初等教育中等教育不登校・ひきこもり

いじめや不登校が急増する「中1ギャップ」-学制改革・小中一貫教育で本当に解消できるのか?

下校する女子生徒

「這えば立て立てば歩めの親心」という諺がありますが、子どもが色々な壁を乗り越えて一つひとつ物事ができるようになっていく姿は、親のみならず嬉しいことです。子どもは、何度も試行錯誤を繰り返しながら、色々な課題を乗り越えて成長していきます。はじめからすべてが上手くできる子などいません。

特に課題にぶつかりやすいのは、幼稚園から小学校、小学校から中学校、中学校から高校とコミュニティ・環境が変わるタイミング(移行・接続)です。これは、子どもだからということではなく、大人でも仕事や職場が変わる時に感じる不安と期待と同様です。

この中でも、子どもにとって、特に大きな壁となるのはいつかと質問されれば、間違いなく中学1年生であると思います。

不登校やいじめが急増する「中1ギャップ」

「中1ギャップ」という言葉があります。

これまで慣れ親しんだ小学校から離れ、中学校へ進学すると、制服を着たり、部活動がはじまったり、教科担任制になったりとこれまでとは違った学校生活がはじまります。人間関係もまた新しく築いていくことになります。

思春期のはじまりの頃とも重なり、心理的・身体的にも不安定になりやすい時期となります。この時期に不登校やいじめといった問題が急増します。このことをが「中1ギャップ」と呼ばれています。

学年別不登校児童生徒数のグラフ

文部科学省では、不登校は、病気や経済的な理由以外で学校を年間三十日以上欠席した児童と定義しています。小学校でも学年が上がるにつれて増えていますが、中学1年生になると小学6年生の3倍近くに急増します。そして、中学2年生、3年生と右肩上がりで増えていきます。

これは、調査時に不登校状態にある子どもを調査しているため、学年を追うごとに人数が累積しているためだと考えられます。よって、一番増加数の多い中学1年生は、要注意ということになります。

学年別いじめ認知件数のグラフ

文部科学省では、いじめは、当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているものと定義しています。小学校では、ゆるやかに件数が増え、小学4年生をピークにゆるやかに減少します。

しかしながら、中学1年生になると小学6年生の1.5倍と急増します。それ以降の学年の件数を見ても、中学1年生が突出していることがわかります。

不登校やいじめの問題は、その後の人生に中長期的に影響することが少なくありません。確かにそのような経験があっても乗り越えていく子もいます。しかしながら、中学校でのつまづきがトラウマのようになってしまい、なかなか一歩前に進む気持ちになれずに中長期化してしまうことがあります。

途中でまた別の学校でやり直そうとしても、休んでいた間の学習面での遅れがあり、周囲についていくことができずに再び長期欠席になってしまうこともあります。このようなことは本人だけの損失ではなく、社会的な損失として考えるべきでしょう。

不登校やいじめが起こってしまった時の対応は、当然として重要です。それと同等に、そういったことが起こらないように予防し、早期発見に努める必要があります。

学校

小中一貫で「中1ギャップ」は解消されるのか?

2014年7月3日に政府の教育再生実行会議は、学制改革に関する提言を安倍晋三首相に提出しました。この提案の中では、幼稚園や保育園などでの三~五歳児教育の段階的な無償化などと並び、「中1ギャップ」を解消するため、「小中一貫教育学校(仮称)」制度の創設することも盛り込まれています。

実現すれば、市町村の判断で「四年・三年・二年」や「五年・四年」などに区切り、弾力的に教育課程を編成することができるようになります。英語教育が小学校から行われるようになってきている点などでも小中一貫にするメリットはありそうですが、本当に「中1ギャップ」の解消につながるのでしょうか?

子どもの発達段階に応じた九年間の教育過程をきちんと組みなおしたうえで、小中一貫の検討するならばまだしも、子どもの小学校から中学校への移行を回避するためだけに単純に接続するのであれば問題は解決しません。

問題を先送りし、高校や大学などその先の移行・接続のタイミングで、新しい環境に不適応を起こす可能性もあります。思春期が長期化しているという見方もあり、中学生の年齢特有の問題とも言えません。

大切なのは、新しい環境でも柔軟に適応していくことができる力を身につけることです。

現在、子ども達が社会に出る頃には、今以上に社会の変化の波は短く早くなり、雇用の流動性は高まっていくと予想されます。人生で、一つの仕事、一つの会社だけで終身雇用される時代は、もうすぐ終わりになるでしょう。

一人で複数の所属や肩書を持ち、日本人のみならず、様々な国籍の方と多様な仕事をしていくことが求められようになっていくかもしれません。どのような進路を選んだとしても、大なり小なりギャップも壁も不可避なものだと思います。

重要なのは、①子どものうちに環境への順応性を持てるように様々なコミュニティを経験すること、②一つの場が上手くいかなくなっても大丈夫なように心の拠り所にできる居場所を複数持っていること、だと思います。

学校万能・集中主義的な対応ではなく、たとえば、NPOや地域が担い手となって部活動や行事をやっても良いのではないでしょうか?

子ども達にとって、①と②のトレーニングにもなる良い機会となるはずです。これからは、市区町村の裁量が増え、特徴的な取組みも増えていく中で、単なるパフォーマンスに止まらないきちんとエビデンスに基づいた子どもにとって良い仕組み作りが求められています。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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