子どもの貧困政治・制度

「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法③-学習支援と生活支援で解決できるのか?

第一回京都府子どもの貧困対策検討会の様子(第一回京都府子どもの貧困対策検討会の様子)

第3回となる「子ども貧困対策に関する大綱」についてのシリーズ。

この間、衆議院の解散総選挙に突入し、慌ただしくなっています。社会保障については、財源ということからも大切な選挙です。景気対策としての成果を探るという意味では、子どものおかれている現状や貧困問題解決にこれまでの施策がどう影響しているのか各メディアも取材に動いているようです。

大綱として一定の指針を示したあとで、争点としてはあまり表にでていない子どもの貧困対策ですが、将来を見据える上では重要であることは変わりません。

各政党においても、検討というレベルではあっても、比較的この問題には前向きではあります。

しかし、実際に大きな費用がかかる社会保障では、医療・福祉分野の手当や給付に関しては、現実問題としての財源の壁があることもあります。どこまで踏み込んで実践されるかは、これからの市民からの声次第です。そのためにも、この大綱についても、実現に向けてしっかり議論をしていく必要があるのだと思います。

第3回目は、前回の最後に触れた学習支援と生活支援の2つの方法について書きたいと思います。

「子どもの貧困対策に関する大綱」のポイント

支援のプラットフォームとなる学校

今回の大綱は、学校を支援のプラットフォームに据えていることからも、教育の機会提供は大きな柱となっています。立場によっては、そもそもの生活を支えないと、親の支援を、早期対応をというご意見はあると思います。

大綱に不足している点や、今後の改善は改めて書きたいと思いますが、この連載では、「大綱をどう活かすか」、また「どこを突破口にしたいと考えているのか」ということを考えていきたいと思います。

すべての子どもが必ず通過する義務教育期間の時期です。小学校と中学校での9年間をメインにおいての計画は、ひとつの取っ掛かりとして位置づけた結果なんだととらえています。子どもの成育ということを見れば早期対応、長期対応がよいのは明らかですが、そこは他の制度との兼ね合いで見ていかないといけません。

貧困状態にある子どもや家庭とは?

放課後の学習支援の様子(放課後の学習支援の様子

学習支援といっても、様々な方法があります。現在、主流となってきているのが、生活保護世帯の中学生を対象とした無料学習会で、全国各地で取り組まれています。

現在は、国の予算で全額補助事業として取り組めることから各自治体で広がっているのですが、生活困窮者自立支援法との兼ね合いから、各自治体で実施継続されるかは不透明です。

その点では、この大綱でしっかり謳われている教育の機会の提供として予算化してもらえるよう提言していくことはとても重要です。それ以外にも多様な支援方法があり、また大綱でも述べられていることを踏まえ、ここで簡単に対象や方法について整理したいと思います。

学習支援の対象としては、生活保護家庭、ひとり親世家庭、生活困窮家庭、という切り口が子どもの貧困ということではわかりやすいと思います。

生活困窮という言葉がもつ意味の幅は人によって違うと思いますが、子どもの貧困から派生する社会的孤立の状態も生活困窮だと考えれば、養育困難や地域とのコミュニケーションを取る力が弱い(地域からの働きかけ、コミュニケーション不足も含む)家庭なども含まれると考えた方がよいです。

そもそも子どもの貧困対策の推進に関する法律や大綱でも「子どもの貧困」の状態にある子どもや家庭についての詳細な条件などが示されているわけではありません。

そのため、現在の相対的貧困としての所得だけでみた数字だけでなく、本当に「困っている」状況の子どもがだれなのかの見極めとその把握をしなければいけません。そのうえで、困っている状態にある環境にあり、子ども自身が望んでも学ぶことができない状況の時、その望みに応えられる環境をつくることが重要です。

将来の貧困を予防するための学習支援

生活支援プログラムの様子(生活支援プログラムの様子)

学習支援には、学校での支援、地域での支援、民間事業者を活用した支援の3つのカテゴリに分けられます。まずはじめに大綱のベースとなっている学校での支援についてさらに詳細に分けて考えてみたいと思います。

①いつ:「学校の生活・授業内」「放課後・土曜日」
義務教育の正課内で対応する方法と放課後や土曜日の学内で指導を行う方法があります。

②誰が:「学校教員」「ボランティアなど」
学校教員が取り組む方法と、学校という場所を使ってボランティアなどが実施する方法があります。もし、教員が中心となって貧困対策に取り組む場合は、現状にプラスアルファの研修が必要になります。しかし、労働基準から考えても、教員だけでの対応には限界もあり、他機関や地域の連携が必要です。

③運営:「学校主体」「地域団体やNPO」
学校主体の支援のボランティアとして関わる形態と学習支援プログラムを学校に民間が持ち込み運営するという形態がとることができます。現実的には、今後、後者の支援のあり方が求められているため、コンテンツ提供ができる組織と、学校とのつなぎ、コーディネートができる機能が必要になります。

次の支援方法は、地域側、施設(福祉施設、公共施設)に会場を設置しての学習支援です。この方法であれば不登校の状態や、いじめなどで同じ学校の生徒に会いたくない子どもでも支援が可能です。

完全地域側の支援であれば、塾として子どもも周りに説明もでき支援を受けることができます。施設系での支援は、会場次第では避けられることもあります。

さらに3つ目の方法としては、民間の塾などを活用する方法であり、その際の学費をバウチャーなどのクーポンでまかなう方法です。

特に子どもも家庭も学習に意欲的で、かつ自身で情報収集できるような家庭であれば有効な手立てです。受け皿を民間にすることで、多くの受け皿をつくることができ、また友達たちと同じ環境での学びを提供することができ、その部分での孤立感なども回避することができます。

今を生き延びるための生活支援

生活支援については、学校でできることは、学校の中で学習機会を保障することで、帰宅後の時間を生活に集中することができることや、学習の場を地域に担ってもらう方式であれば食事提供的取り組みも可能となります。

学校外での生活支援の場の必要性は学習支援以上であり、地域側での学習支援が必要な子どもの多くは学習支援以前の生活状態であることも多く、まず人間関係づくりと、食事などの提供といった命をつなぐステップが大切になります。

特に人間関係づくりという点では、どのような人に関わっていただくかは地域や対象者の状況によるため、学生や地域住民、社会人といった立場や、年齢や性別などの配慮も必要です。

バウチャー型の仕組みが定着すれば、より多くの民間団体の支援を活用できることもあると思います。

また食事以外に、生活としては、入浴、はみがき、トイレ、料理、洗濯、会話、就寝などの各場面でもできない子どもも多いため最低限生活していく上での手段を身につけられるような、ある種の教育の機会も必要であることも少なくありません。

学習支援が未来のため、また将来の貧困予防とする対策なら、生活支援は今を生き延びるための対処や、未来のための基盤づくりといえるかもしれません。もちろん、そのミックス型というのもあります。

地域や団体の状況や、何を資源として保有しているか(施設をもっている、予算がある、ボランティアが多い、食材があるなど)ということもあるだろうが、どちらも必要であり、子どもに応じて選択し届けることが大切です。

生活支援で提供いただいた食材(生活支援で提供いただいた食材)

生活支援の文脈では、具体的な施策が打ち出されているわけではなく、自立支援、居場所づくりといわれているだけです。就労支援以前の状態の子どもも多く、まずその基盤を支える必要があるがその点への施策は具体性に欠けます。

また、上記したような食事等の支援を行うにあたって、食材を提供する仕組みへの言及等はありません。すでにフードバンク(セカンドハーベストジャパン:フードバンクとは?)などの仕組みや直接農家との連携によって、食事の提供やこども食堂といった支援のカタチをとっている団体もあります。

お寺との連携による「お寺おやつクラブ」(2014/9/15・日本経済新聞:お供えで母子家庭支援 奈良の脱サラ僧侶3人衆)という取り組みでは、お寺に届く多くのお供え物を仏様からのおさがりとして、困窮世帯や、支援団体に届けています。おやつはもちろん食事がわりになるわけではないが、学習支援の休憩や子どもたちの交流の機会においては、非常に有益な潤滑油となっています。

少し長くなりましたが、今回は学習支援と生活支援についてのべてきました。しかし、現状の支援では、子どもの貧困の影響によって起こる課題のひとつに「文化的資源の不足」を補うものはありません。学習支援においても重要と考えてるので、このことは次回書きたいと思います。

「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法①-美しい建前にしないために今するべきこと
2013年に成立した「子どもの貧困対策推進に関する法律」から1年と2ヶ月。法律に基づき、今後政府として解決に取り組んでいくための基本方針や柱となる施策を示すものとして「子どもの貧困対策に関する大綱」(以下、大綱)を策定し、8月29日に閣議決定されました。今回の大綱の内容や、具体的にどのような流れで具体的な支援が進んでいくのか、現状の課題などについてお伝えします。
「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法②-支援を「誰に」「誰が」届けるのか?
子どもの貧困対策の動きが、各自治体で少しずつはじまってきました。栃木県小山市では2015年度に重点事業として子どもの貧困対策を予算編成し、事業化に取り組む動きもあります。検討会で議論に上がっているのは「だれに届けるのか」「だれが届けるのか」がわからない状況を打破する方法がないということです。このような社会問題を解決するにあたり、現状を把握することは非常に重要なことです。
「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法④-京都府の子どもの貧困対策計画(中間案)から考える
「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が平成26年1月に施行され、8月には「子どもの貧困対策に関する大綱」が8月に策定されました。この大綱を受け、各自治体では、予算編成・事業計画へと動きはじめています。京都府でも全国に先駆けてこれまでの社会保障政策に子どもの貧困対策の視点も取り入れた京都府子どもの貧困対策推進計画の中間案が公開されました。
Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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