今回、学校事務職員としての思いを語ってくれたのは、横浜市の小学校に勤務する上部充敬さんです。「誰もが自分のありたい姿を描くことができる世の中を創る」というビジョンをお持ちの上部さん。
その思いの源泉やモチベーションにはどんな背景があるのでしょうか。ご自身のストーリーと、School Voice Projectに関わる理由を語っていただきました。
上部充敬(うわべ みちたか)
横浜市立学校事務職員。認定ワークライフバランスコンサルタント。校内コンサルタント養成講座第1期修了生。魔法の質問キッズインストラクター。学校デザイン実践プラットフォーム参加。
うまく生きることができない方が、不器用にでも楽しく生きていける社会づくりに貢献したいと思いながら、学校で働いています。互いの「大切にしているものに」共感と共鳴をできるよう、それぞれの生き方やありたい姿に興味を持ち、学びを重ねる日々です。全ての教職員が、「帰り道に幸せを感じる生き方」「明日、学校に行くのがワクワクする働き方」を模索しています。
ビジョンは持っているが、叶え方がわからないだけ
私には「誰もが自分のありたい姿を描くことができる世の中を創る」というビジョンがあります。
私もそうなのですが、自身で特に秀でているものがないと思っている中間層は、チャレンジすることへのリスクや失敗を懸念し、現状を変えることを諦めてしまう人が多いように感じています。学校現場でもそのような状況を目にすることは多くあります。
それは、どのようにチャレンジすればいいのかやり方がわからないだけだったりもするので、誰もが持っている夢や希望を叶えながら、その人たちが輝ける仕組みをつくっていきたいと思っています。
そのために私は、自分の働く学校現場の「環境づくり」に取り組んでいます。
以前勤めていた学校の校長から「環境が変われば意識が変わり、意識が変われば働き方が変わる」という言葉を教えてもらったことがきっかけでした。環境を変えることで自分自身が輝けたことがあり、他の人も同じではないかと思うようになったんです。
15分の会議から、教職員の「対話の文化」を築く
現在の勤務校では校長の経営方針で、教職員が有志のプロジェクトを立ち上げていいことになっているので、「働く場を自分たちで変えていこう」というプロジェクトを立ち上げました。
ただ、普段から対話の機会が少ない中で、いきなり目的に沿った本質的な話をするのは難しいと思いました。なのでまずは「対話すること」を目標として設定し、有志を募って15分間の短い会議の場をつくりました。
具体的には、何がやりたいかだけではなく、なぜそれをやりたいのか、どこを目指すのかといったビジョン・ミッションづくり、大切にしたい価値観のすり合わせなどを話し合いました。
会議をする上で工夫しているのは、「短くやる」「楽しくやる」「定期的にやる」の3つです。忙しい日々の中で長い会議をするとさらに疲れてしまうので、延長しないようにあえて職員会議の前の時間に設定したり、最初にゲームをして楽しい雰囲気をつくるなど、話しやすい環境をつくっています。雰囲気ができたあとは、先生の主体性に任せます。
もともとやりたい人たちが集まっているので、一人ひとりが主体的にアイディアを持ち寄ることで、先生の目が生き生きして議論が前に進んでいくのがわかります。私自身もそんな先生のサポートができるよう、働き方改革のコンサルタントの勉強をしました。習ったやり方を試しながら最適化し、場づくりに活かしました。
一人ひとりが立場の違いを活かし、発展する組織づくりへ
このプロジェクトを通して、先生の中にさまざまな思いや背景があることがわかりました。例えば一見、厳しく聞こえる意見をくださる方であっても、話を聞いてみると「自分のような思いを子どもたちにさせたくない」という背景があったりします。
そんな声を活かすには、管理されたトップダウン型の組織ではなく、それぞれが立場の違いを活かして一つの課題や未来に向かって話し合い、発展していける組織づくりが必要だと思っています。
学校は、営利企業のように収益に影響されることなく組織を運営することができるので、純粋に目的を追える点は強みです。目的をぶらさず前に進むことができるので、それぞれの裁量を活かすことで先生がクリエイティビティを発揮し、可能性が広がると考えています。
事務職員には、学校で使う備品や教材の管理・発注などの仕事があります。今年度は、ある程度の予算を渡して、先生たちがお金の使い道を考えることができるようにしています。正直に言えば、私が自分でコントロールできる部分が減るので突発的なことが起きたときの不安もあり、先生に裁量権を渡すことに対しては怖い気持ちもあります。
ただ、事務職員の仕事は感覚ではなく、データに基づいて判断して動くべきだと思うので、これまでの予算の執行履歴を取っていけば、大体「この校務分掌はこれくらいの予算が必要」といったことが見えてきます。今はそこから予測して、先生に預けることにチャレンジしています。
これはデータベースがないと難しく、判断に必要なデータ収集には2、3年かかります。先生もお金をいきなり渡されても困ると思うので、ある程度使い方を根付かせ、予算への考え方の土壌を作る必要があるので根気のいる仕組みづくりであると感じています。
モチベーションは子どもたちの姿
このような取り組みをしていると、モチベーションの保ち方や心が折れない秘訣を聞かれることがありますが、大きく2つあると思っています。
1つ目は、「大人が学び続けることは子どもの幸せにつながる」という考えを大切にしているところです。
学校事務職員としての初任校で部活動の顧問をしていたのですが、そのチームは実力があったにも関わらず、大事な試合では勝たせてあげることができませんでした。今でもそのときの子どもたちの涙が忘れられません。
当時の自分には経験も知識も足りなかったため、今後、このような後悔をしないために学び続ける必要性を強く感じました。子どもたちの幸せを願うのであれば、大人が学び、チャレンジし続け、力をつけなければならないと思っています。
2つ目は、「自分がやりたいからやる」を軸としているところです。
誰かに言われたからではなく、自分がチャレンジしたいと思ったことは試してみます。それで反発があったとしても、やり方が悪かっただけで、前に進んでいないわけではないとポジティブに捉え、次の行動につなげています。
心が折れてしまっては、この仕事に就きたいと思う人がいなくなってしまうと思います。子どもたちの将来の選択肢の中に「学校事務職員」が入って欲しいと願いながら、楽しんで取り組むようにしています。
事務職員という立場を活かした実践
これまでの環境づくりに関する実践は、事務職の特性とマッチしていると感じています。先生は多忙なこともあり、職員室の環境をあまり重視していません。教室で作業する人もいますし、みんなが働く場を整えることへの重要度や優先度は高くないと思います。
ただ、みんなが集まる職員室は情報共有の場として重要です。先生は日々大きなストレスを受けているのを経験上知ってるので、心を癒やす場としても必要だと思います。
先生たちとは異なる立場の事務職員だからこそ、気付くこともあります。今後も自分の立場を活かし、先生がチャレンジしていける場づくりをしていきたいです。
不器用な人が語り、具体策へつなげていける場づくりを
正解のない中で、学校をより良く変えたいと思ってチャレンジしたものの、つらい思いをして諦めてしまう方々にとって、もっとざっくばらんに語り合い、支え合える場があるといいなと思っています。
最終的には職場の人と協働していく必要がありますが、さまざまな活動をする中で全国に自分と同じ思いの人がいることを知りました。その一つが、「School Voice Project」です。具体の解決策まで考えられる場があるのはすごいことだと思うので、ぜひ全国の“思いはあるけどうまくいかないなぁと悩む不器用な方々”に集まってもらいたいです。
(取材・文:高野雅子 編集:建石尚子)
「School Voice project」では、学校をよくしていくためのヒントが詰まっている「現場の教職員の声」をアンケートを通して「見える化」し、各学校で参考にできるかたちで発信したり、メディアや教育行政(文科省や教育委員会)に届ける活動に取り組んでいます。