学校教員

現場の納得感が第一!学校教員・教師の働き方改革(後編)-先生のやりがいまで削減しない!持続可能な改善とは?

学校教員・教師の長時間労働が明らかになり、各自治体でも具体的な対策に乗り出しています。一方で、現場の先生からは「具体的にどうしたら良いかわからない」「一方的な時間削減は逆効果だ」という声も聞かれます。

学校以外の企業や行政でも試行錯誤が続いている働き方改革ですが、どうすれば学校現場に合った形で改善を図っていくことができるのでしょうか?

左:編著者の町支大祐さん、右:編著者の辻和洋さん(左:編著者の町支大祐さん、右:編著者の辻和洋さん)

今回は、横浜市教育委員会と連携して先駆的な研究を行い、「データから考える教師の働き方入門」を出版された辻和洋さん、町支大祐さんにお話を伺いました。前編では、実際のデータから教育現場の現状についてご説明を頂きました。

後編では、改善していくためのポイントを中心にお伺いします。

働き方改革に「魔法の手段」はない

前編では学校の先生や職場の働き方の実態についてデータを元に解説してきました。では、データから見えてきた具体的な改善策は、どのようなことが考えられるのでしょうか。

まず申し上げておきたいのは、働き方の改善に「魔法の手段」はないということです。どの手段をとるにしても、学校の文化、子どもたちの状態、地域との関係性など、あらゆる状況が働き方に影響しています。ですから、「これさえやれば」というものはなく、他校や他業界の実践事例を参考にしつつも、自校の状況に合わせて改善策を独自で考え、試行錯誤しながら実践していくことが大切です。

そのことを前提とした上で、ここでは改善策の糸口となるような考え方を「個人」と「職場」に分けて説明します。

「完全燃焼タイプ」先生の改善のポイント

前編でも見た通り、忙しい先生は様々なタイプに分かれます。まず、こうした質の違いに目を向ける必要があります。

時間外業務の意識がなく、時間や労力は惜しみなくかけようとする「完全燃焼タイプ」の先生は、最も働き方改革についてモヤモヤ感を抱いているタイプでもあります。しかし、実際データを取ってみると、83.5%の人が時間外業務を減らしたいと思っています。労力は惜しみなくかけたいけれど、できるなら時間外業務を減らしたいという意識が垣間見えます。

その中で一つヒントになるのは「優先順位」をつけて仕事をすることです。

優先順位を決めていない人の中で、労力を惜しみなくかけたいと思っている人とそうでない人で比較してみると、在校時間に68分の差が生じてしまいます。一方で、優先順位をつけている人の中で、同じように比較すると、在校時間の差は25分とかなり短くなっています。つまり、労力を惜しみなくかけたいと思ってやみくもに仕事をするのではなく、優先順位をつけながら仕事をする方が業務時間は短くなる傾向にあります。

データから考える教師の働き方入門

「不安憂慮タイプ」先生の改善のポイント

自らの仕事ぶりに不安や自信のなさを抱いている「不安憂慮タイプ」先生は、不確実性の高い仕事であるがゆえの心情から長時間労働に結びついている部分があります。子どもに対する教育は、先読みしづらく、突発性の高い出来事も多く起こります。思った通りになりにくいため、事前準備をいくらやっても不安が拭えません。

これは教師の熟達と深く関わっています。予想外のことが起こっても柔軟な対応ができる技量を高めていくことが大切です。そのためには意識的に経験から学んでいくことが求められます。

経験から学ぶことをモデル化した「経験学習サイクル」というものがあります。このモデルのように、何かを経験し、振り返り、そこからの学びを持論化し、それを元にさらに挑戦的な試みを行っていくといったサイクルを回し続けて、技量を高めていく必要があります。

データから考える教師の働き方入門

「何でも屋タイプ」先生の改善のポイント

多様な業務を数多くこなしている「何でも屋タイプ」の先生ですが、このようなタイプの先生のところには、自然と仕事が集まってきやすいです。力があり、いい人でもあり、職場にとって大事な存在であることが多いです。しかし、「何でも屋」になりすぎてしまうことは長時間労働につながり、心身が疲れ切ってしまう危険性もはらんでいます。

こうした状態を避けるためには、教員同士で業務を把握し合うことが大切です。教員同士で業務を把握している群とそうでない群では、そうでない群の方が「何でも屋」になっている先生が出現する割合が高まる傾向にあります。仕事量の不均衡がなるべく生じないように教員同士で意識的に負荷を分散する必要があります。

データから考える教師の働き方入門

職場としての改善の取り組み「外科手術」と「漢方治療」

先生個々人が働き方の改善に取り組むのは重要ですが、やはりそれだけでは限界があります。職場全体で仕事のあり方を考えていく必要もあります。職場での取り組みは、大きく2つに分けられると考えています。

一つは、定時退勤日のような具体的に働き方を変えていくための即効性のある施策です。私たちはメタファーとして「外科手術」と言っています。「外科手術」はさらに、時間制限を行う「キャップ系」、業務を減らす「カット系」、業務を効率化する「効率化系」の施策があります。これらをうまく組み合わせて取り組んでいくことがとても重要です。

例えば、「キャップ系」のみを実施すると、業務そのものは減っていないのに時間制限ばかりされるわけですから、ストレスがたまることは容易に想像できます。実際に今回の調査ではストレスや離職意思が高まるという結果が出ています。「キャップ系」の施策を取るなら、合わせて「カット系」も行うことが大切です。

データから考える教師の働き方入門

「外科手術」の取り組み以外のもう一つの施策は、職場で業務改善や時間外労働の削減を良しとして、積極的に取り組んでいく文化を醸成していくことです。私たちはメタファーとして「漢方治療」と言っています。働き方を改善する文化を緩やかに浸透させ、じわじわと組織体質の改善を促していく必要があります。

職場は多様なメンバーで構成されていると思いますが、「漢方治療」として取り組むべきことは、役割によって異なることがデータの分析からもわかってきました。例えば、校長先生と副校長先生と学年主任の先生ではポイントが違います。

校長先生について述べますと、校長先生は学校内で「評価者」という立場でもあります。まずは効率的に働く先生をきちんと評価することが大切です。前編でも申し上げましたが、「うちの先生は遅くまで残って、熱心なんですよ」といった何気ない言葉が、組織体質の固定化を生んでしまうこともあるので注意が必要です。

改善を続けていく先に、どんな未来を作りたいか

ここまで挙げてきた取り組みは、個人として、あるいは、職場として働き方を改善していく時の基本的な考え方です。最初にも述べましたが、働き方改革には「魔法の手段」はありません。こういった考え方を参考にしながら、自分たちなりの改善策を見つけるために、試行錯誤を続けていくことが必要です。

改革を続けていくことは、簡単なことではありません。いつのまにか「まぁいいや」と思ったり、取り決めを守ること自体が目的になったりして、結局何を実現したかったのか忘れてしまうことも起こりがちです。働き方の改善を続けていく先に、どんな未来を作りたいか。折に触れて、確認しておく必要があります。

働き方の改善をすべき理由は、社会や教育制度の変化など様々ありますが、そうは言っても、働く主体である教職員の方々がより質の高い幸せややりがいを感じられるようにしていくことが大切です。時間が削減された一方で、やりがいも削減された。それでは長続きはしませんし、根本的な解決にもなりません。

教育現場のダブー

教師としての幸せを得るための犠牲はないか

教員の方々にとって、子どもたちから「先生のおかげだよ」あるいは「先生、ありがとう」といった言葉を受けたり、直接的な言葉はないとしても、子どもたちが成長していく姿を見られたりすることは、何物にも代え難い幸せであり、やりがいの源泉の一つであると思います。

ただ一方で、そういう幸せを得るために犠牲にしてきたものはないでしょうか?趣味や家族と過ごす時間など、個人の幸せを得ることをいつの間にか諦めてしまっている方も多いように思います。個人の幸せのための時間は、必ずしも自分のためだけにあるのではなく、教員自身が余裕を持って物事に接したり、多様な経験を得たことを学校で接する子どもたちにも還元されたりしていくはずです。

教師としての幸せ、個人としての幸せ、どちらも両立できるような生活を目指していくこと。そういったマインドを持つことが、働き方の改善を行う原動力になるのではないでしょうか。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

データから考える教師の働き方入門

データから考える教師の働き方入門

横浜市教育委員会と立教大学の中原淳研究室の共同研究「持続可能な働き方プロジェクト」による教員調査であきらかになったさまざまなデータをひも解き、近年話題の教員の働き方改革について、具体的な改善策までを提案。

教育現場の最前線で働く先生方が、明日の働き方を見直すための議論の出発点となるような素材を提供します。

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