新たに教員として採用された新採教員が1年間の条件附採用期間後に、精神疾患を理由として依願退職した者は、病気を理由とした依願退職者のうち8~9割となっており、増加傾向にあります。今、どのような問題が学校現場で起こっているのでしょうか?
今回の連載記事では、実際に新卒で首都圏の公立小学校に勤務経験があり、心身ともに不調となった過酷な勤務を経験しているAさんからお話をお伺いしています。
これまでの記事に引き続き、学校現場の「リアル」な実情をお伝えします。
普段は協力的な保護者も、自分の子どもに何かあると豹変
編集部:これまでのお話の他に、実際に教員として働き始めてから大変さを実感したことは、何かありますか?
Aさん:保護者への対応ですね。実習では経験できなかったので、不安が大きかったです。4~5月の早い段階で、授業参観、懇談会、家庭訪問(保護者面談)など、保護者と関わる大きな山場がやってきます。
編集部:保護者対応ですか。確かに、実習でその部分は経験できないですもんね。いわゆる“モンスターペアレンツ”って実際に存在するのですか?
Aさん:保護者の方も、先生が初任者であることはわかるので、多くの場合は協力的です。本当にどう考えても一方的に理不尽なことを言ってくる保護者というのは稀です。
編集部:そうなんですね。意外です。「モンスターペアレント」という言葉だけが一人歩きしてしまっているのかもしれないですね。協力的な保護者が多い中での大変さというのは、どのような部分なのでしょうか?
Aさん:大変なのは、何か「トラブル」があった際の対応です。
編集部:トラブルですか。それは子ども同士のトラブルということでしょうか?
Aさん:そうです。いじめに繋がるような事案やケガなどのトラブルです。保護者にとって何より大切なのは我が子なので、普段は協力的でも、自分の子どもに何か被害があったり心配なことがあったりすれば話は別です。感情的になって電話がかかってきて、場合によっては話を延々と聴いているだけで2時間経っていた、ということもあります。
編集部:普段は協力的でも、自分の子どもに何かあると豹変してしまう、ということですね。
Aさん:「子どもを守るため」という感情から普段とは違う態度になってしまう場合というのがほとんどです。つまり、どの学校・学級でも、どんな保護者でもそうなりえるということです。
小さなトラブルを見逃さない初期対応が大事
編集部:特別な事例ではないということですよね。対応のコツは何かありますか?
Aさん:初期対応が何よりも大事です。初期対応を間違えると問題が更にこじれて大変な時間と労力をかけることになります。小さなトラブルを見逃さないということと、それらを絶対に放置しないことが重要です。
編集部:小さなトラブルというのは、ケガやケンカのようなことですか?
Aさん:そうです。学校で起こったケガについては、なるべく把握する努力と、その後の対応について保護者に報告する努力をします。子どもはケガをしたり体調が悪かったりしても、自分で判断して教員に言わないこともあります。把握をするために、例えば体育の後や帰りの会の際に、「今日ケガをした人や体調が悪い人はいないですか?」と確認をするのが良いと思います。
編集部:なるほど。子どもが何十人もいる中では、小さなケガは見落としがちになってしまいますよね。ケンカについてはどうですか?
Aさん:具体的に何があったのか、なぜお互いに不満をもっているのかを、まず把握する必要があります。日々の忙しさで、ついつい後で話を聞こうと思って忘れてしまった…ということが起こりがちです。
こうした不満な気持ちを抱えたまま家に帰ると、子どもは自分が感じたままのこと、自分にとって都合がいいことしか話さないことが多いです。「一方的に相手にやられたのに、先生は話も聞いてくれなかった」と話すこともあるでしょう。
編集部:普段、先生と顔を合わせない分、子どもの話が主な情報源になってしまいますよね。子どもが仮に真実とは違うことを言っていたとしても、嘘や隠し事をしているとは思いたくないでしょうし。
Aさん:そうなんです。子どもの話を聞いて、学校に相談が来ることもあります。しっかり子どもの話を聞けていないと、その保護者に説明することができません。トラブルがあったのに、先生は把握すらしていない…という不信感に繋がります。対応が後手後手にまわり、必要以上の労力がかかることになります。
編集部:確かに、把握すらしていないというのは不信感に繋がってしまいますよね。
Aさん:いじめに繋がるような事案であればなおさら、重大ないじめが起こる前にその芽を摘む必要があります。子どもの様子をよく見て、トラブルについて適切に把握すること、そして「これくらい大丈夫」と安易に決めつけず、一つ一つ丁寧に、そして迅速に対応することが大切だと思います。
ありがとうございました。また次回も引き続き、お話を伺っていきたいと思います。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。