政府が公表している平成27年版子ども・若者白書によれば、15~34歳の若年無業者は56万人、フリーターは179万人とされています。「無職や非正規の状態を脱して、正社員として就職をしたい」と考えて実際に就職活動に取り組んでも、学歴や職歴、ブランクなどの経歴の不足、コミュニケーションや主体性などの基礎能力の不足から就業する機会を得られない若者は少なくありません。
その状況に対して、行政やNPO、職業紹介事業などを行う企業による様々な就職支援が以前よりも行われるようになってきました。そのような中、NPO法人夢職人では、(株)セールスフォース・ドットコムの協力のもと、正社員を目指す無職や非正規の若者に対して、「BizAcademy」という就職支援プログラムを提供しています。
「BizAcademy」は、(株)セールスフォース・ドットコム日本法人設立以来、毎年さまざまなNPOと連携し取り組まれてきた若者支援プログラム。3年前から就業に特化したプログラムとして進化し、夢職人では2年前よりパートナーとして「BizAcademy」の運営を担っています。
(セールスフォース・ドットコムの人事採用チームが応募書類や面接に関する指導を直接行った)
「世界で最も革新的な企業」が後押しする若者の就職支援プログラムとは?
米国カリフォルニア州サンフランシスコに本社をおくセールスフォース・ドットコムは、クラウド型の CRM/顧客管理やSFA/営業支援を世界15万社以上に提供し、米Forbes誌にて5年連続「世界で最も革新的な企業」の1社に選ばれているグルーバル企業です。
セールスフォース・ドットコムでは、社会貢献部門として「Salesforce.org」を設立し、セールスフォース・ドットコムの人材、テクノロジー、資金を活用して世界中のコミュニティを向上するというシンプルなアイディアに基づいて活動を展開しています。この、ビジネスと社会貢献を統合したアプローチを1-1-1モデルといいます。
1999年の設立以来、世界中においてセールスフォース・ドットコムのテクノロジーを提供し支援してきた非営利団体および教育機関の数は29,000以上、助成金は1.28億ドル以上、社員がボランティア活動に費やしてきた時間は160万時間を超えています。
現在の「BizAcademy」は、正社員を目指す無職・非正規雇用の満18歳~34歳の若者を対象とした、短期集中型の約10日間の就職支援プログラムです。参加するにあたっては、学歴や就業経験は不問です。
参加者の経済状況を考慮し、参加費が無料であるだけでなく、交通費などの自己負担もなく参加できるようにと、5万円の参加手当が支給されているのも特徴です。2014年以降の「BizAcademy」をきっかけに企業に就職し、実際に正社員として活躍している修了生が増えています。
2016年は、さらにバージョンアップしたプログラム内容に
2016年の「BizAcademy」は、より就職活動に実用的な内容にバージョンアップしました。短期間で就職活動に必要な応募書類・面接対策を行い、ITに関する専門的な知識や技術の基礎を学びます。
今回は、(株)セールスフォース・ドットコム以外にも、(株)セラク、rakumo(株)、マネーツリー(株)、ブレインハーツ(株)、(株)ユー・エス・イー、NPO法人CANVASからご協力を頂いています。プログラムは、大きく3つの要素で構成されています。
一つ目は、就職活動に直結する履歴書・職務履歴書・自己PR書などの応募書類の作成・添削指導、採用面接の指導です。自己分析からはじまり、書類や面接で適切なコミュニケーションができるように、第一線で活躍するセールスフォース・ドットコムのリクルーティングチーム(採用部門)が直接、指導を行いました。
プログラムに参加する前は、インターネットや書籍に頼らざるを得ない状態であり、一人の就職活動では「これで良いのか?」とわからないことも多く、暗中模索で行っている状況でした。実際の採用担当者から指導を受け、具体的かつ実用的な指導を受けることができました。どのように自己分析を行えば良いか、書類や面接のどこが悪いのか具体的なフィードバックを受けられたことがとても有益だったようでした。
二つ目は、IT業界や技術について理解を深めるための講義・演習です。最新のIT業界の状況や職種・キャリアパスなどについて、セールスフォース・ドットコムのエンジニアやそのほか現場で活躍する社員が講義を行いました。また、プログラムに協力を頂いている企業より、ネットワークやプログラミングなどの技術的なトレーニングも併せて行いました。
実際に体験することで、ITに関する漠然としたイメージが、最新の具体的な情報を得ることができ、はっきりとした枠組みで捉えることができるようになっていました。IT業界でどのようなキャリアパスを描いていくことが自分に合っているのかを考える指針を得ていました。
(協力企業のご支援を頂き、ITに関する理解を深めるため、ネットワークやプログラミングの基礎を演習形式で学んだ)
三つ目は、適切な労働観の醸成、就労への不安を低減するための講義や企業訪問、メンタリングを行いました。正社員として働くうえでの具体的なイメージ作り、不安や疑問などに対してのフォローアップを参加者一人に付き複数人のセールスフォース・ドットコムの社員ボランティアが担当しました。また、プログラムに協力を頂いている企業の職場訪問なども併せて行いました。
実際に企業に就職した先輩の「BizAcademy」修了生が登壇し、今回の参加者に対して、プログラム修了後から現在までのストーリーを話してくれました。正社員になるだけではなく、すでに現場のチームでリーダーを務めていたり、地方でテレワークの先駆的な取り組みにチャレンジして活躍している先輩の「BizAcademy」修了生の話は、今回の参加者にとって大きな刺激となっていました。
最終日の報告会では、参加する前には想像もつかなかったほど自信に溢れた表情や言葉で、これから新しい一歩を踏み出そうとする参加者の姿に多くの称賛の声が上がっていました。
(企業訪問を行い、実際にBizAcademyを通じて就職した先輩の修了生から現在の状況とこれまでの経緯を聞いた)
「つまずき」は誰にでも起こる可能性がある。再チャレンジを支える仕組みが必要。
2016年の「BizAcademy」には、20歳~34歳までの16名の無職や非正規雇用の若者が参加しました。首都圏だけでなく、東北や北陸などの地方からの参加もありました。プログラムの趣旨の通り、過去に不登校・中退やひきこもり等の挫折経験があったり、心身の健康問題などで職歴にブランクがあるなど、様々な「つまずき」を経験したバックグラウンドを持った若者が参加しています。
参加者の話を聞いて改めて感じるのは、彼らの経験している「つまずき」は誰にでも起こる可能性があり、再チャレンジができる機会も限られ、それをサポートする仕組みもまだまだ不十分だということです。
はじめての就職した企業で「つまずく」ことは、自己責任だけの問題ではなく、けして特殊なことではありません。若者の就職をサポートする大きな役割を果たしているのが学校です。しかしながら、既卒者に対する支援まで積極的な学校はごくわずかです。まだ就労経験の少ない若者が即戦力として経験やスキルを重視する転職者市場で選ばれるのは容易ではありません。
就職活動は、合否のみが伝えられるのが一般的であり、何がどのように悪いのか自分で気がつくしかありません。上手くいかない状態が繰り返され、長期化してくれば、どうして良いか途方に暮れ、自分は社会に不要な存在なのかと心が折れてしまうことは当たり前の状態だと思います。
先進国の中で労働流動性が低いと言われる日本で、「新卒」という枠組みで軌道にのることができなかった若者の頼れる先が都市部と地方でも差があり、まだまだ不十分です。成熟産業から成長産業への人材のシフトが必要だという声も聞かれますが、そのために必要な知識やスキルの基礎を学べるステップアップの場がないことも人材がシフトしない要因になっていると思います。
労働人口が減少する日本社会では、企業が若者を「採る」ことだけでなく、企業とNPOが連携しながら若者を「育てる」という仕組みを考えていくことは、非常に合理的な視点です。「BizAcademy」のような若者支援のモデルは、他業界でも実施可能な若者支援のモデルであり、新しい一石を投じるプログラムとして発展させていく必要があります。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。