School Voice Project は、学校現場の声を「見える化」し、対話の文化を生み出すプラットフォームです。
今回、教員としての思いを語ってくれたのは、札幌市の公立小学校に勤務する大野睦仁さんです。教職員や子ども、一人ひとりの声に耳を傾けようとする大野さんは、過去にどのような経験をしてきたのでしょうか。ご自身のストーリーと、School Voice Projectに関わる理由を語っていただきました。
「No Music No Life」音楽なしでは生きられない札幌の市内の公立学校に勤務する教諭。選べない、ココしかない子どもたちと先生たちと一緒に、「学習者主体の教室づくり/対話を通した職場づくり/内省を生かす自分づくり」を模索中。「教師力BRUSH-UPセミナー」事務局。札幌市近郊サークル「Go-Ahead」代表。主な単著・共著
単著『「結びつき」の強いクラスをつくる50のアイデア』(ナツメ社)『6ステップでつくる! 本気で考える道徳授業』(明治図書)/共著『笑顔と対話があふれる校内研修』(学事出版)』/編著『小学校高学年 学級経営すきまスキル70』(明治図書)など/一部執筆『クラスを育てるいいお話』(明治図書)など多数。Twitter、Instagram、Facebook、note…それぞれ「大野 睦仁(mutsuhito ohno)」で、「当たり前」や「映え」を問い返す発信を継続中。
最初の勤務校での葛藤が、子どもたちと向き合う原点に
僕は教師として最初の勤務校が特別支援学校でした。志願して支援校にいったわけではなかったので、その3年間は自分の中で葛藤が続きました。
クラスには重度・重複障害といって、自分では動けない(寝返りを打てない、食事を取れない、排泄ができない等)子どもたちがいました。僕の中途半端な関わり方に何か感じたとしても、僕に伝えられる形で反発もできない子どもたちに、甘えている感覚を持ちながら仕事をしていました。
子どもたちの人生を預かっているのだから、そこにコミットしたい人が関わるべきだと思うのに、中途半端に関わっている自分がここにいていいのかと思い悩む日々でした。それが苦しくて体調を崩し、救急車で運ばれたこともありました。
4年目に勤務校が変わった後は、そこから逃げてきたという気持ちを抱えていました。でも、初任校の同僚が「これから赴任する学校では、この子たちから学んだことを活かすことが役目だよ」と言ってくれたので、異動をし、これからは子ども一人ひとりと向き合っていこうと決意しました。
子どもたちを一括りにせず、一人ひとりに目を向ける
それから僕は、一人ひとりの良さが可視化される機会や、多様性を認識できる環境づくりを意識するようになりました。
子どもたちの自己表現はさまざまですが、活発な子の良さは可視化されやすく、内に秘めた思いのある子の良さは気づきにくいため、一人ひとりにスポットライトを当てることを大切にしています。
例えば、ほぼ日刊で出している学級通信では、子どもたちの声を紹介することが多いです。そこで紹介される声を通して、「この子は、こんな思いを持っている」ということをクラス全体に広げたいという思いがあるからです。
でも僕は、これまで本当に失敗の連続でした。口先でもっともらしいことを言って、「見たいようにしか見てこなかった」からです。
クラスでは「サークルトーク」というものを20日に1回行っています。これは、子どもたちが円(サークル)になり、思ったこと、感じたことを共有する場です。普段それほど接していないクラスメイトが今どんな思いを持っているのかなどを知ることができるため、とてもうまくいっていると感じていました。
しかし、ある保護者から「うちの子はサークルトークが苦手だと言っていました。あの場は好きだけど、自分に視線が集中することがつらいようです」と伝えられて、初めて子どもの心の声に気がつきました。
結果的には「サークルから外れたら大丈夫」と言ってくれたので解決はしたのですが、大多数にとって良いことでも、苦しいと感じる子がいることを思い知らされた出来事でした。
このような経験から、自分はできている、やれている、わかっていると思わないようにしています。
教師というのは、場面によっては万能感を持ちやすい職業です。子どもに指示が通ったり、保護者に称賛されたりすると自分のやっていることが強化され、勘違いしてしまうことがあります。
そうならないために、どんなにうまくいっていても、子どもや保護者、一人ひとりの声を聞くことを心がけています。それでも、まだまだ声を聞く力が足りず、上手くいかないことを繰り返してしまっています。
これまでに関わってきた子ども達の思いも引き受ける覚悟で発信
これまでの自分の失敗をできる限り引き受けていきたいという気持ちで、SNSで実名発信をしています。実名でやっていれば、検索すれば見つけることができるので、もし過去に嫌な思いをした子が見つけたら、僕に伝えることもできる。そういう声を引き受ける状況に身を置くためにも、実名にこだわっています。
また、内容に関しても、表面的で一般化されたことを発信しても、子どもや保護者、同僚には見透かされてしまうので、自分の言葉で自分の実践を発信することを意識しています。
先生一人ひとりの声を聴き、対話をする
学校で子ども一人ひとりに幸せになってほしいと思うと、自分のクラスだけうまくいってもそれは実現しません。他の先生との関わりを大事にする必要があります。
授業研究の文化は働き方改革の文脈ではネガティブに捉えられてしまうことも多いですが、それぞれの先生がどんな子どもたちと向き合ってどんなことを考えているかは、授業を見るとわかります。授業を見て、対話をすることを大事にしています。
対話においては、年代などの属性で切ってしまうのではなく、その先生ごとに見て、理解し合うことが大事だと思っています。ある先生にこだわっていることがあれば、なぜそれにこだわっているのかの背景に目を向け、対話をしたいと思っています。
制度や仕組みに目を向けないと、本当の意味で学校は変わらない
子どもや保護者、先生が主体的に学校に関わっていけるといいなと思っています。そのためには、制度や枠組みから変えていかなければ、本当の意味で良くしていくことは難しいと思うようになりました。自分自身でもさまざまなことに取り組んではいますが、それだけでは限界を感じています。
僕は、”ここ(公立学校)”で働くことにこだわってきました。なぜなら、”ここ”にしか来れない子どもたちの中には、地域的に選択肢がない、選択肢があっても家庭の状況によって選べないという事情を抱えている子もいます。子どもだけでなく、先生にも”ここ”でしか働けない人がいます。そして、”ここ”は、さまざまな制限も多いです。
そのような中で、自分の領域だけで頑張るのでは限界があります。いろんな人が関わってごちゃ混ぜになって、子どもたちを育てていくことが大事だと思っています。
そのために僕たちが考えていることや取り組んでいること、どんな風に動いているのかを知ってもらえるだけでも School Voice Project の意義があると思っています。
アクションを起こしたい教職員の方へ
SNSなどの発信は、例え小さな事実や取り組みでもキラキラした側面が強くなったり、主語が大きなまま広がってしまったりする可能性があるので、その点は気をつけなければならないと思います。
しかも、外に発信することだけが重要なわけではないので、発信が目的にならないように、まずは目の前の子どもたちと向き合ってできることはないか?と考え、職場で変えられることをやっていくことが大切だと思います。そうしていく中で、周囲を巻き込む輪を広げていけばいいと思います。
その際に、いろんなアクションの方法があるので、SNSで発信したり、このようなプロジェクトで声をあげたり、自分なりの方法を見つけられるといいのではないでしょうか。
(文:高野雅子 編集:建石尚子)
「School Voice project」では、学校をよくしていくためのヒントが詰まっている「現場の教職員の声」をアンケートを通して「見える化」し、各学校で参考にできるかたちで発信したり、メディアや教育行政(文科省や教育委員会)に届ける活動に取り組んでいます。