平成29年12月26日に文部科学省は、「学校における働き方改革に関する緊急対策」を発表しました。学校教員の長時間残業・労働を改善するために、業務の役割分担や適正化、学校が作成する計画等・組織運営に関する見直しなどについて取りまとめられています。
その中では、長時間労働の大きな要因となっていた部活動についても、部活動指導員や外部人材を積極的に参画させるよう促すなど、従来のあり方からの変更を求めています。将来的には、下記のように学校以外が担っていくことを検討しています。
将来的には、地方公共団体や教育委員会において,学校や地域住民と意識共有を図りつつ、地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取組を進め、環境が整った上で、部活動を学校単位の取組から地域単位の取組にし、学校以外が担うことも検討する。(引用:学校における働き方改革に関する緊急対策)
部活動を学校から切り離していくことは、学校教員の長時間残業・労働を改善するためには必要な対応だと考えます。外部講師を入れたとしても、実質的に学校が主導している限りは、状況はあまり変わりません。一方で、子どもたちの教育機会として、部活動が重要な役割を果たしてきたことも事実です。
では、これまでの学校・部活動に代わり、地域がそれに代わる得る質の高い活動の機会を確保できるか考えてみたいと思います。
教育の担い手としての「地域」
学校や家庭だけではなく、地域社会が教育の重要な担い手であり、文部科学省もこれまでに様々な取り組みを行ってきています。
平成4年から段階的にスタートした学校週5日制は、今の子どもたちにとっては当たり前のものとなりました。当時の中央教育審議会の答申の中でも、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子どもたちに生活体験、社会体験や自然体験など様々な活動を経験させ、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育むことが目的だと記載されています。
平成7年からは「総合型地域スポーツクラブ」、平成16年から現在の「放課後子ども教室」の前身となる「地域子ども教室」、平成20年からは「学校支援地域本部」がはじまりました。
それぞれの取り組みで違いはあるのですが共通して言えることは、放課後や週末・長期休みに、積極的に地域で子どもたちの教育機会を設けていくというものです。
一方で、2000年代には、地域の教育力の低下が強く指摘されるようになっており、平成17年度に文部科学省が行っている「地域の教育力に関する実態調査」では、地域の人間関係の希薄化や子どもの生活の様子が地域から見えにくくなっている状況が報告されています。
よく「地域」という言葉は登場しますが、一体、誰なのでしょうか?責任の所在はどこにあるのでしょうか?
「地域」に部活動の代替は困難である
長年、地域の様々な活動に携わっていると、町内会・自治会や民生委員、子ども会など一人の方がいくつもの役職を兼ねていることに気がつきます。長年担当して頂いた役職を引き継ぐこと時は、誰にお願いするか難しい検討事項です。
地域の実態は、以前よりも少なくなった自営業者と専業主婦、仕事を引退したごく一部の高齢者のボランティアで成り立っていることがよくわかります。地域の行事や市区町村の各部署からの協力依頼も多々あります。何かと「地域」という責任の曖昧なブラックボックスに役割や仕事を投げ込んできますが、とても今以上に何かできる状態ではないところが多いのです。
先に述べた様々な取り組みの結果を端的に申し上げれば、一部のモデル地域のみで広がりは小さく、地域住民などのボランティアベースの運営で、自立的に継続・発展していくことはどれも困難でした。「放課後子ども教室」では、営利企業へ外部委託するケースも珍しくなくなりました。
週末ならまだしも平日の放課後の時間帯に、ボランティアで人手を確保することは極めて難しいのです。NPOなどでの運営経験者であれば誰でもわかりますが、ボランティアをマネジメントしながら、活動を運営していくことは、そう簡単なことでありません。
現状のままでは、地域で学校が行ってきた部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる可能性は、極めて低いのです。
これまで学校教員がボランティアで支えてきた部活動という教育インフラを、質・量ともに確保していくためには、事業の看板をかけかえながら「地域」というブラックボックスに投げ込んで終わってはいけないのです。成り立たずになくなっていってしまう地域も出てくる可能性があります。
地域単位での新しい部活動の仕組み
部活動が「部活動を学校単位の取組から地域単位の取組に」というのは賛成です。
複数の学校が集まっての合同部活動というイメージですが、少子化や統廃合の流れを考えても必然的な流れです。放課後の時間に、学校のクラスという社会から脱し、様々な学校の生徒が交流し合い、別のコミュニティを作れることは、子どもにとっても非常に有意義です。不登校やいじめという問題の観点からも良い効果が望めると思います。
地域単位となった際、どのような運営体制で実施するのかが一番大きな問題となります。結局、学校が関わっているような方法では、意味がありません。
学校外教育のクーポン(利用券)の提供を中心とした、全国各地にすでに存在している民間教育事業者(スポーツ教室や音楽教室等)と公的な社会教育施設(公民館や体育施設等)・児童厚生施設(児童館や児童センター等)の2つを併用した形の部活動の実施が考えられます。
どちらも各市区町村の人口に概ね比例する形で、地域単位での受け皿があります。生徒が希望すれば参加できる形式であるためには、多くの人数が受け入れられる受け皿が必要となり、全て新たな形で一つの場を用意することは、現実的ではありません。
社会教育施設においては、施設が主催するプログラムに参加する形式も考えられますが、施設を利用している団体・サークルの活動に参加するという形でも可能です。社会教育主事などがサポートする形で、子ども自身や卒業生が関わる形で、自分たちで団体・サークルを運営することもできます。
児童館は、幼児や小学生の施設だと思われがちですが、近年、中高生向けの児童館も設置運営されています。こちらでも専門的な知識を持った児童指導員が活動をサポートできます。「部活動をやりたい」という学校の先生は、仕事とは別に講師やボランティアという形で、参加することは十分に可能です。
放課後格差を生み出さないための補助
家庭の所得格差=教育格差(放課後格差)とならないように、参加費用に関しては、生徒に使途を限定した学校外教育のクーポン(利用券)を提供し、フォローしていくことが必要です。これによって経済的な負担が少なく、様々な選択肢を選ぶことができるようになります。
利用者となる生徒自身に対する補助を行うことで、継続的に参加したいと思われる質の高い活動にしていこうと、提供する側に良い競争原理も働きます。類似した事例として、実際に東京都千代田区では、区内の大学やカルチャーセンター(民間含む)などで講座や講習会を受講した場合に、受講料を補助する「講座・講習会バウチャー制度」が行われています。
これまで学校が担ってきた部活動が重要な教育機会となっていたことは間違いありません。学校から切り話していく過程の中で、その教育機会が失われてしまうことがないように、官民問わず学校外の教育機関・施設が力を合わせて取り組んでいくことができる仕組み作りが、今、求められています。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。