教育格差

「学校外教育バウチャー」で教育格差は解決できるのか?-すべての子ども達の教育機会を保障する新しい仕組み①

一般社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事である今井悠介氏

昨今、大阪市や被災地で注目を集めている「学校外教育バウチャー」の仕掛け人でもある一般社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事である今井悠介氏をお招きし、「『学校外教育バウチャー』で教育格差は解決できるのか?~すべての子ども達の教育機会を保障する新しい仕組み~」と題した公開セミナーを実施いたしました。

今回のレポートでは、2012年11月3日に江東区亀戸文化センターで開かれた本セミナーの詳細について連載でご報告をいたします。

なぜ、この事業に取り組みはじめたのか?

まず、本題の事業のお話をする前に私から簡単に自己紹介の方をさせてもらえばと思います。今、被災地と関西の方で子どもたちの貧困問題を解決するために事業に取り組んでいます。

直接的にこの事業に取り組むきっかけとなったのは、私が小学二年生の時に起こった阪神淡路大震災、社会人2年目の終りに起こった東日本大震災です。この二つの経験が非常に私にとっての大きな経験で、この事業に取り組む大きなきっかけとなっています。

そして、なぜ、私が被災地や関西で「子どもたち」の事業に取り組んでいるのかについてお話ししたいと思います。このような問題に取り組むようになった大きなきっかけというのは、大学4年生の時に行ったとあるキャンプでの出来事です。 このキャンプの対象が「不登校・ニート・ひきこもり」であり、これが非常に長期のキャンプでした。

長期と言っても普通は、一週間で長いなと感じると思われますが、このキャンプは30日間のキャンプでした。その30日間不登校やニート、ひきこもりの方々と関わる経験の中で印象的、衝撃的だったのがある青年との出会いでした。

当時、私は21歳でこの青年は1つ下の20歳の青年でした。彼と会って本当に驚いたことは彼が顔の表情が全くなかったことです。キャンプを続けていくと楽しい瞬間はいろいろ訪れるものですが、彼は全く笑いませんでした。

ここで「なぜ彼は笑わないのだろう?」と疑問に思ったので職員さんに聞いたところ、彼には笑う顔の表情を作る筋肉が全く無いことが分かりました。私は彼とほとんど同じだけの時間(年数)を過ごしてきましたが、このような状態の若者が居ることにとても衝撃を受けました。 その時にキャンプ場で出会ったある職員の方に次のようなことを言われました。

「もしかしたらキャンプを通して彼と出会って良かったかもしれない。今後、彼のような人間とはまず会うことが無いと思う。なぜなら彼らは社会から排除されている存在だから。」 このようなことを言われ、今まで生活してきたがほとんど年齢が近いこのような若者に出会うこが無かったので本当に衝撃を受けました。

このキャンプ自体は30日間で終わりましたがこの話には続きがあります。

このキャンプが行われたのは2008年の9月頃だったのでキャンプが終わった時には大学に戻りました。そしてそれから、2009年の1月30日にある新聞記事を見つけました。「中学生不登校 生活苦も原因 保護世帯の1割」(毎日新聞2009年1月30日記事参照)この記事を見つける以前の私の考えはこのような状態(不登校等)になるのは彼ら自身に何かしらの問題があると考えていました。

しかし、彼らの家庭背景は分からないので私自身が何も言うことはできませんが、少なからず彼らのように配慮の対象になっている方々は家庭の経済的な問題があること。そしてこれは日本で起こっている問題なんだということに衝撃を受けました。

直接の原因はやはり震災ですが、こういった出来事も私がこの事業に取り組もうと思ったきっかけです。ちなみに以前、働いていた会社は日本公文教育研究会というところで、公文は海外の方でも子どもたちの支援をしています。

イメージとして子どもの貧困は海外の問題であり、これを解決することはとても良いことだと考えていましたが、こういった出来事を知り、まず自分の身の回りの日本で問題を解決しなければいけないと感じました。

今、日本の子どもは貧困なのか?

「『学校外教育バウチャー』で教育格差は解決できるのか?~すべての子ども達の教育機会を保障する新しい仕組み~」と題した公開セミナーを実施

まず、子どもの貧困問題について述べていきたいと思います。 今、日本で貧困状態にあると言われている子どもはどれくらいだと思いますか?ちなみに不登校の子供の割合は3パーセント未満くらいです。なので1クラスに1人の割合です。

正解は7人に1人。日本の子どもたちの貧困率は15.7パーセントというデータが厚生労働省から出ています。しかもこの数値は年々上昇傾向にあります。 (厚生労働省:平成22年国民生活基礎調査の概況参照)

資料のグラフ(New league tables of child poverty in the world’s rich countries)を参照してほしいのですが、日本の子どもの貧困率は先進35カ国中ワースト9位という状況です。この事から貧困という問題はもはや海外だけの問題ではないということが分かります。 しかしここで、「そんなに居るか?」という疑問をみなさんは感じませんか?

これには一つ「貧困」という言葉の定義に問題があります。貧困というのは二つの種類に分けられます。

「絶対的貧困」・・・生きるために最低限必要な「衣食住」が、満たされていないという状況。いわゆる先ほどそんなに居るかと思ったのがこの絶対的貧困のことをいいます。イメージとしては食べ物が無くて飢えている子どもであったり、住むところがないストリートチルドレンの子どもたちでこれは非常に大きな問題であると言えます。

これに対してもう一つ定義があります。 「相対的貧困」・・・その社会における標準的な生活レベルからかけ離れている状態。 つまり、貧困の基準であったり、ラインが社会によって異なるという特徴があります。

先ほど述べていた「7人に1人が貧困の状態にある」や「先進35カ国ワースト9位」というのはこの「相対的貧困」のことを言います。イメージとして掴んで欲しいのでお知らせするとだいたい一人世帯で、年間所得が125万円。二人世帯では176万円。これくらいの所得の方々を言います。

私がこの仕事を始めて、初めて相対的貧困といわれている家族に会いました。初めて会う時はどのような子が来るのだろうと、とても緊張していましたが、実際に会ってみてとても驚きました。なぜなら彼ら、彼女らは見た目では全然貧困だと分からないからです。

でも、この状況自体が貧困問題の大きな一つの問題点ではないかと私は考えています。彼らは衣食住の最低限のレベルは押さえていて、普通に生活を維持することができますが、彼らには大きな問題が隠されていて、これに対して誰も気がついていません。これが相対的貧困の非常に大きな問題点ではないかと私は考えています。

また、私は面談を通してある高2のお子さんに出会いました。 その子は大学受験を来年に控えている状況で、彼は母子家庭であり、生活保護を母親は受給しているため、ご家庭にはなかなか経済的な余裕がありませんでした。

しかし、彼は貧困という状況を覆してしまうくらい明るく元気な子でした。 彼が面談をしながら学習の状況をお話してくれますが、周囲の子たちがだんだんと予備校に通い始めて若干力の差を感じてきていると話してくれました。その中で彼は次の様な言葉を発しました。

「友達におまえは頭がいいから塾に行かなくて大丈夫だよ。俺は馬鹿だから行ってるんだよ。」と。 しかし彼としてはこのような言葉を言われるのが一番つらいと言います。

「僕はもともと頭が良いから塾に行かずに勉強しているのではなく、塾にいけないから頑張って勉強してきている。なのに生まれた環境で自分は周りのみんなと同じだけの機会が与えられていない。」このように彼は涙ぐみながら話してくれました。

この話を聞いて私自身がすごく深刻な問題だと感じています。 生まれた環境によって努力しなければいけないことに差が出ている状態。これはおかしくないですか?というのが私からのみなさんに対する問いかけです。

彼は確かに生命を維持するための物は確かに保証されています。しかし、みんなと同じだけの水準で生活しようとしたらかなりの努力が必要となります。 これはおかしくないですか?というのが今日の私からの問いかけです。 実際に彼自身は、すごく努力していたので学力自体は平均より少し上を維持していました。

Editor:今井悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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チャンス・フォー・チルドレン

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「学校外教育バウチャー」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。

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