また、ゲストルームには、泊まりに来た人たちがコメントを書き込めるノートが置いてある。寮生の家族が来たときにも利用されるようで、ある家族からのコメント書かれていた。

「ここに来て、他の人たちと関わっている子どもの様子を見て、とても良い環境にいさせてもらっているんだなということがわかりました。これからもよろしくお願いします。」

保護者にとっても子どもを寮に住まわせるというのは挑戦かもしれないが、きっと想像を上回るメリットがあることだろうと思う。心配なこともやはり実際に足を運んでみて寮生に話を聞いてみることをおすすめしたい。

まだまだ日本の未来は明るいな!と思った宿泊体験の夜となった。取材に応じてくれた寮生たちにあらためて御礼を伝えたい。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、石井敦子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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