災害・復興支援不登校・ひきこもり

震災が”始まってから”二年半-全国不登校率ワーストの宮城県の今

東日本大震災後の宮城県石巻市

「先生、ごめんなさい。○○ちゃん、お母さん死んじゃったのに、津波の話、しちゃった。本当にごめんなさい。」

小学校5年生の女の子2人組が、私のところに涙を浮かべながら謝りにきました。仮設校舎で学ぶ2つの小学校合同の自然体験教室(石巻市では小学5年生になると、青少年自然の家で宿泊体験をします)のキャンドルナイトでの出来事です。

キャンドルナイトでは、班ごとに出し物をすることになっています。ダンスをする班もあれば、歌を歌う班もあります。この2人組の班は、都市伝説を発表することにしました。

「いまから、都市伝説を話します。はじめに、トトロの都市伝説です。」

アニメやマンガの都市伝説、発表される度に子どもたちは悲鳴を上げたり、耳を覆ったり、大盛り上がりです。そして、終盤にさしかかった頃、先ほどの2人組が発表しました。

「私たちは、崖の上のぽにょの都市伝説を話します。」

発表が始まった瞬間、空気が変わりました。お互いの表情を見合い、様子を伺う子どもたち。急に辛そうな表情をみせる子どもたち。教員たちも、少し慌てた様子です。そうです、崖の上のぽにょは、子どもたちから大切なものを奪った津波を題材として書かれた映画でした。

見えない”被災地タブー”が生む息苦しさ

NPO法人TEDIC

校舎が流失した2つの小学校は、来年度から1つの小学校に統合され、新しい学校としてスタートすることになっています。統合前に、子どもたち同士が交流できる機会にと、合同の自然体験教室が実施されました。

被害の大きかった地区ですので、子どもたちの中には、自宅を失った子も入れば、親戚をなくした子もいれば、両親や兄弟をなくした子もいます。情報を得ている教員と違い、子どもたちは、お互いの被災状況がわかりません。

「隣の△△くんの家は大丈夫だったのかな…」「××ちゃんのお母さん、流されちゃったって聞いたんだけど、本当かな…」「□□小の人たちって、津波大丈夫だったのかな…」

そして、相手を傷つけないようにと思い、色んな話題を避けようとします。

家族を亡くしているかもしれないから兄弟や親の話は避けよう。

お家を流されているかもしれないから、家のことやペットのことは避けよう。

友達を亡くしているかもしれないから、仲の良い友達の話は避けよう。

習い事できなくなったかもしれないから、スイミングの話は避けよう。

もちろん、親しい友達同士であったり、親から聞かされて、知っている場合もあります。2年半が経ち、なんとなく知っている場合もあります。ですが、知っていたとしても、話題を避けようとし、また思わぬ地雷を踏んでしまわないか、気を遣いながら、毎日を過ごしています。

相手を傷つけたくないからこそ、気を遣う。それでも、どんなに気をつけても話題になってしまうことがあります。その度に、冒頭の女の子2人組のように、罪悪感に苛まれているのかもしれません。

そしてそれは子どもたちだけではなく、教員、そして親同士もそうです。被災地ならではのタブーが、緊張を生み、その緊張がプツっと切れてしまう瞬間を心のどこかで恐れながら生活している。それが、石巻の今なのかもしれません。

不登校率がワーストの宮城県、「震災の影響はある」

NPO法人TEDIC

先日、発表になった2013年度学校基本調査(文部科学省)では、不登校出現率が3.08%となり、宮城県がワーストとなりました。

※朝日新聞(2013年8月7日):不登校の中学生、宮城県が全国最多 震災が影響か

宮城県教委は「震災の影響はある」としています。もちろんそれだけが要因ではないと思いますが、先に述べたようなタブーのなかで、心が疲弊し、疲れ果ててしまい、学校での関わりを避けようという子どもがいるとしたら、それは「震災の影響」といえるのではないでしょうか。

宮城県教委は「震災の影響はある」としています。もちろんそれだけが要因ではないと思いますが、先に述べたようなタブーのなかで、心が疲弊し、疲れ果ててしまい、学校での関わりを避けようという子どもがいるとしたら、それは「震災の影響」といえるのではないでしょうか。

私たちの事業である、放課後教室にも、そのような子どもたちが参加しています。今では学校に通うことができるようになりましたが、いつまた緊張の糸が切れてしまうのか、心配しながらの毎日です。

震災から2年半が経ちましたが、子どもたちにとっては、「震災が起きた日が3.11ではなく、震災が始まった日が3.11」だと、ある学校の校長先生が話してくれました。

いまなお続く震災の中で、1人でも多くの子どもたちが安心して居られる場所、1人1人の気持ちを受け止められる場所を学習支援を通じながら作ることが、放課後教室の使命です。

【訂正とお詫び】
こちらの記事で当初は「石巻市が不登校率ワースト」という記述をいたしました。この根拠は、石巻市の学校教育担当者へのヒアリングの証言でした。 本来であれば、学校基本調査の市町村別の結果を情報開示請求することで、正確な数値を得たかったのですが、開示請求を拒否されたために、ヒアリング証言を根拠としていました。

その後、NPO法人地星社様からこちらの記事が発表され、宮城県石巻市は小学生、中学生共にワーストではないことがわかりました。地星社様の記事は、学校基本調査の市町村別の結果に基づくものですので、正確かつ公式な情報となります。この情報に基づき、誤りのあった箇所を訂正させていただきました。

ご購読の皆さまはもちろんのこと、支援団体の皆さま、学校教育関係者の皆さま、そして被災地に思いを寄せてくださる全ての皆さまに、心よりお詫び申し上げます。一方で、県内ワーストではありませんでしたが、宮城県石巻市は不登校率が全国平均を大きく上回り、また震災後に上昇も見られること(特に小学生)、有効な社会的資源が少ないことから、引き続き弊団体としても、この課題に取り組んでいく所存です。

Author:門馬優
1989年生まれ、宮城県石巻市出身。石巻圏域子ども・若者総合相談センターセンター長。早稲田大学大学院教職研究科修士課程修了。東日本大震災で故郷が被災、2011年5月にTEDICを設立(2014年にNPO法人格取得)。貧困、虐待、ネグレクト、不登校、ひきこもりなど様々な困難におかれる子ども・若者に伴走しながら、官・民の垣根を超えて、地域で育んでいく支援・仕組みづくりに取り組み、主に困難ケースへのアウトリーチを中心に子ども・若者に関わる。
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