初等教育中等教育ファシリテーション

居心地の良い集団づくりのために今一度考えるべきこと

金槌とクギphoto credit:Andres Illumvia photopin

“The nail that sticks out gets hammered down”

「出る杭は打たれる」

中学生のときに、英語のことわざ事典を知り合いに貰い、その中にこの諺が載っていたのを思い出しました。自分自身の経験で言えば、天真爛漫だった幼児期から、周りの友だちの目を気にして過ごすようになった小学校時代。

中学生になると、試験前には「え、オレ全然勉強してないよ!」と言い、勉強していないことをアピールし合うことが美徳で、真面目に一生懸命やることが格好悪い。クラスの中で自分も人と同じでなければならないように振る舞う・・・

境遇は違えど、似たような経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

子どもも大人も、人は誰しも、学校やチームなどの集団の中で、居心地よく過ごしたいと思っているはずです。互いに意見を伝え合い、お互いの行動を尊重し合える、そんな居心地の良い集団を作るためには何が必要なのでしょうか?

アドベンチャーだからこそ必要な環境

アドベンチャー教育では、ターザンロープで島渡りをしたり、みんなで手をつないで一斉に立ち上がる課題解決をしたりする中で、一人ひとりの目標設定に応じた「アドベンチャー」をすることを推奨しています。

それは、自分の安心な領域から自らの選択で一歩踏み出し、成功するかどうかわからないことに敢えて挑戦すること。そして、その中で人は成長していきます。

命綱をつけて、高さ10mから飛び降りるチャレンジも、初めての人間関係の中で相手の名前を呼ぶドキドキ感も、その人次第で「アドベンチャー」になります。上手くいかないリスクが伴うのだから、自分が所属する集団が「安心できる場」であることが必要です。

自分が仲間からどのように扱ってほしいか、どうやって仲間に接するのか?活動を通して見えてくるお互いの価値観を共有する中で、言語化していきます。それが、少しずつチームの規範になります。

プロジェクトアドベンチャー ハイエレメント

規範とは?

社会学的には、規範にはフォーマルなもの(法律や契約)とインフォーマルなもの(道徳や習俗)があり、無秩序状態を秩序化してくれるものだとしています。また、社会心理学的には、規範とは集団の大多数のメンバーが共有している判断の枠組みで、個人の意思決定に大きな影響を与えるものであるとしています。

最近、中高生対象のアドベンチャープログラムの中で、行動が相手の出方に依存している生徒に会うことが多いように感じます。

「仲間が挑戦するなら自分もする。やらないなら自分もやらない。」というように、他人と違う行動を取ること、仲間の前で失敗することを恐れているケースです。

もしも、その相手も他人の出方に依存していたら?意思決定は難しく、互いに牽制し合い、行動できなくなります。そういう状況でこそ、自ら一歩主体的に行動できる人材の育成が必要だと痛感しています。

冒頭に引用した、「出る杭は打たれる」というのは、目立つ行為をすると批判を浴びるという、集団の中の望ましくない暗黙の文化や習俗的な規範があるから起こることだと考えられます。

グループが成長していく過程で、「どんなチームになりたい?」と尋ねると、「もっと積極的に」「お互いに本音が言えるように」「お互いの安全を守る」「楽しいチーム」など、とても肯定的なイメージが出てきます。知識として良好な集団がどのようなものかは知っているのですが、それを行動で具現化することはリスクが高いようです。そんなときは、規範の再構築が必要です。

もしも、「お互いに本音を言い合おう」ということが、グループの実体験から課題として挙がり、それをチームとして大切にしようとするとき、そのプロセスを通して、「ここでは、杭が出てもだれも責めない。むしろ積極的な行動を取る場所だ」という集団規範が共有されます。

そうすると、一人ひとりの行動が自分たちの定めた規範によって承認され、行動しやすくなります。言い換えれば、規範は行動していく上で、望ましい方向を示してくれるコンパスのようなものです。

集団規範づくりの4つのステップ

集団規範づくりの4つのステップ

集団規範の作り方を、上記のチャートのように4つのステップに分けてみました。私たちは、集団で活動していく際に、何が大切なのか、知識として知っています。小学生でも「チームになるために何が大切か?」と尋ねられると、協力、思いやり、信頼、愛、平和…必要なキーワードは全て出てきます。

だからこそ、まずはその集団で一つの「体験」をし、その集団の価値観や規範の現状を知り→共有し→ビジョンを見つけ→それに向けてまた行動してみる、という体験的な場が必要なのです。

島から落ちそうな仲間に手を貸すことが協力、困っている仲間に「大丈夫?」と声をかけることが思いやり、というように、キーワード一つひとつに具体性を持たせていくことで、初めてその言葉は意味を持ちます。

言うは易し、行うは難し…子どもに仲良くしなさいという大人たちが、実は人間関係づくりで、できていないことはたくさんあります。自分が所属する集団を居心地がよい場にするために、まずは私たちが日々アドベンチャーしていきましょう!

Author:藤樫亮二
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。

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