神奈川県厚木市で死後7年以上が経って男児の白骨遺体が見つかる大変に痛ましい事件があり、「居所不明児童・生徒」のことが再び話題になっています。2012年にも大阪府富田林市で男児が行方不明になっている事件が10年も経ってから表面化して話題になっていました。残念ながらこのような事件は後を絶ちません。
「居所不明児童・生徒」に関する話は、何年も経過して大きな事件になって明らかになっており、報道されるようなケースは氷山の一角でしかありません。原因・理由は、DV(ドメスティックバイオレンス)などで住民票を残したまま身を隠している-ケースもありますが、虐待などで親や親族が隠蔽するケースもあります。
日本のこのような子ども達の実態は一体どのようになっているのでしょうか?
所在不明の乳幼児が4,176人
厚生労働省については、今年の4月に本格的な全国調査を行うことを公表しています。全国の区市町村に対し、今年5月1日現在で学校に通っていなかったり、乳幼児検診を受けていなかったりするなど行政機関が本人や保護者と連絡が取れない18歳未満の子供の数を報告するよう求めています。調査は、今夏を目途に発表される予定です。
それに代わる調査として、昨年末に公表された読売新聞の独自調査があります。(2013年12月30日:所在不明の乳幼児4,176人、虐待の懸念も )その調査によると自治体が2012年度に実施した乳幼児健診を受けず、所在が確認できない乳幼児が37都道府県の334市区町村で計4,176人に上ります。記事の中では、以下のように説明されています。
アンケート調査は今年11月、全国1742市区町村を対象に実施。全自治体から回答を得た。その結果、1歳未満の乳児、1歳6か月児、3歳児の各健診を受けていない乳幼児のうち、自治体の職員が家庭訪問するなどしても所在確認できなかったのは、乳児で499 人、1歳6か月児で1423人、3歳児で2254人に上った。1歳半と3歳の未受診児は計約15万人で、その約2・5%にあたる。
都道府県別では、東京都の752人が最多で、埼玉県(638人)、千葉県(583人)、愛知県(453人)と続いた。人口の多い東京都の一部の区や横浜市、大阪市などが人数を集計しておらず、実際はさらに多いと見られる。
一方、全ての市町村が「ゼロ」と回答したのは、秋田、山形、石川、鳥取、島根、徳島、鹿児島の7県。ゼロと回答した市区町村の中には、保護者への電話連絡や受診を勧める手紙を送っただけで「確認を済ませた」としているところもあり、把握が不十分な可能性がある。
所在が分からない理由として、住民票を残したまま外国籍の子が帰国したり、家庭内暴力から逃れるために転居したりしたケースが想定されるが、居住実態がないため実際の理由はつかめていない。所在を確認する上での課題として、人員不足や個人情報の壁を挙げる自治体が目立った。
所在不明の小学生・中学生が1,491名
乳幼児でこれだけたくさんの子ども達の所在がわからない状態になっていることも驚きですが、小学校入学後・就学後の状況はどのようになっているのでしょうか?
文部科学省では、平成24年5月1日に実施した調査結果(居所不明児童生徒に関する教育委員会の対応等の実態調査)では、1,491件(小学校入学時から998件、在学中493件)にも上ります。居所不明である期間、居所不明となった主たる理由として考えられることは、次のような結果になっています。
このデータは市区町村の教育委員会を対象に行っているものであり、中学校卒業後に行方不明になっている子どもの実態はわかっていません。中学校までが大丈夫であればそれ以降は何もないという保証はなく、中学校卒業後から18歳までの間に家庭の状況が一変する可能性も十分あります。
網目の粗いセーフティーネットから抜け落ちる
居住不明状態の子ども達の中には、「国外転出の手続をしないまま、国外に居住している」というような手続き上の問題の場合もありますが、DV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待など何らかの危険が差し迫っている子どもが多くいるものと考えられます。先ほどの読売新聞の調査に関する記事では、下記のようなことも指摘されていました。
乳幼児健診の未受診率は1割未満だが、国が把握した11年度の虐待死58人のうち、未受診率は健診時の年齢別で43~25%と高く、厚生労働省の専門委員会は、未受診家庭について「虐待のリスクが高い」と指摘している。
このような状況下に置かれている子ども達に対してのアプローチというのは、法的に何の権限をもっていないNPOなどの民間組織が対応することは困難なことであり、生命・身体の危機にある可能性を考えれば、セーフティーネットとして地方行政が果たす役割が大きいと思います。
こういった子どもを発見するためには、行政側が受け身で待つということではなく、積極的にアウトリーチしていく必要があります。
また、漏れがないように悉皆調査を定期的に行わなくてはなりません。就学前の時期であれば、保健所などが行っている定期健診や乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業などが重要になってきます。また、就学後は、義務教育期間であれば、教育委員会・学校が一番発見しやすい機関だと考えられます。
しかしながら、就学前後では対応している部署が異なり、いわゆる縦割りの弊害もあって、上手く情報がつながらない中で抜け落ちていってしまうケースも少なくありません。
また、学校教員も非常に業務が多忙な中では、そのような子どもに対して十分な調査を行うことは困難です。ソーシャルワーカー(ケースワーカー)が教員と連携しながら、実態を調査していくことが必要になってきます。
しかし、残念ながら重要な連携先であるソーシャルワーカー(ケースワーカー)も人数が不足しており、一人で対応するケース数も多くなっており、なかなか手がまわっていないという実情があるようです。
子どもに対する社会保障を手厚くする必要がある
年間100兆円と言われる日本の社会保障費のうち、子ども・家族関係への給付は全体のわずか3,4%と言われています。
本ウェブマガジンでは、これまで日本の教育費の家庭負担に関する記事も掲載していますが、そもそも子どもの成長について親・親族頼みになり過ぎている状況があります。親・親族に経済力や理解がない時に、子どもの成長を支える機関や地域の力が完全に不足しています。
所在が不明な子ども達がこれだけ多くおり、国家として一番根幹となるセーフティーネットが子どもに対して機能していない状況は由々しき事態なのではないでしょうか?
NPOや民間企業と連携できるところはしながら、保健所・学校・児童相談所などの行政機関が横断的に連携できる仕組みを作り、きちんと子どもに関する最前線の機関の拡充を図ることが重要だと思います。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。