教育格差

塾に行かなくても勉強できるんじゃないんですか?-「スタディクーポン」について代表者に聞いてみた!

2017年10月より経済的な理由で塾に通えない高校受験生・中学3年生に対して、寄付金を原資にしたクーポンを提供する「スタディクーポン」という新たな試みがスタートしました。

塾・予備校や習い事などの学校外での学習機会が家庭の負担となり、結果として、学校外の教育格差となっている状況を解決していくための取り組みとなります。第一弾として渋谷区との協働を発表しています。

スタディクーポン・イニシアティブ代表の今井悠介氏(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事)

この取り組みについて、賛同の声が聞かれる一方で、「塾に行かなくても勉強できる」「塾に行かないといけないような学校教育がおかしい」という疑問の声も聞かれました。「スタディクーポン」に関する疑問について、スタディクーポン・イニシアティブ代表の今井悠介氏(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事)にお伺いしました。

「スタディクーポン」は、経済的な理由で塾へ通うことが出来ない子が通えるようにするという取り組みですが、そもそも学校教育があるわけで、学校がもっとしっかり指導すれば良いのではないでしょうか?

今井:まず、前提として、日本の学校教育や教員のレベルは、世界的にみても非常に高く、多くの学校の先生や教育委員会の関係者の方々は、子どもたちのために尽力されています。私たちは、「学校教育がダメだから塾に行こう!」というスタンスではありません。今後も、学校教育は、日本の教育の中心であることは変わらないと思います。

そのうえで、さらなる教育の質の向上を目指して各地で取り組みが行われていますが、学校教育や受験・入試の改革が進んでいくためには、これまでの経過を見てもとても時間がかかります。その間の現在進行系の子どもたちは、どうすれば良いのでしょうか?「しょうがないね」と放置しておけば良いというわけにはいかないのです。

現実問題として、子どもの教育格差は、データから見ても確実に生まれており、貧困の世代間連鎖の要因の一つとなっています。連鎖を断ち切るためには、教育格差をなくしていく必要があります。では、どこでその格差が生まれているのかというと、「学校内」ではなく、「学校外」で生じています。

日本の子どもの教育費の構造からみると、公立学校に通う中学生を持つ家庭が支出する教育費の約7割近くが学校外教育に対して支出されており、全国的には公的補助も少ないため家庭の所得による影響を受けやすいのです。

特に、中学3年生の学校外教育の支出をみると、年収が低い世帯ほど学校外教育費の支出が少なく、3倍以上の格差が開いています。現実問題として、中学生の教育格差は、主に塾代で生まれていると言っても過言ではありません。

2017年10月26日に行われた「スタディクーポン」ローンチ記念イベントには、行政・企業・NPOなど様々な立場の方が来場していた(2017年10月26日に行われた「スタディクーポン」ローンチ記念イベントには、行政・企業・NPOなど様々な立場の方が来場していた)

インターネット上で、「スタディクーポン」に対する反応を見ていると、最もよくあげられていたのは、「別に塾に行かなくても勉強できるでしょ!」という意見でした。これに対して、どのように思われますか?

今井:出来る子もいるでしょうし、出来ない子もいるでしょう。出来るか出来ないかという話ではなく、まずもって機会ができる限り平等にあり、そのうえで子どもが自分に合ったものを選択すれば良いと考えています。

塾という選択肢を選択したり、自分で勉強するという選択もできることが重要だと考えています。首都圏での通塾率は高く、東京都の中学生では、約7割程度が塾に通っています。経済的な理由で前者の選択が出来ない子に対して、「お金がないなら一人で頑張れ」というのはあまりに横暴だと思います。

「スタディクーポン」では、ICTを活用したオンラインで自習できるサービスでも利用できるようにしていきたいと考えています。実際に、チャンス・フォー・チルドレンが他の地域で行っている事業では、オンラインのサービスを提供する事業者でも利用できるようになっています。

「塾に行っても成績なんてあがらない」という声もありますが。

今井:チャンス・フォー・チルドレンが東北で実施した事業では、クーポン利用者の成績が向上するなどの結果が出ており、今回の事業でも一定の効果が期待できると考えています。

利用先はあくまでも子どもや保護者が選択しますが、その選択をサポートするのが、大学生ボランティアの役割です。

ボランティアは、キャリア教育や福祉などの専門家からの研修を受ける他、クーポンの仕組みや利用先に関する知識を研修で学び、毎月こどもと面談を行います。ボランティアは、定期的に専門家からの助言を受ける機会も作っているため、専門家の監修のもと、適切な利用先選択をサポートする予定です。

低所得世帯の子どもを塾に通わせるだけで、この問題は解決できるのでしょうか?もっと必要なサポートがあるのではないでしょうか?

今井:端的に申し上げれば、子どもによって違います。また、クーポンは、子どものニーズに合わせて受けられる支援を「選択ができる」という点が最大の強みです。

よく「貧困の子ども」と一括りにして論じる方がいますが、その中でもグラデーションのあり、それぞれが置かれている状況も異なります。(「子どもの貧困」を一括りで考えるのは大きな間違い!-日本の目に見えない「子どもの貧困」の全体像とは?)

進学塾だけでなく、不登校支援や子どもの相談支援、ソーシャルワークなど、福祉的な機能を持ったNPOもクーポン利用先として参画しているため、子どもに合わせた支援をすることができます。選択肢が増えることで、自分に合った形を選択することができ、課題解決のスピードも上がります。

また、特に困難な状況に置かれた子どもほど、クーポンに自分から手を挙げることが難しいことが予測されます。今回は渋谷区の学校や福祉課と連携することで、必要な子どもにリーチしていきたいと考えています。さらに、学生ボランティアが定期的な面談を行いながら、子どものニーズに応じた利用先の選択を支える制度を作っています。

今井さん、ご回答を有難うございました。

(動画:「スタディクーポン」ローンチ記念イベントの様子)

「スタディクーポン」の寄付の受付は、11月30日までとなっております。日本の教育格差の問題に一石を投じるプロジェクトへご支援をお願いします。

スタディクーポン・イニシアティブ事務局(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン内)
TEL:03-3681-2258
Email:studycoupon@cfc.or.jp

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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