教職員の声を見える化し、社会へ届ける取り組み、「School Voice Project」。
”タイムリーに声を聞く。”
”賛成か反対かだけではなく、グラデーション部分の声も拾う。”
発起人の武田緑さんにお話を伺う中で、この取り組みの主旨や、大切にしている部分が少しずつ明らかになってきました。
「学校現場をよりよくしたい」「でもどうすればいいのかわからない」、そう感じている教職員の方々にとってこの「School Voice Project」は、「一緒に声をあげようよ!」とエンパワメントしてくれる存在。
この取り組みが今後、社会に対してより多くの教職員の声を届け、学校現場によりよい変化をもたらすために、必要なことはなんでしょうか。
本記事は武田さんへのインタビューの後編になります。
信頼を得ていくために
-市民セクターとして声を集めて発信していくにあたり、数が大きくなればなるほど力を持つことになると思いますが、「信頼性」についてはどのように担保していくのでしょうか。
現状、私の個人事務所の一プロジェクトのような位置づけになっているので、NPO法人や認定NPO法人など法人格を有する組織の形を目指したり、理事や運営メンバーの中に信頼性を担保できるような人材を確保したり、ということは考えています。
個人情報の取り扱いに関しても、弁護士さんと相談しながらガイドラインを作っているところです。信頼を得ながら運営を続けていくために、組織としての基盤を整える必要があるという課題意識は持っています。
-社会へ向けて発信する内容としての信頼性の部分はいかがでしょうか。
「フキダシ」に登録しているのは100%現役の教職員のみですよ、と言い切れたら、内容としての信頼性も一定確保できると思うのですが、それを証明するための「実名」「勤務校名」の登録を必須にするかどうかは、かなり迷いまして。
もっと厳格にすれば、登録するメールアドレスを勤務校のものにしてもらったり教員免許状の写真をupしてもらうなどしないと、教職員であることの証明ができないですよね。でもそこまでしてしまうと、きっと現状では怖くて登録できない人も出てくると思います。なので、そこまでは求めていません。
「実名」「勤務校名」の項目についても登録は任意にしています。登録しても、登録しなくてもいい。これについては賛否両論、意見が分かれるところだと思いますが、現状としてはこの方針で進めています。
この取り組みが広がり、政策提言をしたり、メディアに出たりなどの実績を積んで、プラットフォームとしての信頼性を得られるようになることが第一段階だと考えています。信頼性を得られるようになれば、「実名登録してもいいかな」と思ってもらえるフェーズが来るかなと思っています。
事実としての情報発信と、ロビイングは分けて考える
-「フキダシ」で実施したアンケートへの回答は、具体的にどのように活用していくのでしょうか。
たとえば「○○の実施についてどう思いますか?」というアンケートをとって、仮に賛成が9割、反対が1割いたとします。反対より賛成の方が圧倒的に多いという事実はあるのですが、だからといって「実施をやめてください」というアクションをSchool Voice Projectとして実施することはしないです。1割の人が賛成と言っているので、それをすると1割の声がなかったことになってしまう。
「フキダシ」というアンケートサイトとしては、アンケート結果をニュートラルに、公平に情報発信する。つまり、「フキダシの教職員アンケートでは9割の方が賛成、1割の方が反対と言っています。それぞれ、主な理由はこのような点で、そこからこんな論点が見えてきました」というような発信をすべきだと考えています。
アンケートの結果を踏まえて一定の方向性を持って運動を展開する場合は、School Voice Project とは主体を分けるべきだろうと考えています。
-なるほど。すごく重要な観点ですね。集めた声は運営側が情報発信する際の根拠や裏付けとして使われるわけじゃなく、1割の小さな声も尊重するということですね。
そこはすごく大事にしたいと思っています。極論を言ってしまえば、先にお話したような賛否分かれるようなアンケートをとったときに、賛成のロビイング活動と、反対のロビイング活動、両者が同時に起こってもいいと思っています。
-「フキダシ」としては、あくまでも教職員の方々の意見の事実を伝えることが主旨なんですね。それを知ったら、この取り組みにより賛同する人が増えるんじゃないかと思いました。
確かにこの部分は今まであまりお話してこなかった部分なので、今後発信していきたいですね。アンケート結果を私やSchool Voice Projectの都合のいいように使うわけじゃなく、結果を踏まえてどのような動きを起こしていくかどうかも、教職員の方々次第であるということが大切だと思います。
「北風と太陽」の“太陽”を担うSchool Voice Project
-これまでクラウドファンディングに取り組まれる中で、周囲からの意見や疑問などは何かありましたか。
今後の運営費用をどう確保していくのかをついて聞かれることはありますね。それについてはまだ構想中ではあるのですが、マンスリー寄付のような仕組みを作ったり、企業さんやメディア、研究機関などに協賛広告を出していただいたり。サイトのビューが増えていくにつれて、教職員が見るようなサイトで何か宣伝をしたい方に、広告を出してもらうこともできるかなと考えています。
ただ、最初からこういったことに力を注ぎすぎると軸がぶれるかなとも思っています。なので、クラウドファンディングである程度まとまった金額を集めさせてもらって、そのお金を使いながら今後1~2年は最低限の人件費を賄い、運営を続けられるようにしたいと思っています。
-今回のクラウドファンディングは、School Voice Projectがスタートダッシュを切るためにとても重要な位置づけなのですね。今、寄付で応援してくれている方は、どのような方が多いのでしょうか。
大多数は現職の教職員か、元教職員ですね。クラウドファンディングを始めた当初に特に多かったのが「家族に教職員がいる」という方々。たとえば両親が教職員だったとか、娘が教員をやっているとか。
-やはり教職員の方々が多いのですね。ちなみに、教職員以外の方々にこのプロジェクトの価値はどのように伝えていきたいと思っていますか。
「学校がよくなってほしい」「子どもたちに幸せに学校生活を送ってほしい」ということは、世の中の大半の人が思っていることだと思います。そのためにキーとなるのは、教職員が元気なこと。
学校や教職員たちが何かとバッシングされる風潮が強いじゃないですか。もちろん変わるべきこともたくさんあると思うのですが、北風と太陽で言えば、太陽路線でアプローチしていくことでしかよくならないこともいっぱいあると思うんです。あっためる装置としてのSchool Voice Project、という感じで理解してもらえたらと思います。
お子さんが不登校の保護者の方から、このプロジェクトへの応援コメントをもらえたことがあって。先生たちが厳しい状況でしんどいから、うちの子どももしんどいんだなと思ったという言葉をいただけて、そういうふうに受け止めてもらえるととても嬉しいですし、ありがたいなと思いました。
-このプロジェクトを通じて、学校で日々子どもと向き合いながら奮闘している教職員の方々にスポットがあたり、理解や共感が広がっていくといいですよね。
インタビューはこちらで終了となります。お話をいただきありがとうございました。教職員の方々の小さな声が社会に届き、学校現場がよりよく変わっていくことを心から応援しております。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。