(特定非営利活動法人サンカクシャ 代表理事 荒井佑介さん・中央)
サンカクシャでは親や身近な大人を頼ることができずに家を追い出されたり、家出をした結果、路頭に迷った若者にシェアハウスや個室のシェルターを提供しています。
2023年12月にシェアハウス1軒と個室のシェルター2室を新設し、現在4箇所のシェアハウスとシェルター(賃貸アパート)7室を運営しています。新しいシェアハウスとシェルターもすぐに満室となることが予想されるため、今後もできる限り増やしていく予定です。
若者の居住支援における「18歳の壁」
なぜ、サンカクシャのような民間のNPOによる若者への居住支援が必要なのか、公的な支援はどうなっているのかと疑問を持たれる方もいることと思いますので、公的支援の大枠を簡単にご説明したいと思います。
保護者がいない子どもや保護者が適切に養育をできない子どもは、児童福祉法で定められている児童福祉施設が養育を行っています。この公的責任で子どもを養育するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことを社会的養護と呼んでいます。
(引用:令和6年2月 こども家庭庁支援局家庭福祉課 社会的養育の推進に向けて)
現状の児童福祉法は18歳までを対象としているため、児童福祉法で規定されている施設で暮らしている若者は、18歳になると原則、施設を出なければなりません。
現在は、進学などで継続的な支援が必要と判断された場合は22歳まで延長可能になってはいますが、大半は高校卒業とともに施設を出て、経済的な自立をしなければなりません。住居費を含む生活費をすべて自分で稼がねばならず、体力的、精神的にも負担が大きいことから容易に生活が行き詰まってしまいます。
児童養護施設を出た後の行き先として自立援助ホームという自立のための施設がありますが、全国自立支援ホーム協議会よると、こちらも原則20歳まで(通学している場合は22歳)の年齢制限があり、自立まで至らず退去するケースが多くなっています。
近年、社会的養護の卒業者に対する支援は一律の年齢制限を弾力化しようという動きが進んでいますが、そもそも過酷な養育環境にありながら社会的養護に繋がっていなかった若者に対しては支援が届いていないという問題もあります。
若者のニーズにあった居住支援の不足
一方、18歳以上の幅広い年代を対象とした生活困窮者への居住支援は、若者のニーズと合致していない側面があります。
例えば、家を失った若者が生活を立て直すために生活保護を申請すると、すぐにアパートが借りられるわけではなく、無料低額宿泊所と呼ばれる施設で過ごすことになります。
無料低額宿泊所は社会福祉法で規定された施設ですが、入居者の多くは高年齢で、また食事や居住環境が若者には合わないため、福祉事務所に相談せずに無断で施設から飛び出してしまうと、失踪という扱いで生活保護は廃止されてしまいます。また別の施設を紹介されるだけと思って再度相談しようという気持ちにもなりにくいのが現状です。
(サンカクシャが提供するシェアハウスの様子)
また自立支援センターという、ホームレス状態で就労意欲および能力のある人を対象に自立への移行を促す施設もありますが、利用する年齢層は高めで、大部屋で仕切りはあるものの個室とは言えない環境のため、プライバシーが確保されていないなど、若者が安心して暮らせるような環境が整っていません。
コロナ以降拡充された住居確保給付金という給付制度もありますが、これは働いていた人が非自発的に失業したケースに限られているため、もともと仕事に就いていない若者は対象外となっています。
居住支援を入口に、自立につなげる
若者が家や施設を出てから住まいを確保して安定した生活ができるようになるまでの移行期には、成人に対する支援とは異なる支援が求められるのですが、若者に特化した住まいに関する公的な支援制度は極めて不十分と言えます。
そのため、サンカクシャのようなNPO団体に行政から若者が紹介されるケースが多くなっているのです。NPO団体が公的支援の狭間を埋めていると言える状況にあります。
行政からの紹介や当事者からのSNSなどを通じての連絡でサンカクシャに繋がった帰る家のない若者には、まず安心できる住まいとして、家具や生活用具が揃ったシェアハウスやシェルターに初期費用無しで入居してもらいます。家賃や光熱費は割安に設定していますが、最初はほぼ支払い能力がないため、個々の状況に応じて免除しています。
(シェアハウスの入居者とスタッフとのミーティング)
ここからが若者の再スタートとなり、他の若者や大人と交流したり様々な体験ができる居場所「サンカクキチ」や、働くことに慣れるためのサポート「サンカククエスト」へと繋げていきます。概ね1年から1年半ほどで1人で家を借りて生活できるようになることを目安にしていますが、決して平坦な道のりではありません。
”働く”以前に大切なこと
所持金ほぼゼロ、身分証や銀行口座もなく、携帯電話は料金未納で解約されているという状況から、スタッフが役所や携帯電話会社に同行したりといったサポートをしながら一つひとつ生活を整えていきます。一通り状況が整ったところで、「さあ、仕事をして自立」という流れになり、本人たちも「働きたいです!」と口では言います。
ところが実際には、これまで過酷な環境の中で失敗を繰り返して否定され続け、人を信じられず生きる意欲すら無くしている若者が、すぐにやりたい仕事を見つけて面接に行き、採用され、継続して働くことは困難です。なんとか仕事に就いたとしても上手くいかず、より深く傷ついてしまうことがよく起こります。
そこで、若者たちに対して「何か本当にやりたいことはないのか?」と問いかけると、「彼女が欲しい」「大きな肉を食べたい」などの本音を話してくれます。
まずはそんな欲望を満たすために、美容師さんに居場所に来てもらってかっこよくヘアカットをしてもらったり、大きな生ハムの塊を寄付していただいてみんなで食べたり、かっこいい身体になるためにみんなでキックボクシングジムに通ったりといった活動を作っています。
(居場所に来てもらった美容師にヘアカットしてもらっている様子)
(定期的に通っているキックボクシングでの練習の様子)
傍から見ると、支援ではなく遊んでいるように見えてしまうかもしれません。しかし、まず人としての根源的な欲求が満たされる経験無しには、生きる希望や自信を取り戻し、頑張って働こうという意欲や困難を乗り越えていく力は生まれない。そのことに私たちはこれまでの活動の中で気付いたのです。
ポジティブな経験を積み重ね、前向きな気持ちへ
一つの体験で劇的に何かが変わるということはなかなかありませんが、これまでの体験で蓄積された「自分はだめなんだ、何をやっても上手くいく訳がない」というネガティブな感情を、「今日は楽しかったな」というポジティブな経験の積み重ねによって少しでも前向きな気持ちに変えていくことを大切にしています。
先日、若者を連れてドライブをしていた際に「バンジージャンプしたいね!」という話になって、急遽バンジージャンプ施設があるマザー牧場に向かいました。
恐怖に打ち勝ちながら頑張って飛んだ若者と、帰りの道中に話していたのですが、飛べた自信からなのか、やる気がみなぎってました。どうせ数日経てば消えるだろうと思っていましたが、1ヶ月以上が経過しても彼の熱量は変わらず、しかも日々の行動が変わり、表情も姿勢も何もかもが変わっていました。
(バンジージャンプにチャレンジした時の様子)
もちろん、誰でもバンジージャンプをすれば変わる訳ではありませんが、個々の若者のこのようなきっかけを増やすために、他にも卓球、フットサル、バスケットボールなどのスポーツや、美術鑑賞、編み物などのインドアの活動まで幅広い活動を行っています。
地域の中で働く経験を積んでいく
若者たちはこういった活動をしながら、「サンカククエスト」と呼んでいる仕事体験によって、少しずつ働く経験も積んで行きます。サンカクシャのある豊島区の企業を中心に約40の企業や店舗などから若者に仕事を提供してもらい、若者がサンカクシャのスタッフやボランティアのサポートを得ながら仕事を行っています。
ノベルティグッズの袋詰めのような居場所でできる仕事から、デザイン、動画作成などのクリエイティブな仕事、地元のイベントの手伝い、畑仕事など多岐にわたる仕事の中からそれぞれの状況や興味・関心に応じてチャレンジします。
(「サンカククエスト」での仕事体験の様子)
ここで地域の企業や店舗の方々が若者を見守ってくださり、仕事ぶりを褒めてくれたり、「失敗しても大丈夫だよ」と言ってくれることが若者の自信に繋がり、働くことに対する不安を軽減してくれます。少しずつ働くことに慣れた若者はアルバイトに挑戦したり、仕事のための資格を取得したりといった次のステップに進むことができます。
(「サンカククエスト」での仕事体験の様子)
若者たちがこうした活動ができるのも、安心できる住まいであるシェアハウスや、仲間やスタッフとの関係が築ける居場所「サンカクキチ」がベースとしてあるからです。
若者がまず「生きる力」を取り戻せるように
まとめると、「安心+自信=意欲」と言えると思います。
このような個別の支援には時間がかかり、効率が悪いと思われるかもしれません。しかしながら、様々な経験を積む中で自分自身を肯定し、自分を受け入れてくれる多様な大人に出会い、本来の生きる力を取り戻すことが、若者がこれからの長い人生を生き抜いていくために最も大事なことだと考えています。
サンカクシャをはじめ、民間NPOによる若者への支援は、財団等の助成金と、企業や個人の方々からの寄付金によって成り立っています。
一人ひとりの若者に対して、長期間に亘って支援していくことは、多くの人手や資金などが必要となります。一方で「○○円で○○人に食事を提供できます」といったわかりやすさや、「○○万人を支援しました」といった規模感などを数値で示すことが難しく、なかなかご理解が得られにくいという課題を多くの団体が抱えています。
より多くの個人や企業の方に、このような若者の支援に目を向けていただけるように、サンカクシャを訪ねてきたそれぞれの若者の変化や、公的支援の狭間となっている居住支援の必要性をお伝えしていきたいと思います。
特定非営利活動法人サンカクシャ・代表理事。1989年埼玉県出身。大学生時代からホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を多く見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。サンカクシャでは、15歳から25歳前後までの親や身近な大人を頼れない若者の「居場所」「住まい」「仕事」の3つをメインの支援として実施している。
親や身近な大人を頼れない若者をご支援ください!
人が生きていく上で、安心できる人とのつながりが欠かせません。それを獲得するための「居場所づくり」。また、生きていく上で必要なお金をどのように稼ぐか、どのように生きていきたいかも含めた「仕事のサポート」。そもそも、住まいすら失う若者も近年増えているため、生きていく基盤となる「住まいのサポート」。サンカクシャでは、これらを通じて、若者が生き抜いていけるように活動しています。ぜひ、若者の「いま」と「これから」を寄付でご支援ください。