教育格差

「学校外教育バウチャー」で教育格差は解決できるのか?-すべての子ども達の教育機会を保障する新しい仕組み②

昨今、大阪市や被災地で注目を集めている「学校外教育バウチャー」の仕掛け人でもある一般社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事である今井悠介氏をお招きし、「『学校外教育バウチャー』で教育格差は解決できるのか?~すべての子ども達の教育機会を保障する新しい仕組み~」と題した公開セミナーを実施いたしました。

今回のレポートでは、2012年11月3日に江東区亀戸文化センターで開かれた本セミナーの詳細について連載でご報告をいたします。今回は、第二回目の連載になります。

親の経済状況が子どもの学力に繋がる

でもこの状態というのは、実際すごく稀なケースで次の様なデータがあります。(文部科学省:専門家会議 2008年度報告) 「子どもたちの学力」と「家庭の所得」この二つは相関関係にあります。 ご家庭の所得が高いほど子どもの学力も高いし、家庭の所得が低いほど彼らの学力が低いことが明らかになっています。

またこの「所得」は彼らの「進学率」にも影響を及ぼしています。(東京大学大学院教育研究科大学経営・政策センター「高校生の進路追跡調査 第1次報告書」(2007年9月)) 年収の多寡で進学率に約2倍の差が出ています。 私はここで大学に行くのが1番良いとそのようなことを言っている訳ではありません。この価値観は人によりそれぞれ異なるものだと考えています。

ただ、この最終学歴は彼らの生涯賃金に大きな影響を及ぼしていると考えられます。(独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計・労働統計加工指標数2012」) 中卒と大卒では生涯賃金において1億円以上の格差が生まれるということも今明らかになっています。

先ほどまでお話した内容を一度図にまとめると次のようになります。 親の経済的貧困が彼らの低学力であったり、低学歴ということにつながる。 それが不安定な就業に繋がり、また若者が経済的貧困に陥る。 彼らが親になった時に同じような状況が彼らの子どもたちに繰り返されるという現状がある。 これが貧困の世代間連鎖ということで今問題になっています。

しかし、みなさんこれを見た時に納得できますか?「なんで?」と疑問に感じませんか? 特に経済的貧困が子どもの学力に繋がるということに疑問を感じる方は多いと思います。

結論から言うと今回、私がお話したいことでもある「子どもたちの教育格差」これは確実に生じています。 他にも親の意識や家庭環境や生活習慣も低学歴を生む原因となっていると考えられるが、これについて述べていきたいと思います。

お金がかかる日本の教育システム

日本の教育のシステムの大きな特徴についてお話したいと思います。

日本では学校外教育の代表的なものとしては学習塾がありますが、それ以外にもピアノ教室やスポーツ活動や文化活動など様々な学校外教育が占めるウェイトが非常に大きいということが今の日本の教育システムの大きな特徴となっています。平均的に見ると年間20~30万を学校外教育に投資しています。更には教育にかける費用の60%以上がこの学校外教育が占めています。(文部科学省:平成22年度子どもの学習費調査結果について)

日本の子どもたちの通塾率を見てみましょう。塾に通ったり、予備校に通っている子どもたちは中学三年生で59.4パーセント、それに加えて通信教育や家庭教師東を含めると本当にたくさんの子どもたちが学校外で教育する機会を得ています。

現在、日本に学校はどれ程あると思いますか?学校はおよそ3万9千校あると言われています。これに対して学習塾はどれ程あると思いますか?学習塾はおよそ4万9千校です。学校と比較して1万校ほど多いという状況です。(Benesse 教育研究開発センター:第1回子ども生活実態基本調査報告書、Benesse 教育研究開発センター:第2回子ども生活実態基本調査報告書)

この話を聞くと「これって都市部だけで、田舎には塾は無いのではないか?」という疑問が生じるでしょう。確かに小学生の通塾率は都市部と郡部では差が生じています。しかし、このグラフを見てみると中学生、高校生では都市部・郡部に対してそれ程差は生じていません。ということは日本全国で子どもたちは通塾している子たちが多いのではないかと言えます。

学校外教育は特徴的な点が一つあります。学校と比較して述べるならば、学校教育は義務教育で保証されている一方で、学校外教育は家庭の経済状況に大きく左右されます。お金があれば学校外教育は受けられるけれども、お金が無い子は受けられないというこの状況が学校外教育の大きな特徴の一つとして考えられます。(Benesse 教育研究開発センター:学校外教育活動に関する調査)

世帯年収別でこの学校外教育に割り当てられる金額を見て見ると、800万円以上の世帯年収がある家庭だとおよそ月に2万6千円ほど支出しているのに対して、400万円未満の家庭では8700円程の支出であり、だいたい3倍ほどの差がついている。教育費用の3倍の差というのは子どもたちの教育機会の差です。これだけの差が世帯間で生じている状況というのが現在の日本で起こっています。

学校外教育は子どもの将来へ影響を及ぼす

塾の話をしていると実際にこんな声をいただくことがあります。

「塾に行ってても頭が良くない子はいますよね?逆に塾に行ってなくても賢い子を知ってますよ」と。いる、いないの話をすると、結局は、両方いるという結論になります。ここで大事なのは「どっちが多いか」ということです。どっちの方が学力、その他の能力が高い子が多いかということです。

通塾率と学力には相関関係があります。例外の状況があるということは勿論ですが、まず偏差値という基準で見たときに実際に塾に通うなど、学校外教育を受けている子どもたちの方が高いというデータがあります。

私が伝えている話というのは学習塾に限った話です。しかし、私が申し上げたい学校外教育というのは学習塾だけではありません。習い事教室、スポーツ教室、様々な体験活動を含めた話を今日はしたいなと思っています。

青少年1万人、成人5千人にアンケートを取った大規模な調査結果なんですが、いわゆる子どものときに様々な体験活動をしていた方というのは能力であったり、意欲であったり様々な意識に影響を及ぼしています。

例えば、自然体験活動を子どもの時に多く経験したと答えた子どもたちの方が成人になった時に人間関係能力が高い。あるいは、地域の活動にたくさん参加した子どもたちの方が将来的に意欲が高いというような結果が明らかになっています。

小さい時に様々なものに触れて感じるということは、非常に将来に影響を及ぼすということが分かると思います。人間関係能力を含めた能力や意欲は、学習能力や学習意欲に影響する可能性が高いと思われます。彼らの子どもの頃の体験の機会は将来の学歴や所得にも影響を及ぼすということが分かります。(独立行政法人青少年教育振興機構:子どもの体験活動の実態に関する調査研究報告書

子どもの貧困を断つための方法とは?

経済的な貧困状態というのが、彼らの学校外教育の機会の喪失につながり、こういったものが低学力、低学歴に繋がっていき、彼らが大人になったときも貧困状態が続いていく。このような貧困の世代間連鎖が生じています。

前提として先ほども述べましたが、あくまでも学校外教育の喪失による貧困の経路というものは一つの経路に過ぎません。ただし、現実問題としてこういった格差により子どもたちの貧困状態が作られているのは事実と考えられます。こうして学校外教育の機会を支援することはとても重要だと考えられます。

しかし、この学校外教育機会の支援というのは私が発見したものではなく、こういった問題というのは色んな形で取り組んでこれています。

大きくは子どもに、保護者に教育の費用を支援してあげようというような取り組み。現金を給付して学校外教育費用を含めた学習の費用を援助します。学校外教育だけではないが、有名なものとしては「子ども手当」が挙げられます。あるいは、低所得の方々向けの無料の学習支援教室であったり、さまざまな体験活動を提供しようという活動です。

大きくはこの二つが学校外教育を支援するものとして行われてきたと思いますが、今日みなさんにお伝えする「学校外教育バウチャー」は、これは従来行われていた現金給付や無償の学習支援等とは全く異なる第三の新たな支援手法だと考えられます。

Editor:今井悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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チャンス・フォー・チルドレン

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「学校外教育バウチャー」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。

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