NPO法人ダイバーシティ工房が運営する民間シェルター「Le Phare」(以下、ルファール)では、親や親のパートナーからの虐待、家庭内不和、生活困窮、そして、それらが複雑に絡み合った状況からの安全な逃げ場・居場所を必要とする10代後半~20代の女性が生活しています。
「シェルター=避難所」という言葉通り、自宅や生活拠点となっている場所に居ると危険な状況にある女性が暮らす場所です。
問い合わせを頂いた後、面談や調整を行い、段階を踏んで入居が決定していく場合もありますが、「今晩の居場所が必要」というような緊急的な宿泊先として利用されることもあります。また、親との関係から家庭に居づらさを抱える高校生の放課後の居場所としても活用されています。
社会的に弱い立場に置かれている10代後半~20代の女性
避難する必要性がある状況と同時に、ルファールや民間シェルターが10代後半~20代の女性の生活場所となっていることには、その年代が社会的に弱い立場に置かれやすいこととも深く関係しています。
「保護者がいない」「養育できない」「家庭内不和や暴力により自宅が安全でない」などの状況下にいる児童は、児童養護施設をはじめとする施設で社会的養護の対象となります。しかし現行の児童福祉法の下では、18歳になると社会の中での自立を求められます。
18、19歳の若者が一人で住居を見つけ、仕事に就き、生活費を賄うにはあまりにも多くの障壁が存在しています。頼りにできる先も、信頼できる相談相手もいないままに、弱い立場にいる女性を狙う男性に騙されるなど、更なる被害に遭うケースも少なくありません。
年齢等の観点から制度の狭間に落ちてしまうことに加え、公的な支援が追いつかない現状もある中で、女性たちがまず安全を確保できる場所として、民間シェルターは運営されています。
生き抜いた先で、まずは安心できる場所として
ルファールは2020年12月に開設しました。個室3部屋があり、3名が入居することができます。
ルファールは、短中期シェルターという特徴上、3カ月という入居期間の目安を設けています。しかし、実際に自立を見据えた場合、短期間で退去していくことがいかに難しいかということを初年度の運営を通じて実感しています。
(NPO法人ダイバーシティ工房:民間シェルター「Le Phare」の様子)
入居者の方は、それまでは生き延びるのに精一杯の状態で、何とか一人で頑張ってきた方がほとんどです。安全な場所でやっと脱力できたことで、それまでの疲労やストレスが一気に表出してしまうこともあります。心身ともに体調を崩し、結果的に利用が長期化してしまう方も少なくありません。
そのためルファールでは、過酷な状況をなんとか生き抜いてきた女性たちが、まず疲弊する心身を休める場所であることを大事にしています。そして、安全な場所で安心して生活ができることを土台に、退去後の自立した生活に向かうための伴走支援を段階的に行います。
自宅、友人宅、公園から「ルファール」へ
入居者の受け入れは、行政や地域の支援機関などからの問い合わせを経由してくるケースが多くを占めます。
行政の婦人相談員や困窮者窓口、医療機関、スクールソーシャルワーカーなど多様な機関から、開設以来30件近い問い合わせが寄せられ、そこから各関係機関とのやりとりを経て、入居の決定や緊急宿泊の受け入れを行ってきました。また、利用者自らがネットで見つけ、直接、お問い合わせを頂く場合もあります。
お問い合わせを頂いた際に、部屋に空きがある場合は、事前に面談を行います。ダイバーシティ工房の他の事業拠点や、近くのカフェなどで直接会い、ルファールでの共同生活ができそうか、ルファールの体制で安全を守れるかの判断をして入居に至ります。
(NPO法人ダイバーシティ工房:民間シェルター「Le Phare」の様子)
ルファールへは親元から来る方、一次的に滞在していた友人宅から来る方の他、公園で寝泊りしていた状態から繋がった方もいます。ルファールでは衣類などの生活用品を用意しており、入居後すぐに生活を始めることが可能となっています。
ルファールが行う支援とは?
利用期間はそれぞれの利用者にとって異なりますが、ルファールが次のステップに進むための一時的な生活場所であることに変わりはありません。
ルファールの出口を見据えると、そこには、女性たちが他の支援機関との繋がりをはじめ、公的・民間ともに必要な社会資源を利用できる状態や、個々が望んでいる次のステップに進む準備が整うことなどがあります。
次のステップが何であるかは、一人ひとりの意思や状況により異なります。就労先を見つけることだったり、進学先を決めることだったり、次の居住先を決めることだったりと様々です。
そこに向かうまでには、自分の生活を自分で行えるようにするためのサポートも必要です。具体的には、調理、健康管理、金銭管理など生きていくためのスキルです。
例えば、放課後に通所利用していた高校生の利用者は、ルファールに来て初めて髪の洗い方を教えてもらったと言います。彼女は水分補給のほとんどを砂糖入りの清涼飲料水で行っていた状態から、水やお茶を飲むことが習慣づいてきました。
本来であれば家庭生活の中で学ぶことを、一度も経験できなかった、教えられなかった。そういった状況に置かれていた女性たちに、基本的な生活を送り健康な状態を保つための生活スキルを、共に暮らす中で身につけていけるようにサポートしています。
(NPO法人ダイバーシティ工房:民間シェルター「Le Phare」の様子)
また、個々のニーズに合わせながら、新たに自治体や就労支援団体、医療機関など専門性や役割が異なる機関と繋がり、利用者にとっての頼り先が複数ある状態を作ることも、ルファールが行う重要な支援の一つです。
「自立」と一言で言っても、その方自身が生活に必要なスキルを完璧に身につけ、就労先を見つけた段階で退所することを指しているのではありません。地域に相談先・頼れる先が増え、退所後再び何か困ったときでもSOSを出せるようになるという意味も含めた「自立」に向かうための支援が求められます。
いくつかの関係先があることで、ルファールを退去した後にも社会との繋がりを保ち、支援を途切れさせることなく、相談ができる環境を持ち続けることを目指しています。
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。