大阪市内にある公立小学校の一年間に密着したドキュメンタリー映画『みんなの学校』が今、大きな話題となっています。普通の公立小学校でありながら、特別支援学級も設けず発達障害がある子どもも共に学び、不登校ゼロを実現しています。
2月21日(土)より東京・ユーロスペース、3月7日(土)より大阪・第七藝術劇場など、全国で順次公開される『みんなの学校』。今回は、本映画を製作した真鍋俊永監督に、映画が出来た経緯や大空小学校の様子についてインタビューしました。前編・後編の2つの記事でご紹介いたします。
子どもたちが楽しく通える。それが一番の大原則で、公立学校の役割
〔写真提供:(C)関西テレビ放送〕
真鍋監督がもっと増やしたいと考える「こんな学校」とは、どのような学校だろうか。具体的に話してもらった。
「そうですね。子どもたちが楽しく通えるっていうのが一番の大原則だというのは校長の仰る通りで、僕もそう思う。その上で実現させるために、どんな個性を持たせるかっていうのは、いろいろな方法があっていいと思います。
やっぱり公立学校は、来られない子とか落ちこぼれてしまう子っていうのをつくらないことが一番の目的だと思うんですよね。別に学力を上げることを軽視しているわけではないですけど。
それぞれの子どもに合う合わないがあって、この学校いやだなって思って通ってる子もいるかもしれないけど、『来られない』という子が出てしまうのは一番問題じゃないかなと思います。まぁ、引きずって無理やり登校させるのは、もっと意味がないですけどね(笑)。
勉強とか学力の話もそうなんですけど、今は大阪市だと『学力を上げましょう』と政策を立てていますが、大事なことはケツを叩いて得点を取らせるっていうのではなくて、どう学べばどう自分が伸びていくのかっていうのを理解することだと思うんですよね。どうやったら前向きに取り組もうとする子どもの心がつくられるのかというのが本来問われるべきだと思います。
日本全体がケツ叩いても得点が上がればいいっていうところに陥ってるんじゃないかな、という疑問があって、大空小学校はそれにすごく答えてくれた学校です。」
毎日ドリルを死ぬほど解かせていれば点数は上がるだろう。しかし、子どもの時間は限られており、その限られた時間を使って何をするのが大事かを大空小学校では常に問い続けているという。
「そういいつつ、大空小は他の学校より学力テストの得点は高いんですけどね。やっぱりそこは前向きに取り組む力を育てているのが役に立ってるんじゃないかなと思います。
ただ、それは証拠も何もないし、結果でしかない。結果は『今、高いです』っていうことだけ。もしかしたら来年得点が下がるかもしれないけど、大空小学校はそれが目的ではないから重要ではないんです。」
本質は「伝える」「教える」ではなくて「学び合う」
〔写真提供:(C)関西テレビ放送〕
こう聞くと、子どもには物事に対する姿勢や心構えを伝えるのが大事なんですね、という話になるが、それは違うと真鍋監督は言う。
「『伝える』というのは違うんですよ。身につけてもらう、学んでもらう、というのが言い方としては合っていますね。伝えるもんじゃないんです、きっと。大空小は『教える』という話自体を揺さぶっています。上から教えるんじゃなくて、お互いが学び合っている。
だから、先生たちもそういうふうにしていかないと いけないと校長は言います。たとえば生徒の中に特別な子が一人いたら、その子からいろんなことが学べるのだからラッキーと思え、という話です。
一方的に伝えるということは、もちろんそれぞれの局面で無くは無いのですけど、トータルで見ればお互いが高め合っていくというのが思想の根本にあるんですね。それを僕は一年かけて教わったという感じです。ああ、なるほどと。」
また、こう続ける。「こうやればうまくいくとか、こうしたらこうなるというようなことを子どもたちに徹底的に『教える』ことが今の教育改革の中心に なっているように見えるけど、教育は『どうすればいいんだろうと考える意欲をもたせること』が一番大事なのかなと一年通って感じました。なかなか自分の子どもにそれをやろうと思ってもできないんですけどね。」
自分たちも学校に対して決定権がある。変えられるかどうかは、自分がやるかやらないか、それだけ。
〔写真提供:(C)関西テレビ放送〕
取材をする前は教育現場にはそれほど関わりのなかった真鍋監督。取材をする前と後とで、監督が抱いていた公立学校に対するイメージはどう変わったのだろうか。
「当たり前だけど、自分たちも学校に対して決定権があるんだよなということですね。地域の人間として、保護者として。それが実際に認められるかどうかは別だけど、強く意識するようになりました。
以前は校長先生とか先生たちが決めて、PTAが意見を言って、そういうふうに学校が運営されているのかなと思って いたけど、もっともっと自分で動いたり関わったりすることで、もっと良い方向へ動かしていける可能性はあるのかなと思うようになりました。
校長先生がどういう方かによって大きく違うと思いますが、『こんな校長がいるといいよね』っていうことを思うだけじゃなくて、『そういう校長に変わってください』って働きかけることもできますよね。
大空小の校長がよく言うんです。『他人を変えようと思っても他人は変えられない。変えたければ自分が変わりなさい』と。だから僕がまず変わらなきゃいけないと思うし、その変わったことを受けて、相手も変わればラッキーみたいな形でしか物事は動いていかないと思う んですよね。」
物事を変える力について、真鍋監督はこう力説する。
「できない理由を探さないこと。できない理由を探したらいくらでもやめられます。『こうしたいんだ』っていうことを前面に置いて、そのためにはどうするんだってことを考えて前に行くしかないんですよ。
大空小はすべての子どもの学習権を保証するって決めて6年間動いてきました。その6年間でなにがあったか知 らないけど、やっぱり『こうしたい』って決めて前に進んできた結果ですよね。まあ、大空小を見に来た大体の人が『これはやれない』って言いますけど、やれないって思ったらやれないですよ。やるんだって思うしかないんです。そこだけの違いじゃないですかね。」
子どもたちは自分自身でやるべきことを勝手に見つける。手助けが必要な時は、どんな子であっても「支援が必要な子ども」
特別支援が必要な子どももみんな一緒に学ぶ統合教育は、どういったことを子どもたちにもたらすのだろうか。統合教育には慎重な親もいる。一年を通して統合教育の現場を見てきた真鍋監督はこう語る。
「たとえば、統合教育だと支援が必要な子どもにばかり手をかけられて、うちの子どもが見てもらえないんじゃないかっていう親もいますけど、見てもらえなかったらそれでいいんじゃないかと思うんですよね。子どもは見てもらえないなりに自分のやるべきことを見つけますよ。それを手取り足取り教えるよりかは、 何をしたらいいか自分で考える方が伸びシロっていくらでもできると思うんです。
自分の子どもを『見てもらわなきゃいけない』って思うことは、その子も『支援が必要な子ども』なんです。そういう意味では、そもそも『支援が必要な子ども』を特別な存在に落とし込む必要がないんです。
今日は、眠たいから支援が必要だとか、今日は、朝ごはん作ってもらえなかったから支援が必要だとか、 みんなそれぞれ毎日なにかある。そこで子どもが自分で『助けてほしい』って思っていたら、それは支援が必要な子どもなんです。
そういう子どもの数が多いから見てもらえないとなったら、それはそれで友だち同士で助け合ったり、そういう空気が生まれるような教育を作るべきだと思います。わからなかったらわからない子を教える子が出てきたりすればいいわけですよ。
それを見て今度は『うちの子は他の子に教えさせられてる』っていう親もいるかもしれないけど、人に教えるって自分が成長する上でものすごく大事なステップだったりもするので、学校で友達となにをやってたって無駄な時間なんてないと思います。
そんなにカリカリしなくていいのになって思うんですけど、それがわかんない人も多いのだろうなって思います。」
観る度に違う気づきがあるはず。何回も観てほしい。
これから映画を観る人へは「何回も観てほしい」と言う真鍋監督。
「一年を通して感じたいろんなことをたくさん織り込んで、できるだけ伝わりやすいようにとつくっているので、細部まで感じ取って観てもらいたいです。たぶん、何回か観て『ああ、そういうことだったのか』ということもあると思う。
その時の 自分の置かれた状況や、人によって引っかかるところは全然違うだろうから、観た後にいろんな人と共有してもらうのもいいと思います。そういうところも含めて映画としても『みんなの学校』だと思っています。何回も違った視点で見てもらえたらうれしいです。」
本ウェブマガジン編集部もインタビューにあたって試写会で映画『みんなの学校』を拝見しました。監督のおっしゃる通り先生や子ども、親など様々視点から見るたびに、その感想も変わってくる映画だと思います。
2月21日(土)より東京・ユーロスペース、3月7日(土)より大阪・第七藝術劇場などほか全国順次公開されますので、ぜひ、ご覧ください。
本記事は、石井敦子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。