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新任教員が語る悩み!学校の教育現場のリアル(第五話)-実質的な残業を前提とした初任者研修

新たに教員として採用された新採教員が1年間の条件附採用期間後に、精神疾患を理由として依願退職した者は、病気を理由とした依願退職者のうち8~9割となっており、増加傾向にあります。今、どのような問題が学校現場で起こっているのでしょうか?

教員研修

今回の連載記事では、実際に新卒で首都圏の公立小学校に勤務経験があり、心身ともに不調となった過酷な勤務を経験しているAさんからお話をお伺いしています。

これまでの記事に引き続き、学校現場の「リアル」な実情をお伝えします。

教員一年目の「初任者研修」とは?

編集部:いよいよ今回が最終回となります。ここまで貴重なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。今回は、「研修」について、お話を伺えるとのことですが。

Aさん:はい。子どもや保護者と直接関わる業務ではないですが、「初任者研修」も一年目の教員にとっては大きな仕事の一つです。

編集部:これは、学校ごとに行われるのですか?

Aさん:いえ、この研修は法律で定められており、どの自治体でも実施されています。一年目の教員は、受講を義務付けられています。

編集部:そうなんですね。研修の機会が用意されているのは、一年目の先生たちとしては安心ですね。

Aさん:そうですね。身につけなくてはならないこと、学ぶべきことがたくさんある初任者にとって、こうした機会があることはとても有意義でした。

編集部:研修というのは、一年間でどのくらい実施されるのですか?

Aさん:自治体によって時間や研修のやり方は異なりますので、私が勤めている自治体を例にお話します。まず校内で行われる研修が週10 時間以上、年間300時間以上と決められていました。そして、校外で行われる研修が一回2~3時間程度で年間10回ほどありました。感覚的に月に1度は研修のためにクラスを空けて行くようなペースでした。夏休み期間に泊りがけで行われる研修なども含めると時間的にはもっとあったと思います。

編集部:結構な時間を使って行われるのですね!具体的にはどのようなことを行うのですか?

Aさん:校内の研修では、学校運営に関わる基本的なことを学びました。例えば、教室内で体調不良者が出た時の対応など、子どもに関わることはもちろんですが、個人面談の進め方など、保護者対応についても学びました。

また、教育委員会から指導者が来て、一日中授業の様子を見ていただく研修もありました。指導してくださる方は、もともと教員をしていて退職され、再任用されて働いている方だったので、一日ずっと見られていることに、かなりどぎまぎしていました。。

編集部:それは緊張しそうですね…授業が終わった後もフィードバックなどをいただくとしたら、本当に一日がかりの研修ですね。

Aさん:そうですね。普段、教室の中にいる先生は私一人だけなので、「本当にこれでいいのだろうか?」と授業の進め方にかなり悩んでいたので、具体的なアドバイスを頂ける機会は有難かったです。ただ、週に1回は正直大変でした。

編集部:校外の研修は、どのようなことを行うのですか?

Aさん:校外の研修については、同じ自治体で勤務している初任者が集まって実施する点に特徴がありますね。私の自治体では、100人くらいの初任者が集まって実施していました。

内容は、教員の心構えを教わるという基本的な所から、夏場の時期などは実際にプールに入って、プール指導の安全管理について学んだりしました。また、4~5人でグループを組み、それぞれ書いてきた指導案を見せ合ったり、その中から一人発表者を決めて、実際に勤務している学校に出向き、指導研修を行ったりしました。

編集部:かなり内容の濃い研修が行われているのですね。

Aさん:初任者だからと言って子どもや保護者が待ってくれるという状況ではないので、研修をしっかり受けて、できるだけ早くスキルアップをしていく必要があるんですよね。それは重々承知していたのですが、その研修を少々負担に感じてしまうこともありました。。

編集部:具体的にはどのような面で負担と感じていたのですか?

Aさん:時間の面ですね。私の自治体では、研修の多くは午後いっぱい(13時~16時半)の時間を使って行われていました。これは恐らく、教員の業務時間内に収めるためです。

編集部:なるほど。自治体側もその辺りへの配慮はきちんと行っているということですね。業務時間内に収まっているなら、負担としては少ないように思いますが。

研修によって増える実質的な負担

Aさん:大変なのは、研修を受けた分、通常の業務が後ろ倒しになるということです。業務時間内に収めるために、校外の研修ではまだ子どもが学校にいる時間帯に研修に向かう必要があります。その間は、自習できる態勢をつくり、別の先生に学校をお願いすることになります。

編集部:自習の時間、確かに子どもの頃ありましたね。子どもとしては少し嬉しかったような(笑)。プリントのようなことをやっていた記憶があります。

Aさん:そうなんです。自習の態勢をつくるのに手っ取り早いのは「テスト」を実施することなんですね。実施するのはいいのですが、テストを行った後の丸付けや評価に、意外と時間がかかってしまうのです。

例えば、自分がいない間に一人につき2枚のテストを実施するとします。1枚に丸をつけ、点数を記録するまでに約1分かかるとすると、30人学級だったとしてもそれだけで約1時間はかかってしまいます。

採点

編集部:なるほど。子どもにとっては嬉しい自習の時間も、その後の評価を考えると、先生にとっては案外時間がかかるものなのですね。

Aさん:1人につき2分、トータルで1時間くらいなら仕方ないじゃないか、と思う方はいるかもしれません。研修を受けさせてもらっている分、このくらいの残業は仕方ないと。

しかし、これらのテスト関係の評価に加えて、次の日の授業のためにどうしても行わなければいけない準備もあります。研修が終了するのが16時半~17時近くと定時ギリギリで、学校に戻ってくるのに、移動時間もかかります。そこから先の業務を行うとなると、かなりの残業時間になってしまいます。

編集部:研修の時間は業務時間内には収まっているけど、実質的には残業をせざるを得ない状況になっている、ということですね。

Aさん:はい。研修を受けることで、実質的な負担は増えると言っていいと思います。年に何度も行われる校外研修の時間の穴埋めや、校内で研修を受ける時間分の業務はほとんど「自主的残業」でカバーするしかありません。

教員としての通常業務を行いながら新人研修を受けることは、結構、大変なことでした。ですが、研修を受けさせてもらっている身なので、ありがたみももちろん感じていたのですが…。

「研修後に学校に戻って残業をする」ことが当たり前

編集部:研修を受けている分、他の業務が減るというわけではないですもんね。研修も重要な業務の一環なので、何とかそこに先生たちが集中できるように、他の業務も調整できるといいような気はしますが。

Aさん:そうですね。この問題については、周りの先生方の協力をお願いするしかありません。

自習態勢ではなく、専科の授業を入れてもらうように調整したり、学年単位で指導する時間(行事に向けての学年練習など)にしてもらったりする策が考えられます。また、研修の日は学校に戻らなくてもいように、授業準備は先を見越して前もって行うことが必要です。わざわざ戻ってくるのは、時間もお金ももったいないです。

新任の先生たちはとても真面目なので、「研修後に学校に戻って残業をする」ことが当たり前のような雰囲気になっていたことも、あまり良くないのかなと思っていました。

編集部:「残業」を仕方ない、むしろ当たり前と捉えて肯定してしまう風潮は、新任の先生のみならず、学校教員全体の働き方に関わってきそうですね。今回も貴重なお話を頂き、有難うございました。最後に、今回が最終話なので、現在、教員を目指している方々に向けて、何かメッセージはありますか?

Aさん:はい。これから教員を目指す方々は、教員になるという夢を抱きつつ、自分は教員としてやっていけるのだろうかと不安な気持ちも抱えていると思います。これまでの話の中で、その不安が少しでも解消され、役立てられる部分があったら嬉しいです。

編集部:Aさん、ありがとうございました!

1話~5話を通して、実際に教員として勤務をしていないと聞くことができないお話ばかりでした。教員になるにあたって、「子どもが好き」「子どもに関わりたい」という気持ちはもちろん重要ですが、実際にはそれだけでは続けていくことが難しい側面もあります。

教員になった後に「こんなはずじゃなかった…」とならないために、事前の情報収集や、それを踏まえて「本当に教員として働きたいか?」をじっくり考えることは重要です。ぜひ、本記事を、情報収集の一つにしていただければ幸いです。

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Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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