(by U.S. Department of Agriculture)
食が文化の大切な一部であることは誰もが認めるところだろう。今回はそんな食のお話をしたいと思う。
学校教育の現場で食といえばそれは給食。日本で長い歴史を持つ給食は「空腹を満たすもの」としての役目のみならず、学校教育の一環としても重要な役割を担って来た。給食を通し、様々な食材をバランスよく摂取する指導、正しい食事作法を身につける指導などが実践されている。その給食の歴史はいつ頃から始まったのだろうか?
学校給食の歴史
(by Alan Miller)
はじまりは明治22年(1889年)、山形県鶴岡町(現鶴岡市)の私立忠愛小学校だと言われている。家が貧しいためにお昼の弁当を持って来ることが出来ない子どもが多くいた当時、この小学校を建てたお寺の住職が、おにぎり、焼き魚、漬け物といった昼食を提供していたそうだ。
その後、第二次世界大戦を経て、昭和25年(1950年)、アメリカ合衆国からの小麦粉を使い、8大都市の小学生児童対象の完全給食がおこなわれるようになり現在に至る。みなさんはこんな法があるのをご存じだろうか。日本における学校給食には学校給食法第2条で定められた「学校給食実施目標」が規定されている。(以下は学校教育法第二条より抜粋)
8つの教育目的
1.適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。
2.日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができる判断力を培い、及び望ましい食習慣を養うこと。
3.学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
4.食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5.食生活が食にかかわる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
6.我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
7.食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。
とある。多くの大切な事柄が述べられているのだが、今回は特に教育目標の4番と5番に注目してみよう。
食前と食後に感謝を示す日本
食前の「いただきます」、そして食後の「ごちそうさま(地域によってはいただきました)」は食事が全て生き物の命から成り立っていること、自分の口に入るまでに多くの方々がご苦労されていることに感謝する意味が込められている。これは教育目標第4と5に通じるものと言える。
日本で口にされているこの言葉、海外だとその習慣や言葉自体が無い国も多い。ドイツ、フランス、スペイン、イタリア語では「いただきます」の代わりに「良い食事を」を意味する言葉を使うことがあるが、日本語のそれとは随分意味が違うように思う。
例えば、ドイツでは食事の際に「Guten Appetit!」(直訳すると良い食欲を)、フランスでは「召し上がれ」を意味する”Bon apetit”という表現を使うが、そこには命や他者への感謝という意味がとくに含まれてはいるようには見えない。
一緒に「いただきます」と「ごちそうさま」をする文化
一昨年こんな事があった。アメリカから来た大学生13名をカウンセラーとして開催したキャンプに福島の子ども達を招待した。
キャンプ中はグループごとで食事をするのだが、カウンセラー達は誰かを待つということはせずに、着席するのと同時に食事を始めた。その状況に戸惑ったのは子ども達。
カウンセラーも席についた人から食事をしなさいと指導するので一斉に「いただきます」をする文化で育った彼らはどうして良いのか分からない。
これは決してカウンセラーのお行儀が悪いわけではなく、彼らの文化では至って普通のこと。アメリカでは宗教によって食事前にお祈りをする人々はいるが、一般的には一緒に「いただきます」をする文化がない。
あっ、誤解のないように言っておくと、特別な日の食事はちゃんとみんなで同時に食べる。
さて、子ども達の戸惑いを敏感に感じとったアメリカ人学生はすぐにその問題点に気づいた。そこから毎食日本語で「いただきます」「ごちそうさま」を使うようになったのである。
学生は「日本の習慣を知らなかった。とても素敵なことだから、その二つの言葉をキャンプ中は使うことにしたよ」と述べていた。そんな彼らが育ったアメリカの給食はどんな様子だろうか?
(by Bread for the World)
アメリカの学校では、生徒たちは好きな物を好きなだけ自分で盛り付ける。結果、栄養的には偏りが出て来るのは想像に難しくない。
近年、National School Lunch Program (NSLP)の努力によりバランス良く食べることが推奨されている。ちなみに自分の皿に盛りつけた食事は、口に合わなければそのままゴミ箱へ捨ててしまう子がとても多いのが特徴。残すことにあまり抵抗がないように見えることが多い。
簡単に捨てる行為は個人的に良いとは思えないけれど、個人の意思が尊重されるアメリカらしい一面でもある。語弊はあるが捨てる自由も尊重されるということなのかもしれない。
食から相手への気遣いを学ぶ心の教育
日本では昔から「もったいない」という言葉がある。物の本来あるべき姿がなくなるのを惜しみ、嘆く気持ちを表す言葉。日本文化では食べものを含め、物を粗末にせずに慈しむことが良しとされて来た。
その結果、食と心の教育は密接な関係を築き現代まで受け継がれている。食事習慣の違いは一つの価値観から善悪の判断が出来るものでない。その文化の違いを相互に理解し、尊重しあう事が相手への理解へと繋がるのだろう。
日本に古来から伝わる礼法には「相手の食べる早さや気持ちに合わせて食事を進めることが最も大切」とある。食から相手への気遣いを学ぶ心の教育。これは世界に誇ることの出来る日本文化の良さだと思う。
多文化共生子どもサポート団体「感環自然村」代表/通訳・翻訳家
南イリノイ大学農学部森林学部野外教育科卒。J.A.ローガンカレッジ救急救命士過程卒。イリノイ大学消防大学卒。
幼少期から野外活動に親しみ、22歳で渡米。米国イリノイ州立南イリノイ大学で野外教育を学ぶ傍ら、J.Aローガンカレッジにて救急救命法を習得し、同国にて救急救命士国家資格を取得。大学卒業後、米国消防署にて救急救命士/消防士として勤務。帰国後子どもキャンプ企画運営に携わり、2010年地域の子ども達が言語、国籍、障がいの有無に関係なく集える場として感環自然村設立。
主な通訳歴:ニューヨークヤンキース、ボストンレッドソックス、シアトルマリナーズ、日米野球ディスカバリーチャンネル、BBC、トラベルチャンネル、ブラジルバブーンフィルムズ、国際スキー連盟、イリノイ州政府森林局、FIPS国際会議、他