「子どもと関わる仕事に就きたい」。そう考えた時に、学校の先生を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、社会の中には、学校の先生ではない立場から子どもの成長を支える職業も多くある。
その一つが“プレーリーダー”だ。子どもの遊びゴコロに火をつけ、のびのびと遊ぶために、必要なサポートを担う。
寺元章恵さん。兵庫県の出身で、前職は学童保育指導員。現在は「NPO法人あそびっこネットワーク」(以下あそびっこ)で、プレーリーダーとして働いている。光が丘公園のプレーパークと、学童保育「あそび~む」が主な担当だ。
取材をしたこの日も、多くの子どもたちが「あきちゃ!」と彼女のニックネームを呼び、駆け寄った。彼女がプレーリーダーとして働く理由、そして根っこにある「想い」に迫った。
「私流、子どもとの関わりって?」を探し続けた4年間
「子どもがしたいことや得意なことを、いつでもワイワイ話していて、子ども一人ひとり成長をみんなで喜ぶ、そんな場がいいな、が根っこにありました」
寺元さんの大学時代の専攻は、運動を土台にした栄養学。初めは、スポーツのトレーナーを目指していた。学業の傍ら、サッカーのジュニアチームにボランティアとして参加。競技を見ることは好きだが、やった経験はない。
サッカー技術以外の面から、毎日トレーニングを支えた。お金がもらえるわけでも、お願いされているわけでもない、ただ自分が「そこにいたいから」という理由で。
本職のコーチたちは、子どもの力を引き出しながらチームを導いていた。「導く」という関わり方を知ったのも、初めてだった。素敵だなと思う一方、それは手法の一つ。でも、何かがしっくりこない。
子どもがいつのまにかやる気になる、自ら行動するようになるには――。「私流はなんだ?」を4年間探し続けた。「頭を使いすぎて、1日が終わった瞬間気絶したように寝ていましたね」
ゆるやかに、子どもと関わりたい
サッカーチームでの経験を経て、就職活動の際のベクトルは、もちろん子どもに。サッカーチームでの経験から、幼児向けに運動を教えるような企業も受けてみた。しかし、やっぱりしっくりこない。
「鉄棒をやるプログラムの日に、マットをやりたい!と言う子どもがいたらどうしよう…?と思うんですよね。やりたい時にやれることをやったらうまくなるはず、っていう想いがどこかにあったので、カリキュラムには乗りたくないなあと」
そんな時、学童保育指導員の仕事の紹介が目に留まる。難しいことを考え過ぎず、一緒に生きる人間として、そして人生の“ちょっと上”の先輩として、子どもに関われることがおもしろそうと感じた。
担当した面接官が人柄を受け入れてくれ、それが決め手になった。
子どもが「楽しかった」と思う瞬間を創り続ける
働き始めた学童には、70~80人くらいの子どもが通っていた。年度初め、多い時には100名になることも。大勢の子どもを動かすことは、難しくはない。でも、一人ひとりの気持ちを汲みながら関わることはできない。
「一人ひとりの子どもを見る、というよりは『70人の子どもを動かす』という日々でしたね」
大勢の子どもを少人数の職員で指導しようとすると、監視になる。事が起こらないように、手を出さないように。「ケンカしたっていいじゃない」と思う反面、それを言い切れない自分もいた。
子どもの責任の範囲と、学童の先生が見る範囲。どのようなバランスであれば、みんなが気持ちよく過ごせるのだろうか。なかなか答えが見つからなかったが、その中で大事にしたことは“楽しさ”だった。
「例えば、『足が速くなるトレーニングをやります』ではなく、遊びの中でとにかく走って、走って、走って…気づいたら『あれ?足が速くなってるじゃん!』という瞬間を、いろんなジャンルで、たくさん作りたかったんですよね」
子どもが一日の終わりに「楽しかった!」と思って帰れば、それでOK。そんな瞬間をとにかく創り続ける。そうすればきっと、何か他の感情が付いてくる。そんなことを思いながら、5年間学童で走り続けた。
「楽しい」と「おいしい」は、辛いことを乗り越える力になる
学童で働く中で、自分の中の想いや軸が、少しずつはっきりしてきた。それは、「楽しい」と「おいしい」。日常的に楽しいこと、おいしいことが積み重なっていれば、いつかやってくるかもしれない辛いことも、きっと乗り越えられる。
この感覚は、子どもの頃に神戸で、そして大学時代に仙台で体験した震災の影響もあるのかもしれない。
今日の、今この瞬間の、充足感やワクワクドキドキが、明日への希望につながる…。
その想いを大事にしながら、子どもも大人も含めた“人”と関わり続けたい。学童という枠から一回外れて、別の現場で子どもを見てみたい。そんな想いが、徐々に強くなった。
2年かけて転職活動をし、ある日「あそびっこ」のホームページにたどり着く。書いてあることを読むと、「自分と同じ考えだ」と感じた。2016年4月から、あそびっこで働き始め、今に至る。
「管理しない」ということ
あそびっこでの主な担当は、プレーパークと学童保育『あそび~む』となった。時々、外部のプレーパークへ出張することもある。
プレーパークとは、できる限り禁止事項をなくし、子どもが自分の責任で自由に遊ぶことを大切にしている活動だ。1979年に日本初の常設プレーパークが誕生して以降広まり、現在は全国に約230か所ほど存在している。不特定多数の子が、入れ替わり立ち代わりあそびに来ることも、決まった子が入所している学童とは随分違う。
さらに違うことは、「管理する」ことからの、頭の切り替え。これが、プレーパークで働き始めた頃の最初のハードルだった。
管理をしないと思いつつも、気づいたらしつけ風になっている。「こうしましょう」と押し付けようとしている自分がいる。ちょっとルールから外れて「やってみよっか」と思うこと。それが、なかなかできなかった。
主役は子ども。このことを自分の無意識の言動に落とすために、まずは、自分自身の常識や価値観の枠をはずしてみた。
つまり、このほうがいいとかこうしてあげたいと、「考える」ことをやめた。そして、子どもの“今”という瞬間を、ちゃんと「見る」ことだけを心がけた。
休日のプレーパークは、学童よりも関わる子どもの数は多い。しかし、ただ子どもにベクトルを向けて「見る」をしていれば、一人ひとりが見えてくる。だから「ケンカしたっていいじゃん」と、ドンと構えていられる。
プレーパークで働いて見えるようになったのは、目の前の子どもだけじゃない、その子と保護者との関係、学校などで起きた出来事、日頃の友達関係まで見えてくる。
地域の大人の人たちと一緒に地域の子どものためにつくる、オープンなあそび場なので、プレーリーダーと保護者や地域の方との関係が違うからだ。それが、プレーパークの面白さ、広がり、可能性。
プレーリーダーになってからは、学童保育『あそびーむ』で指導員をしている時も前とは違う、子ども、保護者、地域の方との関わりができるようになっている。
(誰でも無料であそべる地域のあそび場「光が丘プレーパーク」の様子)
「余白」を最大限に残しておきたい
「その子が自分で導き出したことが、その子の今にとっての正解だと思う」
子どもと関わる時、子ども自身が考える「余白」を最大限に残しておきたいと思っている。
大人は正解を知っているから、つい「こうだよ」と、教えたくなる。でも言わない。子どもが自分で正解を見つけることを待つ。それにはとても、根気がいる。
大人の顔色を見ずに、自ら考え、決めて、動いたかどうか。いわゆる「腹落ちする」という瞬間を経験すれば、きっと次も自分で動き始めると信じて、子どもが答えにたどり着くまで、とにかく待つことにしている。
もちろん、なかなか考えたり動いたりしない子、声にならないヘルプが見える子には、環境設定や状況を少し変えておいたり、人をつないだりと、気づかれないようにフォローすることもある。
プレーパークで働き始めてからは、腹落ちを積み重ねた子どもたちの変化を日々実感している。そして、「私流」ってこれでいいんだと…思えるようになってきた。
スタッフ募集:NPO法人あそびっこネットワーク・プレーリーダー
NPO法人あそびっこネットワークでは、2019年4月から一緒に働くプレーリーダーを募集しています。プレーリーダーとは、「プレイワーク(子どもが主体性を発揮できる環境づくりに必要な知識を、体系的にまとめた専門分野)」に基づいて子どもと関わる専門スタッフです。
小学校、学童保育、保育園の先生の経験がある方をはじめ、興味関心のある方は、下記の「スタッフ募集の詳細」からご連絡ください。
職種 | プレーリーダー(子どもの遊びに関わる専門職) |
雇用形態 | 常勤スタッフ(週5日勤務) ※初年度は1年契約ですが、その後正規職員になれる方が希望です。 ※週2〜4日勤務の非常勤スタッフも募集しています。 |
給与 | 【常勤】 初任給 :月収190,000円以上 マネージャー:月収300,000円以上 ※ 給与額は、年齢・経験を考慮して決定します。【非常勤】 日給:8,000円〜20,000円 ※ 土日を含む、週1〜3日勤務 ※ 給与額は、経験と能力を考慮して決定します。 ※ 大学生・大学院生のアルバイト、他のお仕事とのダブルワークも可能 |
福利厚生 | ・健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険 ・通勤手当、資格手当、職能手当、役職手当、住宅手当、家族手当あり ・集合研修、OJT研修制度あり |
業務内容 | あそび場(=プレーパーク)の運営全般を担います。 ・幼児~小学生までの子どもにとって魅力的な遊び環境づくり ・子どもが遊ぶために必要なサポート ・イベント実施(企画、準備、実施、必要書類の作成など) ・保育園、幼稚園、学童保育などの遠足受け入れ対応 ・安全管理、緊急時対応 ・保護者対応、近隣住民対応 ・広報媒体への記事執筆(ブログ、FB記事、定期発行通信など) ・学校やその他地域施設との連携 など |
期待する成果 | ・子どもが夢中になって遊べる、安心できる場をつくること ・1人ひとりの子どもと信頼関係を築くこと ・保護者や地域の方と一緒に、楽しいプレーパークをつくること ・現場で感じた“もっとこうしたら!”を提案し、事業に活かすこと |
勤務地 | プレーパーク開催時の勤務は『都立光が丘公園』内、及び練馬区内の公園で、出勤はあそびっこネットワークの事務所になります。 東京都練馬区旭町1-16-1 最寄駅:都営大江戸線光が丘駅より徒歩12分 |
勤務時間 | 週40時間 【常勤】週5日 【非常勤】週1〜3日 ※『光が丘プレーパーク』は、土曜日・日曜日勤務です。 ※勤務時間は、拠点により異なります。 |
休日休暇 | 【常勤】 ・週休2日 ・年末年始(12 月29日〜1月3日)・夏期特別休暇(5日間)あり |
応募資格 | <必要なこと> ・小学生の頃にたくさん外で遊んだ方 ・心身ともに健康な方 ・簡単なパソコン操作ができる方 ・普通自動車免許<あればより良いこと> ・Word/Excellレベルのパソコンスキル ・保育士、教員、放課後児童支援員、心理士等資格 |
求める人材像 | ・子どもにとって遊びは大切だと思っている方 ・子どもの自由な発想・意欲があふれる環境を作りたい方 ・乳幼児、小学生、中学生と、幅広い年齢の子どもと関わっていきたい方 ・1人ひとりの子ども・保護者に寄り添う関わりをしたい方 ・スキルアップの努力を惜しまない方 ・地域のコミュニティに興味がある方、好きな方 ・既存のルールや制度のとらわれず、改善提案ができる方 |
採用予定数 | 2~3名(即時または31年4月入職希望の方) |
選考プロセス | 1.書類選考 2.現場面接 3.個別面接&適性検査 4.最終面接 |
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。