初等教育中等教育ファシリテーション

居心地の良い集団づくりのために②-クラスが成長するために、教師・支援者として大切にしたい3つのこと

顔を書いたミカン(photo by Ryoji Fujikashi)

春、出会いの季節。学校では新しいクラスや先生との出会いがあり、約1ヶ月が過ぎました。この時期は、クラスや学年での「良好な人間関係づくり」を目的としたアドベンチャー教育プログラムの依頼も多く、私も様々な学校、幅広い学年の子どもたちと出会います。

1年前の6月に執筆した「居心地の良い集団づくりのために今一度考えるべきこと」を読み返し、今年4月に出会った小・中・高・大学生との活動を振り返りながら、グループの形成期にファシリテーターとして自分が大切にしていることを再考しました。

クラスが「協力」する意味をみんなで考えること

これまで自分が受けてきた学校教育の中で、クラスは自分の本拠地であり、「協力するものである」という前提があったと思います。小学校ではクラスは、ホームルームであり、家族のようなもの。それが中学校・高校になるにつれ、授業が選択制になり、自分の居場所が部活や学校外の団体にあることも増えます。なぜ、学校はクラスに凝集性を求めるのでしょうか?

①クラスとして活動をする機会があるから(運動会などの行事や、日々の学校生活の運営)
②個人が学ぶための土壌として(学び合いの中で、他者の力も借りながら自分が成長するため)
③自分たちの集団を自治していくためのトレーニングとして(他者とコミュニケーションを取り、自分の社会性を高める機会)
④毎日、学校に来たいと思えるように(楽しさ!つながり!所属欲求の充足)

こんなところでしょうか。高校生に「居心地の良いクラスに必要なことは?」と訊ねると、「ボケとツッコミ」「お互いに適度にイジること」など、一緒に活動する上での楽しさを求めるような答えに出会うことがあります。

もちろん、集団でいる上で楽しさは大切ですが、それ以上に「なぜ、クラスが居心地よい場所であるとよいのか?」を改めて考える必要性を感じます。また、模範解答のように「協力するクラスがいいと思います。」という子どもたちに、なぜ、その必要があるのか聞いてみたいと思いませんか?

グループの発達段階を意識すること

ビー玉と螺旋(photo by Ryoji Fujikashi)

人が出会い、集団として成長していくためのステップをアメリカの心理学者のB.タックマンとM.A.ジェンセン(1977)は5つの段階に分けました。

①フォーミング:出会ってから集団がつくられる
②ストーミング:本音がぶつかり合い、対立が起こる
③ノーミング:混乱から規範ができ、秩序が生まれる
④パフォーミング:グループとしての力を発揮
⑤トランスフォーミング:グループから個に戻る、次のグループへ(参考:グループのちからを生かす―プロジェクトアドベンチャー入門 成長を支えるグループづくり

出会って間もない、集団が形作られるステージでは、コミュニケーションの量が大切です。まずは相手を知ることで、お互いに安心感を得ます。

幼稚園児はとりあえず一緒に遊ぶことで「この人、大丈夫だ!」とお互いに発見しているようです。この時期は、子どもたち同士が関わる機会をたくさん作り、会話・対話をしたり、一緒に遊び・活動を共にしたりする中で「楽しかった」という快の感情がそこにあることを大切にしています。

グループが仲良くなってくると、前に出られる子が言いたいことを言ったり、個人個人の欲求がぶつかったり、他者の価値観を受け入れられなくなったりします。対立は、面倒くさいこと、避けるべきことのように思えますが、グループで越えるべき課題=目標が見つかったと捉えることもできます。「この居心地が良くない状態から、全員が居心地良く過ごすためにはどんなことが必要か」を問いかけるチャンスです。

起こっていること、考えていることを言語化し、共有することで集団規範を創り出し、それを守ろうとするとき、秩序あるグループに一歩近づきます。規範ができても、またそれを無視し対立が起こり、また規範を確認して・・・とストーミングとノーミングを行ったり来たりしながら、グループは成長していきます。

集団規範が整った集団は、チームとして機能し、一人ひとりが自分の成長のためのチャレンジができる土壌となります。そして、全てのチームはやがて解散(クラス替え、卒業など)し、次のステップへと進んでいきます。グループがどのステージにいるかを意識することで、活動の内容や課題の負荷、支援の度合いも変わってきます。

心の安全を守ること—「呼ばれたい名前」の取り扱い

子どもたち

出会ったばかりでも、特徴のある名前や言動は簡単に「好まれないニックネーム」となります。また、これまでのニックネームも継続しやすい。アドベンチャー教育プログラムでは、みんなの「呼ばれたい名前」を教えてほしいとお願いをします。

名字は、先祖代々継承されてくる名前で、言わば家族の歴史。下の名前は、近しい家族が願いを込めてつけてくれる大切な名前。そして、「呼ばれたい名前」は自分が呼ばれて心地よい、主体的な名前です。

「別にありません」「なんでもいいです」「バカと呼んでください」など、自己肯定感が低いと感じる子に出会うこともあります。また、周囲からの圧力で「じゃあ、僕も◯◯でいいです」と、メンバーの行動に依存して名前を決めようとする子もいます。そんな時は、きちんと話をして、自分で名前を決めてほしいということを何度も伝えます。

そこには、まだ自由に自己表現をしていいという集団規範ができていない、言い換えるならば「主体的に発言をすることは格好悪いからダメ」のような暗黙の規範があるとも言えます。だからこそ、グループのリーダーとして、心の安全を守る規範(ルール)を提案します。グループの安心感を作っていく上で、身体と心の安全が侵害されるときだけは絶対的にリーダーの介入が必要な場面です。

毎年この時期に、クラス・学年の関係づくりの支援をさせてもらって、アドベンチャー教育プログラムの効果を実感するとともに、過保護だと思うこともあります。

本来ならば、大学生にもなれば自分たちである程度の関係性を築く力を持っていてほしい。どんな集団になっても、アイスブレークの活動、それを支援するファシリテーターを必要としなくても、お互いに主体的にコミュニケーションがとれ、関係性を築けるスキルを高めていってほしいものです。

Author:藤樫亮二
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。

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