子どもの貧困政治・制度

「子どもの貧困」問題を解決する3つの政策手段-「子どもの貧困対策法」を絵に描いた餅にしてはいけない!

国会議事堂

「子どもの貧困」は、アナタ自身の将来に関係します!

「子どもの貧困」と聞いて、「自分には関係ない」「あまりピンと来ない」と思われた方に知ってもらいたいことがあります。

この問題は、私たちに大きく関係する問題だからです。

「子どもの貧困」とは、所得が低い家庭の子どもが低学力・低学歴となり、将来不安定な就業に陥ることで、次の世代にまで貧困状態が連鎖していく(=貧困の世代間連鎖)問題です。このような貧困状態にある子どもは今日本に約6人に1人の割合で存在しており、年々増え続けています。

では、なぜ、これが私たちに関係するのでしょうか?

身近なところで言うと、私たちが支払っている(又は今後支払う)税金と関係しています。

貧困状態の子どもが増えるということは、将来働ける人(=税金を納める人)が減るということです。そして働けない人が増えるということは、税金で支えなければいけない人(=例えば生活保護受給者等)が増えるということですから、私たち国民一人ひとりの負担は、これからますます増えることになります。特に高齢化が進むことで、ただでさえ私たち若者が高齢者を支えていかなければならないのに、さらに同世代にも支えなければならない人たちが増えてしまうと困ります。

そして、この深刻な問題に対して国も動き始めました。昨年6月に「子どもの貧困対策法」という法案が成立しました。これから国や自治体が本格的に貧困対策のために予算を割き、貧困を連鎖させない政策を進めていくことになります。もちろん、このために使われるお金も同じく「税金」です。効果が出ない政策のために使われてしまっては困ります。

では、今回は、「子どもの貧困」問題を解決するために本当に意味のある税金の使い方について、いくつか代表的な方法を比較して考えてみたいと思います。

現金給付、無償サービス、教育バウチャーという三本の矢

①現金給付

現金

まず、最もベーシックな方法が、児童手当や子ども手当に代表される「現金給付」です。日本の子どもを育てるにはとてもお金がかかるため、子どもの教育やのための資金を援助することで、課題を解決しようというとてもわかりやすい方法です。

現金給付の特徴は、良い意味でも悪い意味でも「使い道の自由度が高い」という点です。現金なので、塾代、進学のための貯蓄、家族旅行、誕生日プレゼントなど、家庭の判断で様々なことに使用できます。

ただ、これは裏を返せば、親が子どもに関係のないことにも使用することができるという課題を抱えています。例えば、親がパチンコに使うことを防ぐことができないのも事実です。(すべての家庭でそのように使用されるわけではもちろんありませんが)

しかし、現金給付によって世帯所得が増えるということは、家族にゆとりをもたらし、親のストレスを軽減させることや、子どもをゆっくり見てあげる時間が増えることに繋がります。これは、現金給付の大きな強みだといえます。

②無償サービス

学習塾

2つ目の方法は無償でのサービス提供です。「教育」という観点で言うと、特に格差が生まれやすいのは、公教育ではなく塾や習い事などの「学校外教育」。つまり、日本では放課後で教育格差が存在しています。

そこで、近年増えているのが放課後の無料塾の取り組みです。自治体が地域のNPOに運営を委託して、ボランティアの学生や元学校教員等が、低所得世帯の子どもたちに無料で学習を教えることで、放課後の教育機会を保障します。この活動にも良い点と課題がそれぞれ存在します。

課題の一つは、教育サービスの質の担保が難しいという点です。というのも、本来子どもたちの教育ニーズは多様であるため、市場には様々な教育サービスが存在しています。

一般家庭の子どもはこれらの様々なサービスから自由に選択し、教育の機会を得ることができる一方で、低所得世帯の子どもは、無料塾に参加するか、しないかの二択しかありません。もちろん質が高いサービスを供給している無料塾も存在していますが、本当に一般家庭の子どもと平等な教育の機会を保障できるかというと、答えはNoです。

また、無料塾は受益者である子ども・保護者からの受講料ではなく、自治体からの受託金で運営されます。よって、仮に生徒が1人しか来なくても、50人来たとしても、自治体から同じ受託料が支払われることとなり、資金の効率的な運用という点でも課題が残ります。

また、特に郡部では学習支援を担うボランティアを安定的に確保するのが難しかったり、担い手であるNPOがいなかったりと、地域間で格差が生まれやすい仕組みであるのも課題の一つです。近所に無料塾がないため、1時間ほどかけて通っている子どももいます。

しかし、何といってもこの取り組みの良い点は、社会関係資本の少ない低所得世帯の子どもたちにとっての居場所を提供できる点や、ボランティアのお兄さん・お姉さんと継続的に関わることでロールモデルを見つけることができる点です。教育機会の保障という観点では、課題を抱えますが、このように市場化しにくいサービスを提供する価値は高いといえます。

③教育バウチャー(教育に使用目的を限定した「クーポン」)

教育バウチャー

第3の方法が教育バウチャーという手法です。大阪市が2012年度から教育政策として導入したことで、注目を集めています。

バウチャー制度とは、塾や習い事などの学校外で行われている教育サービスに使い道を限定したクーポンを子どもに提供する方法です。子どもは、クーポンを現金の代わりに使用して、教育サービスを受けることができます。自治体やクーポンを受け取った塾や習い事教室に対して、サービス料金を支払います。

この方法の画期的な点は、使い道を教育サービスに限定できる点です。さらに、子ども達は幅広い教育サービスから自由に選択できるため、一般家庭の子どもと同じ条件のもと、教育の機会を受けることができます。

私たちチャンス・フォー・チルドレンは、寄付金を原資に子どもの貧困対策としてこのバウチャー制度を採用していますが、バウチャーによる教育支援を受けた子どもの言葉がその特徴をよくとらえているので紹介します。

「クーポンでもらったら、親に気を遣わずに済む。このクーポンは自分のためのものだ」

彼は、現金給付を受けたことがあるそうですが、やはり家計が苦しいのは本人もよくわかっているので親に気を遣い、本当はそのお金で塾に行きたくても、言い出せずにいたそうです。使い道が限定されたクーポンは、子ども本人に直接届く支援だといえます。

特殊な手法に思われますが、日本の医療保険の制度も「バウチャー制度」を採用しています。風邪をひいたとき、私たち国民は自由に病院を選択して、医療サービスを受け、医療費の70%を国が病院に直接支払っています。これを教育サービスに置き換えるとわかりやすいと思います。

ただ、課題としてはバウチャーが有効に使用されるためのケアが必要になる点です。ただ単にクーポンを渡すだけで、実際に使われなければただの紙切れとなります。また、無料塾で提供しているようなボランティア学生との関わり等、市場化されにくいサービスについては、バウチャーの利用範囲にはならないため、他の支援と組み合わせる等の工夫が必要になります。

重要なのは、ねらいの明確化と支援の組み合わせ!

ここまで、代表的な3つの方法を紹介してきましたが、それぞれによい点があれば課題もあります。私は、大切なのはそれぞれの支援の良い点と課題を見極めたうえで、(1)政策のねらいを明確にすることと、(2)必要に応じて支援を組み合わせることだと思います。

例えば、教育機会の平等化を図るのであれば、圧倒的にバウチャーが有効です。チャンス・フォー・チルドレンは、あえて「教育格差」に焦点を絞って取り組んでいるので、バウチャー制度を支援の方法に採用しています。またバウチャーの効果を高めるために学生のボランティアによる進路・学習相談を行う等といった「市場化されていないサービス」を組み合わせています。

貧困が連鎖する原因は様々です。だからこそ、どこに焦点を置いて対策を進めるかも多様であるべきです。仮に政策のねらいを「子どもの社会的な居場所を作る」ことであれば、無料塾という方法になるでしょうし、「家庭の精神的な安定」というところをねらいに定めるのであれば現金給付が最も良い方法だという結論に至るかもしれません。

特に税金を使って行われる自治体の政策は、ねらいを明確に定めて本当に効果の高い方法によって行われるべきです。

Editor:今井悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。著書「体験格差」、共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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チャンス・フォー・チルドレン

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「スタディクーポン」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。

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