高校中退中等教育

高校中退者は、実際のところ増えているのか?減っているのか?-高校中退・不登校経験者を支える通信制高校

高校生

新年度が始まり、街では新生活が始まった人たちのうきうきした顔がたくさん見られるようになりました。この3月に高校を中退した人たちの新生活はどんなだろうと思いを巡らせています。高校中退事情でいえば年度末である3月は、1年で最も高校中退者が多くなる月になります。こんな時期ですので、この機会に高校中退の現状を整理してみたいと思います。

高校中退者の数は減っていると思いますか?増えていると思いますか?

「価値観が多様化している世の中だから、きっと増えている。」

「若者は大人しく真面目になってきているから、きっと減っている。」

いろんな見方ができると思います。

その現状はどうなのか。高校中退者の人数は、文部科学省が毎年「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の結果を公表していますので、そこから中退者数の推移を見てみましょう。

その調査によると、平成17年度に76,693名(全体の2.1%)だった高校中退者が、平成24年度には51,780名(1.5%)となっています。

ということで、この結果から「人数、比率ともに減っているので、高校中退者は減少している!」と言えます。

なるほど、学校を辞めないで適応できる人が増えているんでしょうね、きっと。(おしまい)

と、こんなことだけで終わってしまっては記事の価値が薄すぎますし、本当のところは見えてこないので、もう少し「なぜ減っているのか」をデータから掘り下げていきましょう。

(0)平成24年度の仮想中退者数を出してみる

まず、考えていく基準となる数字を作りたいと思います。平成17年度から24年度までの8年間で高校生全体の数が7%ほど減少していますので、それに合わせて平成17年度の中退者数を7%減らすと、平成24年度の仮定中退者数は71,324人となります。

平成24年度の仮想中退者数を出してみる

これは、実際の中退者数51,780人と比べると、19,544人も多い数字です。では、この差はどこから来たのでしょうか。

その差を探るとともに、高校中退者が減っている理由とそのポイントを説明していきます。

(1)高校授業料無償化の流れを受けて

まず、純粋に高校中退者を減らした流れです。平成17年度、2,762人(3.6%:中退事由の構成比)が経済的理由で高校を中退しています。この経済的 理由の仮定中退者は2,569人となるのですが、平成22年度から始まった高校授業料無償化などの制度を受けて、実際には853人(1.6%)まで減って います。(差:1,716人)

高校授業料無償化の流れを受けて

(2)高等学校の不登校について

高等学校の不登校についても、文科省の同調査に記載があります。平成17年度には59,419人でしたので、平成24年度の仮定数値は55,259人となるのですが、実際は57,664人となっています。(差:2,404人)

高等学校の不登校について

これは学校が不登校生徒をより抱えているという状態を示していますが、その理由の1つにはスクールカウンセラーの設置や地域との連携、不登校生徒への柔軟な対応がなされてきた結果だと考えられます。

(「学校基本調査」によると、生徒数の減少の割合(約7%)よりも本務教員数の減少割合(約5.7%)のほうが少なく、さらに兼務教員の人数は増加 (67,376人→72,284人)しているため、生徒数1人あたりの教員数は増加しています。数字だけ見ると、このことも不登校生徒を学校で対応できる 1つの要因だと考えられます。が、現場の個別の状況を聞いていると、どこまで影響があるのかもう少し考えないといけないですが、それはまた別の機会に)

(3)高校中退者数の調査対象

最後に、最大の要因について説明していきます。「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」は「全日制高校と定時制高校の生徒」を対象にしています。そのため、通信制高校については出てきません。

しかし、学校数も生徒数も増やしている通信制高校には、全日制高校からも「中退」を経由して、ではなく「転校」として通信制高校に移っていく生徒たちも多くいるため、「学校基本調査」から通信制高校の生徒数の推移に注目してみます。(いろいろな調査を使うと、その数字の数え方によって多少の誤差が出てきてしまいますが。)

平成17年度の通信制高校生は183,518人(全高校生の4.84%)で、同じように仮定数値を計算すると、170,672人となります。そして、実際の平成24年度の生徒数は185,683人(5.30%)です。(差:15,011人)

どの程度が「転校」として通信制高校に入学しているのかは、通信制高校の仕組みが調査数値を出しにくいこともあり、はっきりとした数値はわかりません。

高校中退者数の調査対象

しかし、平成24年度の高校中退者の通信制高校編入が4,693人と高い割合でないこと、通信制高校生の半数以上が2校目以上の学校として入学しているとの調査結果(平成23年度文部科学省委託事業「高等学校定時制課程・通信制課程の在り方に関する調査研究」公益財団法人全国高等学校定時制通信制教育振興会)などから考えて、かなり多い人数が転校として通信制高校に移っているものと考えられます。

さて、ここですべてを振り返ってみましょう。この(1)~(3)までで出た、実際の数値と仮定数値との差を合わせると、19,131人となり、(0)で出した仮定中退者数19,544人とほぼ同じ数字となりました。

高校中退者数の調査対象

よって、「(1)~(3)までの要因で、高校中退者数は減少している」と結論づけることができます。そして、その中でも通信制高校が高校中退の受け皿として大きな役割を担っていることが分かります。

そして、少子化に伴う生徒総数の減少が進むと(2)が、通信制高校というスタイルがますます認知されていくと(3)がさらに増えていくでしょう。ま た、高校の中退防止の動きも各地で取り組みが始まっていることを考えると、高校中退者の数はますます減っていくことが予想できます。

今回見てきた3つの視点から考えると、授業料無償化でも高校に留まれない層がある一定いること、通信制高校も公立の在籍人数は減り、私立の人数を増やしていることなどをみても、その受け皿に乗っかれるかどうかは経済的な状況をはじめ、家庭環境に大きく左右されているということになります。

しかし、中退していった人たちは公的な調査でもその実態をつかみきれていないのではっきりとはわかりません。そもそも、中退が問題だという視点のみで語られがちですが、中退すること自体が本当にダメなことなのか、ということも改めて考えていきたいと思います。

今後より多く、より深く、高校中退者たちと出会い、それぞれの「人生をどう生きていくのか」に焦点を当て、いろんな見方を持って今後も活動を広げていきたいと思います。

Author:山口真史
1981年奈良県生まれ。一般社団法人new-look代表理事。関西学院大学大学院 文学研究科 総合心理科学専攻 学校教育学領域 修了。「型にはまらないで考えよう。常識を打ち破ろう(Think Outside theBox)」を掲げる、高校中退・不登校向けの個別学習サービス、TOB塾代表。 2歳で父を大韓航空機撃墜事件で亡くし、母子家庭で育つ。奈良工業高専の中退経験と、中学・高校の教員経験(担任・学年主任・人権教育主任など)のほか、大手人材紹介会社やNPO法人での勤務経験を持つ。さまざまな仕事や人との出会いの中で「覚悟を決めればどの道も正解」・「もっと自由に生きていい」ことを知り、高校中退からの生き方にスポットをあてるため、new-lookを設立した。

動画・new-lookちゃんねる:高校中退者を襲う6つのこと

new-lookちゃんねるは、高校中退者・不登校生・通信制高校生などに向け、進学したい人・就職を目指す人のどちらにも響くような内容をシェアしていきたい!という想いで作ったチャンネルです。

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