教育格差

オンライン教材・高度なITツールは格差をかえって拡げる?-格差下に置かれた子どもが必要としていること

スマートフォンを操作する子ども

今回の記事では、子どもへイベントやものの寄付などを行う際に気をつけて欲しいことの第二弾をお伝えできたらと思います。

当NPO法人は、格差下にいる子どもたちを支援していることから、企業さんやNPOさんなどからあらゆる物やイベントの支援のお申し出を頂くことがあります。前回のような記事の影響もあり、寄付やイベント実施前にご相談を受けることもおかげさまで増えてきました。

今回、ご紹介するのはその中でも多い、オンライン教材や高度の学習ツールの提供についてです。これらの支援のお申し出は、本当に多いのです。確かに教育においてもオンライン化や、主体性を重んじる総合学習的な要素は強くなっており、その流れ自体には全く問題意識を持っていません。

しかしながら、よく利く薬や、珍しい薬、新しい薬ほど、副作用も高いものです。その危険性について触れたいと思います。特に格差下に置かれた子どもたちへの提供などの中で実際に起きていること・起きうる事についてお話できたらと思います。

高度なツールほど、危険性も高い?

まずオンライン教材やタブレットを利用した学習教材などを見ていく前に、携帯の話を少ししたいと思います。

携帯やインターネットの発展によって人々はあらゆることができる事になりました。しかしその反面、リアルなコミュニケーションの減少や、視力低下などからはじまり、10代のうちからSNSを利用して危ない出会い方をしたり、搾取をされたり、金銭的なトラブルにあったりなど、これまでは起こりづらかったトラブルが起きるようになったり、手口も巧妙になったり見えづらくなったりして対策が打ちづらくもなりました。

日ごろ20歳以下の子どもたちと触れ合う中で、このような高度なツールを上手に使い、さらに色んな情報やツールを手に入れるのか、これまでよりも搾取されたり偏った情報の中で生きるようになるかの境目は、一番の要素は周囲に精神的な意味での大人との関わりが多いかということかと感じています。

子どもたちを取り巻く4種類の貧困

私たちが接している子どもたちの成育歴をたどると、家庭環境や親の特徴は以下の4つのどれかもしくは重なっているケースが多くなっています。

貧困の種類 特徴
つながりの貧困 離婚などで1人親家庭となっている
親やパートナーなどのDVから逃げているなど、親族とのつながりも希薄
地域や仕事柄、回りも逼迫しており助けを求められない 等
教育教養的貧困 生活の知識・知恵が備わっていない
働くための学歴・スキル・学力がない
倫理観・道徳観などが乏しい 等
経済的貧困 お金がない
安定した働き場がない
借金を抱えている
パートをいくつも抱えている
望まない形で水商売等を続けている 等
精神的貧困 精神的に余裕がない
感情の起伏が激しい
楽しみや将来への意欲がない 等

よくある生活の様子としては、母子家庭で子どもを育てており、女性で子育てをしながら働ける安定した職場は得られず、お昼はパートタイムで働き、夜は水商売などで働いて、1日中外で働きます。

育児も仕事も余裕のない中で感情の起伏が激しくなり、子どもにあたるか、精神的に鬱状態になってしまうケースも少なくありません。また本を読んだり、週末は出かけたりする余裕もない中で世の中の流れがよくつかめていなかったり、子どもたちに十分に教育をする余裕もお金もなかったりします。

2011年11月・独立行政法人労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」(出典:2011年11月・独立行政法人労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」)

そんな環境で育つ子どもたちは、男の子だと、テレビとゲームで親がいない時間をつぶし、年齢が上がるとインターネットの中に居場所を見出したり、人とコミュニケーションが取れなくなり引きこもりや不登校というケースもあります。女の子の場合には、携帯やSNSなどで年上の男性と出会い、寂しさを紛らわしたり、恋人や携帯に依存してしまうケースも少なくありません。

携帯の話に戻りますが、余裕のある家庭であれば、携帯は便利でもありながら、危険でもあることをしっかり子どもに伝えたり、親の教育観などに基づいて子どもの成長や発達段階に合わせて利用の時間や使い方に制限や約束事を設けたり、誤った使い方をした場合にはそれについてしっかり話し合って失敗から学んだりすることもできます。

また、中高生とどんどん子どもたちの周囲の環境やコミュニティもどんどん幅が狭くなってくる中で、高度に使いこなせる子どもたちと、危険性と隣り合わせで依存している子どもたちとでのギャップは広がっていきます。つまり高度なツールであればあるほど、子どもたちを取り巻く周辺環境によって大きな差が生まれてしまいます。

オンライン教材や高度のITツールなどの寄付で陥りやすいパターン

このような前提で、オンライン教材やタブレット・高度なITツールの話に戻ります。オンライン教材やタブレットの寄付の依頼が来ることはありますが、その時に陥りやすいのは以下のようなパターンです。

①そもそも学習意欲や学習の必要性がわかっている子どもの興味しかそそらない

こちらはオンライン教材や通信教材の場合によくある話ですが、寄付されても学習意欲が高くなければ見向きもされません。日本、とりわけ都会においては物がなくて教育格差が起きているわけではありません。

私たちが支援している子どもたちのほとんどは携帯やスマートフォンを持っています。アルバイトをしたり、食事を節約してでも必ず購入するのがインターネットの利用できる携帯です。Google検索や、Youtubeの利用、TwitterやFacebookの利用はもはや常識です。調べようと思えばいくらでも調べられる時代なのです。

ましてやmanabeeといった形で無料で受験勉強を教えてくれるサイトがあったり、youtubeで色んな人がわかりやすく勉強を教える動画をアップしたりしている中で、「やりたいのに物が足りなくて」という状況ではありません。

下のグラフのように携帯インターネットの利用率は13-19歳で75%、6-12歳の小学生の年齢ですら20%に及んでいるのです。意欲の格差こそが最も根深い問題であり、意欲がある子どもたちはオンライン教材や通信教材がなくても、youtubeやgoogleなどを駆使して学べる環境にいるのです。

総務省は2011年5月18日、平成22年(2010年)調査における通信利用動向調査(※引用元:総務省は2011年5月18日、平成22年(2010年)調査における通信利用動向調査)

②周囲の大人が管理しきれなくて、放置するか、禁止する

高度で新しいものほど、使い方も難しいし、使いこなし方もわからないので、家庭などの場合では子どもが好きに使うように放置するか(その結果、使われないか、危険な使われ方をする)、学校現場や児童福祉施設などではあっても使用禁止にされます。

子どもを取り巻く大人のスキルや教養、時間的余裕などもない中で、高度なツールであればあるほど、大人ですらも手に負えなくて結局有効には使われないということが多々あります。

虐待などで保護された子どもたちが家庭の代わりに暮らす児童養護施設などでは約6人の子どもに1人の大人しか配置されておらず、子どもがタブレットを奪いあってけんかをするのではないかとか、インターネットで危ないサイトを見て施設が責任を問われるのではないかなどで、パソコンの使用すらも禁止・制限しているところもあります。

子どもたちを取り巻く大人の状況や環境をうまく見極めていかないと、適切には利用されないばかりか、「ツールはあるのに使わないなら自己責任だ」とさらに自己責任論に苦しむことになったり、「こんなに優れたものを寄付してもらったのにも勉強できない自分は本当ダメなやつだ」と子どもが自分を責める事になる危険性すらもあるのです。

これから必要なのは「ツール」ではなく「大人の見守りと教育」

子どものボランティア

スタンフォード大学や、ハーバード大学、日本では東大などの授業がオンライン化を利用し、誰でもハイレベルな授業を受けられるようになりました。Schooではオンラインで著名な人の授業や、受験勉強を教えてもらったり、スカイプ英会話のように低価格でフィリピンなどにいる先生から英語も教えてもらえます。

私も好きな著者の講演やインタビューを通勤時や休憩中にYouTubeなどで見たりして学んでいます。ちょっと前までは講演に直接足を運んだり、本を読んだりしなくてはいけなかったものも、動画でよりわかりやすく情報を得たり、足を運ばずして情報が得られるようになりました。

学びたいと思える人たちが選べる選択肢は間違いなく増えました。これらのツールを上手に利用できる子どもたちが増えたら、可能性が広がることは間違いないと思います。

しかしツールだけを与えてうまく使えるのは、学習習慣があったり、教養が十分に備わっていたり、自分で学習計画を立てられる、とても基盤ができている子どもたちだけです。もしくは子どもの代わりに大人が近くで見守ったりサポートできる環境にいる子どもたちだけになります。

そうでない環境にいる子どもたちにもいいツールで学ぶ意欲を高めたり、適切な使い方をしてもらうためには、大人の見守りと教育ができる環境もセットで提供する必要があります。高度なツールだけでは格差を縮めるどころかひろげてしまいかねないのです。

学校などで人員削減の手段としてタブレットを提供して自分で学ばせるというのは、すでに基盤のある子たちとそうでない子たちの格差をさらに広げる策になってしまうのでもってのほかです。

企業などからこのようなものの寄付の依頼が来た場合、導入時に必ず人が行って説明をしたり必要性を伝えたりすることと、月1回なり、2-3か月に1回なり、継続的に成果を褒めたり、使用している中でトラブルや失敗があっても、それを失敗体験としてとらえたり、危ない使い方や偏った使い方にならないようにその失敗やトラブルから何を学ぶかを指導するなど、継続的なサポートもセットでお願いしています。

少し前は物は足りないけれど、多様な人とのつながりのある、サザエさんに出てくるような環境が前提でした。今は優れたものはたくさんあるけれども、人とのつながりは希薄な時代です。

時代によって不足しがちなもの、格差の要因になるものは変わっていきます。今の時代背景を踏まえて支援をすることでより多くの子どもたちが幸せになることを願っています。

Author:森山誉恵
認定NPO法人3keys代表理事。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事。東京都の「共助社会づくりを進めるための検討会」委員。慶應義塾大学法学部卒。大学時代、塾講師や家庭教師の経験等から教育格差の現状を知り、児童養護施設で学習ボランティアを開始。在学中、大学生を 中心とした学生団体3keysを設立。2011年5月に内閣府の雇用創出のための支援金を基に内閣府の認証の元、NPO法人化し、代表理事に就任。同年社会貢献者表彰。現在は現場の支援に加え現場から見える格差や貧困の現状の発信にも力を入れている。
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