今、子どもたちの夏休みが話題になっています。政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)の中で、消費の活性化策・休暇改革の一環として、2018年度から「キッズウィーク」を創設することを打ち出しました。
「キッズウィーク」は、夏休みなど学校における長期休みの一部を別の時期に移動させるもので、同時に企業に親の有給休暇の取得を促進させ、家族で過ごす大型連休を設けるというものです。
例えば、夏休みの後半5日間を短縮する代わりに、11月の時期に平日5日間を休みにすれば、前後の土日も含めて9日間の連休ができます。
小学生・中学生・高校生の子どもが対象となり、地域によって実施時期がズレることになっています。連休の時期が地域によって異なることで、宿泊や交通の混雑を緩和することにもなり、家族旅行などにも行きやすくなるという構想です。
静岡県吉田町では、教員の1日あたりの労働時間を減らすため、学校の授業日を増やし、夏休みを最短で10日間に短縮する方針を決めたと報じられています。これによって、年間での授業日数が増え、1日の6時限の時間割を4~5時限にすることができるそうです。
「キッズウィーク」や吉田町の両方に共通していることは、夏休み期間が短縮するということです。保護者や子どもたちから賛否両論の様々な意見が出てくる話題だと思います。
「キッズウィーク」に関して言えば、構想通りにいけば良いのでしょうが、子どもと同じようにそれだけの期間の有給休暇を取得できる企業や職種ばかりではないでしょうし、結果的に子どもを預かってもらえる先を探すことになるかもしれません。
吉田町のケースで言えば、子どもが早く帰ってくることになるので、その分、学童のような場所に預けたり、早く仕事を切り上げて帰る必要があるかもしれません。政府・行政、親、子どもなどの立場によって、一長一短の施策になりそうです。
子どもの「スタディ・ライフ・バランス」は?
社会が大きく変化している中で、英語やプログラミングなど子どもたちが学ぶことも変化しています。
どのような人材を育成するかが曖昧な中では、教育に求めるものは、「アレもコレも」となりがちです。昔も今も子ども自身の能力が劇的に変化しているわけでもなく、生活時間も増えているわけではありません。新たなことを学ぶならば、同時に学ばないことも決めなければ有限な時間の中では無理がでてきます。
大人の世界では、ワーク・ライフ・バランスや生産性・業務の効率化がどこでも言われる時代になりましたが、残念ながら子どもたちの世界を見ると、長時間残業のような学校と塾のダブルワーク状態、休みもないブラック部活動のようなことがあります。目先のことばかりに追われて、心身ともに疲れ切っている子どもたちは少なくありません。
まず第一に、学校の役割・業務(特に行事)の見直し、ICTなどを活用した勉強の効率化を徹底的に進め、子どもたちの「スタディ・ライフ・バランス」を推進する必要があります。そのうえで、むしろ子どもの放課後や週末、長期休みの時間を増やしていけるようにしていくべきだと考えます。
「キッズウィーク」や吉田町のケースで言えば、夏休みを短縮化することなく、授業時間を減らし、追加で休みを設けるくらいのことが必要だと思います。
そうすることで、子どもが多様な経験が出来たり、自分の得意なことや好きなことに打ち込める時間を増やしていくことが、これからの社会で活躍できる力を育むことにもつながります。これは、2021年度から大学入試センター試験が廃止される大学入試改革にもつながる話なのです。
学校偏重の教育は限界を迎えている
子どもの放課後や週末、長期休みの時間が増えることに関して、「その時間をどうするのか?」「経済的な負担が増えるのでは?」という親からの否定的な意見が挙げられることがあります。以前に学校が週休二日制になった時よりも共働きの家庭も増え、そのような声が多くなっていると思います。
これまで日本は、学校に教育を偏重してきた経緯があり、先進国の中でもその傾向が強い国です。学校教育が積もり積もった様々な要望に対応していった結果、学校教員の過酷な労働実態につながっていったわけです。
家庭や学校だけで子どもたちの成長を支えていくことには限界があり、地域・コミュニティで多様な場・機会を増やしていく必要があります。
欧米では、そのような場・機会を様々なNPOやコミュニティ組織等が担っています。自治体では、小学校での放課後子ども教室、中学校での部活動を学校外の専門指導者や団体・組織に委託するケースも増えてきています。
子どもが放課後や週末、長期休みに事件に巻き込まれてしまう痛ましい事件が発生している状況を考えれば、子どもを自由に放置しておけば良いというのは非現実的です。
社会全体で子どもたちの成長を支える仕組み
日本で子どもの放課後や週末、長期休みの場・機会を増やしていくためには、掛け声だけでなく「担い手となるプレイヤー」と「運営資金」がキーとなります。
一時的なイベントであれば、有志のボランティアでも運営できますが、持続的・継続的な場・機会を設けていくためには、それを支えるための仕組みや組織が必要なのです。
自治体からNPOやコミュニティ組織等が委託を受け、子どもが無料で利用できる場・機会やスポーツ・文化活動に関するプログラムを提供するのも一つです。また、放課後や週末、長期休みなどに子どもたちが好きなプログラムで利用できるチケット(学校外教育バウチャー)を配布することも一つでしょう。
学校偏重の教育から脱し、子どもたちの放課後や週末、長期休みの時間をしっかりと設け、社会全体で子どもたちの成長を支えていく仕組みが作れるかが重要だと考えます。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。