教育格差

「子どもの貧困」を一括りで考えるのは大きな間違い!-日本の目に見えない「子どもの貧困」の全体像とは?

悩んでいる子ども

「子どもの貧困」について様々なメディアで取り上げられ、「子どもの貧困率が16.3%」「日本の子どもの6人の1人が貧困」という話題が多く報じられています。

しかしながら、「実感が湧かない」という方も多いのではないでしょうか?確かに、町で見かける日本の子どもたちの中に、ぼろぼろの服を着た子、がりがりにやせ細って今にも飢え死にしそうな子、物乞いをしているような子を見た経験はありません。

先日、友人が子どもの貧困解決のため無料学習支援のボランティア活動に初めて参加したのですが、そのときに話していた感想が印象的でした。

「自分が勉強を教えた子どもが、かわいい筆記用具とかを普通に持っていて、最初抱いていたイメージと違った。あの子は本当に対象となる(貧困世帯の)子なのかな?」

これを聞いて、「日本の子どもの貧困問題のわかりにくさを象徴している」と感じました。

私は5年間子どもの貧困解決に向けて、活動に取り組んできましたが、見た目だけですぐに「この子は貧困世帯の子だ」とわかる子どもに出会ったことは、ほとんどありません。生命の維持すらままならないような状態を「絶対的貧困」と言います。一方、日本のような先進国の貧困は、「相対的貧困」という概念で示されます。「相対的貧困」という状態は極めてわかりにくいということを実感しています。

メディアで報道される子どもの事例の多くは、限りなく「絶対的貧困」に近いものが多いように思います。なぜなら、困っていることがわかりやすいからでしょう。しかしながら、それよって課題の重要な部分が隠れてしまっているように思います。

相対的貧困とは

「子どもの貧困」を一括りにしてはいけない

メディアでは、子どもの貧困について次のような事例が紹介されています。

十分な食事をとれずいつもお腹をすかしている、家は電気などのライフラインが止まってしまった、親がネグレクト状態で家庭での養育を受けることができていない、学校にはほとんど通えていない 等

こういった極限の状況での生活を余儀なくされている子どもたち、深刻な課題を抱えた子どもたちが、同じ日本国内にいるのは紛れもない事実です。私たちの事務所にも、保護者の方から助けを求める電話が来たこともあります。今すぐにでも支援が必要な子どもたちです。

日本国内の相対的貧困状態にある子どもの総数は約320万人です。

しかしながら、上記のような極限状況にある子ども(絶対的貧困に近いともいえる状況の子ども)の事例と「子どもの貧困率16.3%」という数字を同時に並べた場合、このような生命の維持すらままならない状態の子どもが320万人も日本にいるという感覚に陥りますが、決してそういうわけではありません。

私は相対的貧困線以下の所得レベルの子どもたちを全て一括りにして考えない方がよいと思っています。

「子どもの貧困」の全体像は?

例えば、政府の子どもの貧困対策に関する検討会(2014年5月1日)に提出された専門家の資料の中には、子どもの貧困対策の全体像や対象者を考えるうえでの参考になる情報が示されています。こちらのデータ等を引用し、必要な部分のみを抜粋した図を次の通り作成しました。

日本の「子どもの貧困」の推計

これによると相対的貧困状況にある子どもが約326万人(検討会当時の相対的貧困率15.7%で計算)いるとすると、そのうち生活保護受給世帯で育つ子どもは約29万人(相対的貧困の子どもの10人に1人)、児童養護施設に在籍する子どもが約2.9万人(相対的貧困の子どもの100人に1人)とあります。

特にこの中でも、生活保護受給世帯やそれに近い生活をしている世帯(現状、生活保護は十分に捕捉できていないことを考えると、同レベルの生活をしている子どもたちは29万人では済まないと思います)では、例えば親の疾病や障害など、家庭内でなんらかの深刻な生活面での課題を抱えているケースが多いため、子どもたちも生活上様々な困難を抱えやすい状況にあります。いわば、前述のような深刻なケースの多くは、この領域の子どもたちではないかと思います。

しかしながら、このように現時点で生活困窮度が極めて高い子どもは約320万人の相対的貧困線以下の子どもの中の一部であって、決してボリュームゾーンとは言えないのではないかと考えています。

※なお、あくまでも上記のような子どもの分類は目安だと考えてください。また、前提として、子どもたちは一人ひとり違いますので個別に考えていくことが必要です。分類の目的は、決して子どもを枠に当てはめることではなく、最小限の資源で必要な子どもに必要な支援を届けるためです。

低所得家庭が抱えるリスク

相対的貧困世帯の子どものうち、前述のような極限状況の生活をしている子どもを「生活困窮世帯」だとすると、ここではその他の子どもたちを「低所得世帯」と区別したいと思います。

この低所得世帯の子どもがおそらくボリュームゾーンではないかと思うのですが、どのような生活をしている子どもたちなのでしょうか?例えば次のような子どもです。

現在、母子家庭で子どもが中学生2年生と小学5年生の2人兄弟。兄が小学校低学年のときに両親が離婚。
母親はパートを2つ掛け持ちして週6日働く。弁当配達のパートは、朝4時に家を出なければならないこともあり、母親の生活は不規則。最近体調を崩すこともある。
月収は手取りで17万円。兄弟ともに塾に通わせる余裕はなく、来年受験を控えた兄はもともと勉強が好きであったが、中学に入って成績が落ちた。
母親は子どもへの教育の関心はあるが、なかなか家で子どもと接する時間が持てない。兄弟2人とも学校には毎日通っている。
家族の仲は良く、兄は弟の面倒をよく見てくれている。将来的には本人が希望する進路を叶えてあげたいが、教育費の面で実現できるか不安。

こちらは、いくつかの家庭・子どもの事例を組み合わせた架空のものですが、イメージとして参考にしてください。

現時点では、将来の不安があるものの、日々の生活を送ることができており、課題が表面化しているわけではありません。よって、周りからみたときに、この家庭が抱える課題がわかりにくい状況にあります。しかしながら、潜在的に、生活が一変するリスクと隣り合わせだと私は思います。

親子

例えば、親が無理な働き方や子どもを一人で育てるという過度なプレッシャーによって、身体の病気や精神疾患にかかったり、あるいは東日本大震災や熊本地震のような災害に見舞われて、家財や仕事を失ったりしたときに、脆くも家庭は崩壊していきます。私たちは、そのような家庭や子どもたちと出会ってきました。

そのような状況になると、もはや「低所得世帯」ではなく「生活困窮世帯」となり、家庭全体として、様々な生活上の困難を抱えます。そして、家庭の不安定さが、子どもたちにも影響を及ぼし、不登校や様々な課題にも繋がっていきます。それこそ、本文の最初に触れたような、深刻な課題を抱えた子どもたちのような状況です。

予防的な支援にも目を向ける

既に「現象」として生活面の課題を抱えた家庭やその子どもたち(生活困窮世帯の子どもたち)は、ある意味ではその深刻さが周囲の人々にとってもわかりやすいと言えます(繰り返しますが、このような状況にある子どもたちの支援は最も優先されるべきです。)。

しかしながら、「生活困窮世帯」の予備軍となっている多くの「低所得世帯」の子どもたちがいるということは、決して忘れてはならない重要な部分ですが意外と見過ごされがちです。また、中には、「貧困といってもそんなに困っていない人達」という認識を持っている方々もいらっしゃるのではないかと思います。

私は、「日本の子どもの貧困率16.3%」ということの本当の深刻さは、実はこの生活困窮世帯の予備軍となっている子どもたちが日本国内に非常に多く存在することであるとも言えると思います。

「低所得世帯」の子どもを放置すると、支援は後手に回ってしまいます。よって、「予防」という観点をもって、「低所得世帯」の子どもたちが早い段階で支援機関や周りの大人とつながること、家庭の収入に関係なく子どもたちの教育機会を保障すること等を通じて、深刻な課題の発生を未然に防ぐことが必要です。

Editor:今井悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。著書「体験格差」、共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「スタディクーポン」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。

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