「アクティブラーニング」という言葉が一般化してきました。本屋さんの教育ブースへ行くと、「アクティブラーニング入門」などのタイトルが多くみられるようになりました。
このアクティブラーニングという言葉は、2012年8月28日の中教審(文部科学省中央教育審議会)の答申にはじめて登場しました。大学生が受動的から能動的に変わっていく学び方が必要なので、「質的変換を求めます」「対応するように」と書かれています。
2年後の2014年11月20日の下村文科大臣から中教審に出した「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」という諮問の中に、アクティブラーニングという言葉が再び使われました。小中高でも「アクティブラーニングを前提に授業をつくってください」となりました。
そして、また2年後の2016年3月31日の高大接続システム改革会議「最終報告」の中でも記述があります。大学入試でも「アクティブラーニングを前提につくってください」となりました。大学受験をこれまでの知識詰め込み型教育でセンター的な試験だったものから、能動的な学び手であるかどうかを評価する面談などを組み入れるというのです。
実際、今年の東大の入試試験では、スマホで撮ったような白黒の写真画像について、「全体で60~80字の英語であなたが思うことを述べよ」という問題が出ました。これは模範解答例が存在しない問題です。だから、自分の頭で考えて自分なりに答えるしか方法がありません。大学側も変わってきました。
約50年前から提唱されていたアクティブラーニングの必要性
なぜ、アクティブラーニングが必要なのか?平成26年の文部科学省の「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」では、下記のように書かれています。
今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は、厳しい挑戦の時代を迎えていると予想されます。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく変化し、子供たちが就くことになる職業の在り方についても、現在とは様変わりすることになるだろうと指摘されています。また、成熟社会を迎えた我が国が、個人と社会の豊かさを追求していくためには、一人一人の多様性を原動力とし、新たな価値を生み出していくことが必要となります。
まさにこれからの展望を見つめた良い文章だと個人的には思います。今から約50年前に、このアクティブラーニングの趣旨に近い考え方がすでに提唱されていました。
学校という制度の「教えられ、学ばされる」という関係から、「自ら学ぶ」という行為、すなわち学習者が内発的に動機づけられて独学する行動を取り戻すために、学校という制度的な教育機関を超越することである。つまり、教えてもらう制度、機構である学校から離れて、自分の学び、自分育てとしての学びすなわち独学を取り戻すことである。
この文章は、1970年にオーストリア、ウィーン生まれの哲学者、社会評論家、文明批評家であるイヴァン・イリッチが書いた「脱学校の社会」の中で提唱された「脱学校」という考え方です。学校から離れるという方法論以外は、アクティブラーニングに求められている背景と酷似していると思いませんか?
もちろん、学校教育の批判をするつもりはありません。学校で学び続けることが悪いということではありません。学校にしかない仲間や環境もたくさんあります。しかし、学校の時間割で区切られた学びが得意でない子どもたちや、毎日通うのがしんどい子どもたちも大勢います。
単位として認められる米のホームスクーリング
現在、アメリカでは約220万人の子どもたちがホームスクーリングを行っています。そして、毎年その人数は増えており、テストなどの平均スコアも高く、家庭で学んでいるにも関わらず、社会とかかわる意欲も学校の生徒の平均以上にあるというデータもあります。
アメリカでは、ホームスクーリングが各州で正式に単位として認められており、オンラインで学ぶコースや、ホームスクーリング専門の各州で認められたチューターが電話を使ってヒアリングなどを行う仕組みがあります。そのため、「学校に行かないこと」=「学ばないこと」ではなく、「学校に行かないこと」=「自分で学習すること」と捉えられます。
不登校の子どもには、自ら主体的な学び方をつくるチャンスがある
日本の不登校は、現在、小中高合わせて約18万人。もちろん、「クラスになじまない」「いじめ」「学習障がい」などで不登校になってしまう子どもたちもいます。
しかし、一方で社会的なレッテルや学校的な支配関係の中で子どもたちがストレスを感じ、「学校」というシステムから脱出しようとしている子どもたちもいます。そのような不登校の子どもたちは、社会の抑圧的な仕組みをとても敏感に感じとっているのかもしれません。
そして、彼らこそ、これからのアクティブラーニング時代にまさに向いている対象になります。「学校に行けないから悪い」というこれまでの考え方ではなく、学校に合わないからこそ、自ら主体的な学び方を作れるチャンスがある子どもたちになるわけです。
「不登校ではなく、脱学校を」をアクティブラーニング時代のトレンドにすることができれば、内発的な学びを行うことができる仲間が図書館やインターネット上に溢れ、一人ひとりの内発的な学びをお互いに刺激しあい、より高度な探究学習が生まれていくと思います。
(「キッズクリエイティブマーケット」のプログラムの様子)
「不登校」の子どもたちをコペルニクス的転回で捉えなおす
私たちも、これからホームスクーリングと地域学習を組み合わせた新しい事業「ハイブリッドスクーリング」(現在準備中)を秋田県五城目町で行っていこうと考えています。
また、今月から同じく秋田県五城目町で、小学生の子どもたちが自分たちで実際のお金を使って朝市に出店しサービスを提供していく「キッズクリエイティブマーケット」を実施しました。学校に通う子も、通わない子も、共に地域の人たちから学び、自分たちで将来をどう生きたいのか考え、自らキャリアをつくっていくこと。それがアクティブラーニング時代の学び方になっていくと考えます。
それは今後のアクティブラーニングの方向性にもつながり、これまでの学校が無意識にラベリングしてきた「不登校」の子どもたちをコペルニクス的転回で捉えなおす契機にもつながるのではないでしょうか?
Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。