オルタナティブ教育

多様な子どもに開かれた「学びの場」を増やしたい!-多様な教育の博覧会「エデュコレ」主催・武田緑氏インタビュー(前編)

様々な物事が多様化している現在、「教育はいつまでも経っても昔と変わらず、どこも似たり寄ったり」「先駆的な教育の事例は海外ばかり」という指摘がたびたび聞かれます。実は、日本の各地では、従来の教育の枠組みを超え、特徴的かつ魅力的な教育がすでにいくつも行われていることは、ご存知でしょうか?

学校・NPO・フリースクール・インターナショナルスクールなどトータル80団体が集まり、それぞれの取組みを紹介し合い、交流する大規模なイベント・教育の博覧会「エデュコレ」を各地で仕掛けている武田緑氏(一般社団法人コアプラス・代表理事)にお話をお伺いしました。

コアプラスは「多様な教育に出会う機会をつくる」という活動を続けてこられたと聞きました。

武田:はい。コアプラスを始めて10年になりますが、もともとは国内の多様な学校や教育現場を実際に訪れるスタディツアーから活動が始まって、今ではオランダ、デンマーク、フィンランド、韓国、フィジーなど海外教育視察にも行くようになりました。2017年11月に5回目の開催を予定している「エデュコレ~多様な教育の博覧会」もその1つです。

武田緑氏(一般社団法人コアプラス・代表理事)

活動を始めたきっかけはなんだったのでしょう?

武田:コアプラスは、現在の理事でもある神野有希と私が学生時代に出会ってできた団体です。

私は、大学1回生で国際NGOピースボートの「地球一周の船旅」に参加をしたんです。その中で、紛争・貧困・環境破壊・差別・・・世界や社会の問題に触れ、「どうにかしたいこと」「変えたいこと」が山ほどできたんですね。そして、変えるためには、教育の力が重要だし、そこにすごく可能性があると思うようになりました。

一方の神野は、和歌山県にある「きのくに子どもの村学園」という、授業が基本的に総合学習・体験学習で、校則はなく、必要なルールは、全校ミーティングで子どもも校長先生も同じ一票を投じて決めるというような一風変わった小中学校で育ち、高校で公立校に行ってギャップに苦しんだという経験がある人です。

それぞれ現状の、特に学校教育のあり方に強い問題意識を持っていました。そして、当時2人とも教員志望の学生だったのですが、周りの教育を志す若者たちが、自分の知っている教育だけを「ふつう」「当たり前」だと思い、疑うことなく次の世代に同じことをしていこうという状況に、違和感を感じていました。

多様な教育に触れることで、「問い」が沸き起こり、教育を捉える幅が広がり、選択肢が増やしたかった、という思いで、「スタディツアー」や「エデュコレ」を始めたんです。

多様な教育の博覧会「エデュコレ」

実は、「多様な教育」と聞いてもはっきりイメージがしにくいのですが、例えばどういう教育が「多様な教育」に含まれるのですか?

武田:私がこれまでコアプラスの活動を通して出会ってきたのは、例えば、現行の学校の枠組の中でのユニークで挑戦的な授業や取り組み、制度内には位置づけられない新たな理念で運営されているオルタナティブスクール、既存の学校に合わなかったり不登校になって傷ついた子どもたちを受けとめているフリースクール、地域と学校が協働してこどもたちを育むコミュニティスクール・教育コミュニティづくりの取り組み、キャリア教育やシティズンシップ教育、インクルーシブ教育などそれぞれの関心と問題意識で活動している教育NPOなどです。

様々な人や団体が、それぞれの想いや考え方をもとに、それぞれの形態・スタイルで、思い思いの「学び育ちの場づくり」をされていて、私自身、それらの人や現場との出会いから、刺激とヒント、何より「問い」をもらって学んできたと思います。

武田さんご自身は、これまで出会った教育の中で、特にインパクトがあったのはどういうものでしょうか?

武田:例えば、サドベリーモデルの学校というのがあります。アメリカのボストンにある「サドベリーバレースクール」をスタイル・仕組みを取り入れた学校で、「カリキュラムなし」「テストなし」「子どもたちによる学校運営」を柱にしています。

好きな時に好きなことを好きなだけできるんですね。料理が好きな子はどんどんやっていいし、友達とスポーツをするのが好きだったらそれももちろんOK、ゲームが好きだったらずーっとゲームしててもいいんです。また学校運営に参加するというのはなんと予算や人事にまで子どもが一票持っている。こういうスタイルの学校が現在、日本に10校弱あります。

サドベリースクールでのミーティングの様子。提供:八ヶ岳サドベリースクール(サドベリースクールでのミーティングの様子。提供:八ヶ岳サドベリースクール)

公教育(公立・私立の学校)の中で取り組まれているものとしては、『学び合い』の授業に出会った時は衝撃でした。これは、上越教育大学の西川純さんが提唱した、学校観、子ども観、授業観の3つの観から成り立つ考え方です。

教師は、課題設定と環境整備と評価に徹し、従来教師の仕事の中心だと思われてきた「教授」の部分は、従来のように教師が主導する一斉指導ではなく、子どもたちが主体的に共に課題達成を目指して学び合うというスタイルで行われます。『学び合い』の中心にあるのは、「一人も見捨てない」という願いで、そのため課題設定は「全員が◯◯できる」というものになります。

他には、例えば中高生が「ロールモデル(生き方のサンプル)」になる大学生や若手社会人と出会い、親や先生のようなタテでも、友達のようなヨコでもない、ナナメの関係として語り合う場をつくるというキャリア教育の取り組みがあります。

NPOカタリバの活動が草分けですが、同様の趣旨で各地で広がりを見せています。岡山のNPOだっぴなどもその一つです。学校と外部がつながってこそできることで、こういうアプローチもあるのか!と初めて知った時はすごくワクワクし、刺激を受けました。

大人や学生と、高校生の対話の様子。提供:NPO法人だっぴ(大人や学生と、高校生の対話の様子。提供:NPO法人だっぴ)

他にも、シュタイナーやイエナプランなどのオルタナティブ教育には、影響をすごく受けていますし、ここで言いつくすのは難しいですね。(笑)

少し聞いただけでもおもしろいですね!11月に行われる「エデュコレ〜多様な教育の博覧会〜」には、こういうさまざま取り組みが70以上集まるということで、すごく刺激がありそうですが、そもそもどういう経緯で始まったイベントなのでしょうか?

武田:「エデュコレ」を初めて開催したのは2009年でした。当時は、まだ、教育関係者の間でも「フリースクール?怪しいよね・・・」「オルタナティブ教育?なにその舌を噛みそうな単語(笑)」「教育NPO?へえ、そんなのあるんだ?」という雰囲気で、多様な教育の認知度は低い状態だったと思います。

子どもたちの学び・育ちの環境をよりよくするためにも、教育関係者が様々な教育のかたちと、その実践者の思いや価値観を知って、教育上の選択肢を増やし、また自分の教育観や実践を見つめ直せる機会が必要ではないかと思ってはじめたのがきっかけです。

また、同じ教育のフィールドにいる人たちの間でも、学校・フリースクール・NPO・企業などセクターによって分断・タコツボ化している状況にも、もったいなさを感じていた、ということもあります。

それから8年が経ち、まだ十分に「多様な教育」が認知されているとは言えないかもしれませんが、少なくとも、当時と今では、状況は大きく変わりました。多様な教育の存在を知り、自分の実践に取り入れようとする学校の先生も確実に増えています。

また、セクターを越えた協働を志向する取り組みも現れてきています。「教育機会確保法」ができ、学校外の居場所や学び場が公に認められたことも大きなことだと思います。

その間にコアプラスでは「エデュコレ」を4回開催してきたのですが、この流れを推し進めることに、特に関西においては少なからず貢献してこれたのでは、と感じていますし、今回の5回目のエデュコレも、そういうインパクトがある1日にしたいです。

「既存の、一斉画一的な教育を標準とする教育観とスタイル」から、多様な子どもに開かれた学びの場をもっと増やしていきたいですし、各現場にいる一人ひとりの教育者、子どもに向き合う大人たちが、より柔軟に、広い選択肢を持てるようになってほしいと思います。それがきっと子どもたちが幸せに育っていく土壌を広げることになると思うのでー。

Author:武田緑
人権教育・シティズンシップ教育・民主的な学びの場づくりをテーマに、企画や研修、執筆、現場サポート、教育運動づくりに取り組む。主な取り組みは、全国各地での教職員研修や国内外の教育現場を訪ねる視察ツアー「EDUTRIP」、多様な教育のあり方を体感できる教育の博覧会「エデュコレ」、立場を越えて教育について学び合うオンラインコミュニティ「エデュコレonline」、学校現場の声を世の中に届ける「School Voice Project」など。
著書に「読んで旅する、日本と世界の色とりどりの教育
タイトルとURLをコピーしました