「ミニフューチャーシティ」というワークショップをご存知でしょうか?小学生や中学生が対象の最新の体験学習ワークショップです。現在、小学生の子どもたちが大人になった時に就く仕事のうち、6割はまだ存在していない仕事になるとも言われています。社会や環境がどんなに変化しようとも、たくましく自分で人生を切り開いていく子どもたちが育つようにと全国各地で行われています。
ミニフューチャーシティでは、子どもたち自身が、デジタルとアナログを上手に組み合わせながら、未来の仕事をつくり、実験的な未来の街を運営します。街の中では、仮想通貨などの情報技術が活用されています。単に大人から用意されたものの中で過ごすのではなく、子どもたちが大人のスタッフとともに悩みながら考えたことを試し、その試した結果からまた学んでいきます。これを参加者全員で6時間繰り返していきます。
(2019年10月6日に行った「新虎ヴィレッジ」でのミニフューチャーシティの様子)
このミニフューチャーシティが生まれたのは、2015年の8月。大阪梅田に位置するグランフロント大阪で行われたワークショップフェスティバルでした。ミニフューチャーシティを行うために集まった会社は3つ。合同会社こどもみらい探求社(兵庫県神戸市)、株式会社GOCCO.(岐阜県大垣市)、NPO法人cobon (秋田県五城目町)の3団体です。
こどもみらい探求社は、「こども×◯◯」を軸に、様々な企業・地域・分野を越えて、コラボレーションを展開。 時代の変化に合わせたモノ・コト・ヒトを形にしながら、こどもがよりよく育つための環境づくりを行っています。
GOCCO.は、LEDライトとスマホを連動させる「LITシステム」の開発、アクションカメラを搭載した風船を地上3万メートルの成層圏まで飛ばして上空を撮影するスペースバルーンプロジェクトなど、独自の“楽しさぞくぞく開発”をつくりだす会社です。
NPO法人cobonは、キャリア教育をplayfulに学んでいくワークショッププログラムとして「こどものまち」(※1)を企業や行政、時にはジャカルタで行ったりしてきました。
この三者三様の事業の強みを生かし合うプロジェクトとして生まれたのがミニフューチャーシティでした。
※動画:ミニフューチャーシティの概要について
きっかけは、スタッフの人員問題
ミニフューチャーシティがはじまったそもそものきっかけは、NPO法人cobonを運営していた際のスタッフの問題でした。こどものまち事業では、一度に50名~100名、大きめのイベントを行う際には、1日で500名ほどの子どもたちが集まることもあります。ただ、企業や行政からきちんと費用を頂いているため、子どもたちの安全面はしっかり確保する必要があります。
そこでサポートする大人の人数は、私たちの団体では平均して子ども3~5名に大人1名で計算しています。すると100名の子どもに対して約30名の大人が必要です。500名のスタッフでは、約100名の大人スタッフが必要です。この大人のスタッフには、高校生や大学生、こどものまちOBもたくさん参加してくれましたが、この人数が少なくてもまちが円滑に回ることが必要です。
実際にスタッフの活動内容を調べてみたところ、7割近くが働いたお店での時間を通帳に記載したり、新しく働く子の時間管理などを行っていました。つまり、店舗のタイムカード的な役割を大人スタッフが担っていることがわかりました。
(2014年1月に堺市東区で行ったこどもまちのプログラム「ミニひがし」の様子)
そこで、この勤怠管理の仕組みそのものをデジタル化できればもっと大人の数は減らすことができると考えました。それどころか、大人は勤怠管理が無くなることで生まれた時間で子どもたちの創造性を伸ばすために、より子どもたちの行動観察に集中できるようになると考えました。この勤怠管理システムをつくってくれたのがGOCCO.です。
そして、子どもたちのファシリテートもより専門的に行っているこどもみらい探求社とプログラムデザインを共同開発することで、終了後の子ども自身による振り返りの時間の充実や、参加する大人スタッフの満足度向上、時間を止めてまちを振り返るタイミングの創出など、素晴らしいプログラムデザインを提案してくれました。
こうして、NPO法人cobonが行っていたこどものまちが、デジタルテクノロジーと子どもたちへのファシリテーションの力を得て、新しくリニューアルしたこどものまちとして、ミニフューチャーシティは誕生しました。
そして、ミニフューチャーシティのアドバイザーとして京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之さんも参加してくれたことはとても良い試行錯誤の機会を私たちに提供してくれています。
※動画:ミニフューチャーシティの仕組みについて
試行錯誤を続けてきたミニフューチャーシティ
2015年当初は、「ライク・エコノミー」(※2)を子どもたちは、どのように創りだすのかということで、当日使う電子通貨「LITコイン」システムに「いいね!」ボタンを追加し、お金の売り上げだけではない評価軸を取り入れました。
すると、子どもたちがお金の売り上げだけでなく、まちの他の子どもたちから「いいね!」をなるべくたくさんもらえるお店作りを工夫しようとしていきました。2016年には、LITコインのデザインをより子どもたちにとって触れ親しみやすいおにぎり型のカタチに変えたりしました。
(2016年3月29日・30日にグランフロント大阪で行われた「ミニフューチャーシティ2016」の様子)
2017年には、はじめて高知県土佐町で開催を行い、ICTワークショップの経験が少ない山間地域の子どもたちがipadなどを活用して、たくさん起業を行い学び合う姿が見れました。
2018年には、「日本政策投資銀行」様と一緒に東京での初開催を行い、ブロックチェーン型のエコノミーモデルを子どもたちがどのように楽しみ活用しているのか、そして店舗に「カチカン」という新しい指標を導入し、それぞれの店舗でどのようなキャラクターを持っているのかを購買時に押してもらうことで、それぞれの店舗と購入者のキャラクターがどのように変化していくのか検証してみました。
2019年には、北海道札幌市で「サッポロ不動産開発株式会社」様と一緒に、サッポロビールの工場跡地であるサッポロファクトリーを舞台により、モノづくりや新しい事業開発をテーマにしたミニフューチャーファクトリーを開催しました。この回では、最初に14個の仕事だったのが、最後には21個になっていました。この起業数7は、これまで行ってきた私たちのこどものまちの中で、もっとも多い起業数です。開拓の地である北海道を体現するようなイベントになりました。
そして、2019年10月6日に行った「新虎ヴィレッジ」でのミニフューチャーシティ。こちらは会場自体が株式会社ナカダイさまによるサーキュラーエコノミー(※3)が体現された場所で、子どもたちは身の回りにある様々な資源を組み合わせ別の価値を生み出し、その価値を使って新しい自分たちだけのまちを作り上げて、楽しんでいました。
(2019年10月6日に行った「新虎ヴィレッジ」でのミニフューチャーシティの様子)
永遠に完成しない=対話しながらつくっていく余白がある
子どもたちの感想も「ミニフューチャーシティで見つかった自分の“とくい”はなんですか?」の質問に、商売が得意、イラスト、モノをデザインする、人がやって欲しいことを考えること、接客など様々な意見が出ていました。
また、「カチカンのボタンを押してみて気付いたことは?」の質問には、やさしい、おもしろいが多かった、やさしいといわれて嬉しかった。一人ひとり感じることは違うんだなと思った、などまちにいる人それぞれの思いを感じていたようです。
LITコインやipadを使ってみて、「こんなこともできたらいいなと思ったことは?」の質問には、商品の売れ行きや買ってみてどうだったのか感想が分かるといい、他のお店からこうしたらよくなるよ、ここが良かったなどのコメントができたらいい、人にお金をあげる、投資、好感度が分かる、などの意見が出ていました。
これらすべて、子どもたちだからこそ発言できる素直な回答だと思います。これらをもとに、また私たち大人側も修正を加えつつ、次回のミニフューチャーシティにはより改善していけるように進めていきます。そうすることで、毎回、バージョンアップするまちづくりを子どもと大人が一緒に楽しみ創り出すまちが出来上がっていくのだと思います。
(2019年10月6日に行った「新虎ヴィレッジ」でのミニフューチャーシティの様子)
そして、常にバージョンアップするからこそ、「永遠に完成しない=対話しながらつくっていく余白があるワークショップ」になることで、子どもも大人も自分の意見が実際に次回のミニフューチャーシティに反映されると思うと、「また来たくなる」そういうポジティブな余白がミニフューチャーシティにはあるのだと思います。
次回の開催は、2020年3月に北海道札幌市で予定しています。ぜひよかったらミニフューチャーシティに遊びに来てみてください。
Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。