初等教育保育・幼児教育

子どもの運動能力を高めるために必要なこと(後編)-運動嫌いを生み、生活習慣病のリスクを高める体育や運動会

子どもとサッカーボール

前編の記事では、幼児や小学生の運動能力や運動意識に関する様々なデータを用いながら、一斉指導ではなく、自由に遊んだり、体を動かしたりする時間や空間を保証した方が、結果として運動能力も上がっていく、ということも示していきました。

後編の記事では、学校教育で行われる運動における、「競争」や「順位」という概念や、運動そのもののあり方を考えていきます。

幼児教育の現場で感じていたこと

私が幼稚園教諭として勤務した園は全部で三つありますが、たまたまどの園も自由保育と一斉保育が半々、といった形でした。基本的には子どもの自由な遊びを大切にしていましたが、時々、体操やサッカーの先生が講師として教えに来る時間がありました。

その時間を見ていて思ったことは、得意な子はとても楽しいのですが、苦手な子にとってはとても苦痛な時間であっただろうな、ということです。

鉄棒や用具などを使う体操は順番が決まっていて、後ろから次々に友達が来るというプレッシャーも感じながら、できなければ講師の先生がそばに来てできるまで行い、終わればまた次の順番を待つ…という繰り返しでした。

私の記憶では、体を動かすことが苦手だった子が、その体操の時間を終えた後に、自主的に体を動かして遊んでいた姿を見たことがありません。「室内でばかり遊んでいる子が、楽しいと思える遊びは何だろう?」と考えながら、鬼ごっこやボール遊びに誘っていた記憶があります。

フィンランドの校長先生が、日本の体育を見て驚愕したこと

今年の2月6日に放送された「世界が驚いた日本!スゴ~イデスネ!!視察団 2時間スペシャル」(テレビ朝日系)で、フィンランドの校長先生が日本の体育を見学し、異議を唱えたことが話題になりました。

校長先生は、日本の小学校のマラソン大会で順位をつけ、1位~数名まで賞状を用意していることに対して、「がっかりした」「このような大会は子どもたちが運動を好きになって、将来、社会に出たときに健康を維持するために走ったりすることが本来の目的では?」と述べたそうです。

日本ではお馴染みの光景ですが、フィンランドの校長先生からすると異常な様子に見えたようです。

運動会

運動は競争心を養うために行うのか?

誰しも経験あると思いますが、日本の体育の授業や運動会では、順位や勝敗をつけることが一般的です。リレーやかけっこなどで負けて、悔しい思いをした方も多いと思います。

しかし、「悔しい」ならまだしも、負けたりビリになったことで、「もう運動はやりたくない」「嫌い」となってしまうことが、本当に望ましいことではありません。

オリンピックや国際的な大会など、プロの選手たちが出場する大会で順位等を設けることは理解できます。しかし、学校で行う運動について、子ども一人ひとりに明確に順位をつける必要がどこまであるのでしょうか?

なぜ、そもそも運動することが必要なのかと考えると、文部科学省では、幼児期に運動習慣を身に付けることで、「生涯にわたる健康的で活動的な生活習慣の形成にも役立つ可能性が高く、肥満や痩身を防ぐ効果もあり、幼児期だけでなく、成人後も生活習慣病になる危険性は低くなると考えられる。」(文部科学省:幼児期運動指針)と記されています。

昨今、運動に関する疫学研究が多く発表され、運動をしない人よりも運動をする人の方が、生活習慣病を発症するリスクが低いという事実が分かってきています。

運動は、幼稚園や学校に通っている期間だけではなく、成人した後も定期的、習慣的に行わなければ意味がありません。

そう考えると、子どもの競争心を煽るためだけの競争は無意味です。むしろ、運動嫌いな人を増やし、成人後に運動する習慣がない大人を育てていると言っても過言ではありません。

もちろん競争があることで能力を伸ばしていける子どももいると思います。しかし、「ビリ」「下手」「不得意」というレッテルを貼られた子どもたちは、その後、運動が嫌いになると考えてもおかしくありません。

保育園の外遊び

運動にもっと楽しさを!そして運動できる場所や環境を整えることが大事

学校教育の中では、意味のない「競争」や「順位付け」は廃止し、もっと子どもが楽しく運動できる方法を考える必要があると思います。能力の高い、低いではなく、その運動行為を行っていることそのものを評価するべきです。

マラソン大会で言えば、全体での順位を付けずに、子ども一人ひとりが「走り切った」という感覚をもてれば十分です。かけっこに関しては、順位を廃止し、「みんなで一緒にゴールしましょう」という極端な方法を取り入れている学校もあると聞きますが、かけっこそのものの形を残したまま順位だけ排除すること自体が滑稽に思えます。

運動会などは「客に見せるもの」という風潮もあるので、全てを変えることは難しいかもしれませんが、運動は「あくまで子ども自身が主役で、楽しめるようにすること」と捉えるだけで、少しやり方も変わってくるのではないでしょうか?

また、先に取り上げたフィンランドに関してですが、スポーツ施設が約175人に1つ程度の割合で存在しており、身近に運動を楽しめる環境が整っています。スポーツ施設のほとんどは、地方自治体が提供しているそうです。運動が、将来の生活習慣病の予防に役立つとすでに分かっているのなら、国や行政を上げてこのような施設や場所を整えていくことも必要だと考えます。

積み重なった苦手意識や「嫌い」という感覚を後から払拭することはかなり困難です。幼いうちに体を動かす楽しさを心から感じることができれば、大人になった後も持続し、習慣に変わっていくのではないでしょうか。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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