「2分の1成人式」(ハーフ成人式)は、20歳・成人の半分の年齢となる10歳を迎えたことを記念する行事です。
近年、小学4年生の学校行事として多く実施されています。Benesse教育情報サイト調査(9割が満足!親子で感涙する「2分の1成人式」とは!?)によれば、「1月・2月」、「10月・11月」に多く開催されています。実施形態は、道徳の授業や授業参観の一環のような形で行われ、学年全体で行っているケースが多く、次でクラスごとに行われています。
学校によって、形態や規模、内容は異なりますが、「子どもの個別発表」、「保護者がメッセージや手紙を贈った」など将来の夢や保護者への感謝の気持ちを発表する点は共通しています。中には、合唱を行ったり、小さい頃の写真をまとめて放映したり、アルバムにまとめたりしているような学校もあります。
親からの評判もとても良く、「2分の1成人式」に参加経験のある親の9割近くが満足したと回答しています。
「自分の頃にそんな行事はなかった」という方も多いのではないでしょうか?
私も同じでした。私がはじめてこの式について知ったのは、所属しているNPOの活動の時でした。
私は、七五三などの家庭での行事やクラスの誕生日会のような話かとはじめは思ったのですが、話してくれた子どもがやたらと嫌がっていたので不思議に思いました。
その後、どのような式か気になったので、動画サイトなどでいくつか実際の式を見てみると、卒業式や周年行事のような式典のような大々的な場となっていて驚きました。また、成人式であれば、当人が成人したことを祝うことが主ですが、「2分の1成人式」ではやたらと親への感謝を強調している点にも驚きました。
このような場で、まだはっきりとした夢がない子や、家庭環境が複雑な子が生い立ちについて個別発表しなければならないのは、とても嫌なことだろうとすぐに察しがつきました。成人式は、地域として行われている場であり、任意参加となっていますが、学校行事・授業として行われていれば子どもは参加するしかありません。
私は、「2分の1成人式」そのものを批判するつもりは全くありません。そのような子どもの成長の節目となるお祝いはとても有意義だと思います。先生からの祝いの言葉、証書授与などは子どもに良い思い出にもなるでしょう。
しかしながら、学校行事・授業という一定の強制力を持っている場で「2分の1成人式」が行われていること、多様化している家族のあり方に配慮が足りないこと、親の感動を求めてエンターテイメント化していく式のあり方には、強い違和感を感じました。
(Benesse教育情報サイト調査:「2分の1成人式」では、どのようなことをしましたか?)
多様化している家族のあり方への配慮が足りない
年間で結婚件数の約3割にあたる離婚件数があり、昭和63年度から平成23年度の25年間で母子世帯は1.5倍、父子世帯は1.3倍と増加しています。(厚生労働省:ひとり親の現状について)
ひとり親の数も増加傾向にあります。世の中には、複雑な家庭の背景を抱えていたり、大なり小なり親子関係で悩んでいる子ども達がいることから考えれば、学校で行うならばもっと配慮されるべきだと思います。
内田良・名古屋大学准教授(教育社会学)は、早くからこの「2分の1成人式」に異論を唱えていました。
「離婚・再婚もなく、虐待もなく、実父母が子どもをずっと大事に育ててきたはず」という前提のもとに成り立っている。だからこそ、子どもの誕生時から今日までの生い立ちを一貫して振り返ることができ、また、子どもから親への感謝が可能となる。特定の家族類型向けの「感動」である。(2分の1成人式 「感動」必要か? ―親からサプライズの手紙、子から感謝の手紙 集団感動行事を問う)
多くの「2分の1成人式」では、これまでの生い立ちをふりかえってまとめたり、個別に発表しています。どのような子であっても大切な作業であることは間違いないのですが、その作業が10歳の4年生には十分に受け止められない場合もあります。
昔の写真がなかったり、名前の由来がわからない状況の子どもだっています。また、それを多くの友達や親の前で発表させるのは、あってはならないことです。もちろん、教師も配慮して曖昧な内容にしたり、別の内容にしたりすることでしょう。子どもからすれば「私は、曖昧な内容にしたり、別の内容を話さなくてはならないような生い立ちだったんだ」と感じることでしょう。
親に見せるために誇張され、エンターテイメント化していく式
「2分の1成人式」が多くの学校で実施されるようになった一つの背景に、親からの高い評価があると思います。学校や教育委員会からしても、親からの評判が高まるような取組みは推進したいと考えるのは本音だと思います。
その親の感動を目標として、式をエンターテイメント化させ続けていく学校が増えてもおかしくありません。子どものための学校行事なのか、親のためのエンターテイメントなのか疑問を感じます。
先ほどの内田良教授の記事では、この取組みをはじめた先生の話が書かれています。
「2分の1成人式」の原点は、1970年代半ば頃にまでさかのぼる。兵庫県西宮市の教師が、高学年への門出として始めたもので、将来に向けての決意を表明したり歌を歌ったりする、こぢんまりした行事だったという。その教師によると「今は場合によっては卒業式より感動的で、自分が始めたのとは趣旨が違う」とのことである。 (2分の1成人式 「感動」必要か? ―親からサプライズの手紙、子から感謝の手紙 集団感動行事を問う)
日本は、子どもの成長を祝う節目の式がたくさんあります。それだけ子どもの成長を大切にしてきた文化のある国だということです。10歳という年齢を一つの節目として、新たな行事が生まれてきたことは素晴らしいことです。
しかしながら、その行事が段々と本旨から外れ、祝われるべき当人にとって嫌な思い出となってしまっては意味がありません。今一度、「2分の1成人式」のあり方を考えるべきタイミングだと思います。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。