ボランティア

ボランティアでも法的な責任・罪に問われます!-事故裁判の判例から考えるボランティアの責任

損害賠償

もし、ボランティア活動中に事故が起こってしまった時、その責任は問われるのでしょうか?答えは、有償・無償に関わらず、その法的責任が生じます。ボランティアだからということでその責任が免除されることはありません。

子どもに関わるボランティアは、地域社会の中でも多岐に渡って行なわれていますし、学生団体によっても行なわれていますが、そのリスクマネジメントについて適切に考えられている組織は少ないと思います。

清掃活動などのボランティアに比べて、リスクが高いのは間違いありません。「気軽さ」を打ち出している組織も拝見しますが、ボランティアの内容によっては、けして気軽に済まない場合もあります。

今回の記事では、ボランティア活動中に事故があった場合に、具体的にどのような責任が問われるようになるのか実際にあった裁判の判例をもとにお伝えし、リスクマネジメントの重要性について考えたいと思います。

「四ツ葉子ども会」裁判

裁判所

ボランティアがその法的責任を問われた裁判として非常に有名なものとして、「四ツ葉子ども会」裁判というものがあります。昭和51年8月1日に三重県津市の四ツ葉子ども会のハイキング中に小学3年生男子が水死するという事故が起こりました。子どもたちと同様にハイキングに出かけたり、川遊びをした経験のある方も少なくないと思います。事故と裁判の状況の詳細は、下記の通りとなります。

<事故の状況>

・津市河辺町の四つ葉子ども会主催のハイキングにおいて、昼食後の川遊びの最中、参加した小学3年生(9歳)が指定区域外の深みに入って水死した。
・ハイキングを実施する前に溺れるような場所ではないことを確認していたが、その男子が指定範囲外で泳いで溺れてしまった。
・参加者は、小学1年生から6年生までの30名、OB中学生6名、育成会の引率者ら11名が参加していた。

<裁判の状況・結果>

刑事裁判では、ボランティアのうち、中心的指導者とされた1人が過失致死罪に問われ一審では有罪となった。第二審では、無罪が確定した。しかし、民事裁判では子どもの過失が8割認められたが、ボランティアである指導者にも責任があると判定された。

ボランティアといえども過失があれば責任を問われることがある。

◎刑事事件判決
一審:津簡易裁判所(昭和54年12月6日)
刑事事件判決・・・有罪:罰金5万円、控訴
二審:名古屋高等裁判所(昭和59年2月28日)
刑事事件判決・・・無罪確定

◎民事事件判決
津地方裁判所(昭和58年4月21日)
民事事件判決・・・「下見、引率役員3名に対して、526万円余の損害賠償責任」(父母からの請求は約2500万円、過失相殺は8割)

ボランティアにどのような責任があるのか

ボランティアが負う法的な責任として、主に民事・刑事上で下記のような責任が生じる可能性があります。

◎民事上での責任・・・不法行為責任(民法709条)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

◎刑事上での責任・・・過失傷害(刑法209条)、過失致死(刑法210条)、業務上過失致死傷(刑法211条)、重過失致死傷(刑法211条)

ボランティアにおいて、意図的な不法行為が行われる可能性は低いのですが、専門的な訓練を受けずに携わってしまうことが多く、現実的には意図せず誤って起こしてしまう事故の可能性は少なくありません。そういった状況から特に理解をしておかなければならないのは「注意義務」(安全配慮義務)です。

注意義務・・・ある行為をするにあたって要求される一定の注意を払うべき法的義務。他人のための善良な管理者としての注意と、自己のためにする注意とに分かれる。違反すると、民法上、損害賠償の責任などを生じることもあり、刑法上は過失犯の成立要件となる。(大辞泉)

子どもと関わる活動では、有償・無償に関わらず、「注意すべき立場であったにも関わらず、適切な対応を取らずに事故(結果)に至った」ということになれば、その責任が問われることになります。法的な責任の有無の判断には、主に「予見可能性」・「回避可能性」の2つの基準があります。

◎「予見可能性」(予測)・・・事故が起きることは事前に予測できなかったのか?相当の注意力と判断力をもってすれば、事故が起きることを予測し、その対策を講じることができたはずなのにこれをせず、事故が発生してしまった。

◎「回避可能性」・・・相当の注意力と技術力をもってすれば、事故は回避できたはずなのに、何らかの過失(ミス)によって回避できなかった。

前記している「四ツ葉子ども会」裁判の判旨では、実際に下記のような責任があったし、注意義務違反を指摘しています。

①予め川遊びをする場所の状況を精査し、安全な場所を選定する。
②川遊びを許可する範囲および危険箇所を児童らに周知徹底させる。
③児童が安全水域から逸脱しないように、同行している育成会役員らに適切な監視を依頼する。
④自らも十分な監視を尽くす。

子どもを預かるという行為は、常に注意義務(安全配慮義務)があります。つまり、責任の生じない子どもと関わる活動はないということになります。注意義務を履行するためにも子どもたちの活動にどのような危険があるのかを予め予測し、十分な対策を講じておく必要があります。

ミスをしない人はいません。人はミスをするという前提に立って、対応を考えます。そのためには、ボランティアに対しても事前に必要な知識や技術のトレーニングが必要です。それが出来なければ、その活動自体を実施することは困難であると考えるべきです。

どのように事故のリスクを低減していくことができるのかしっかりと向き合い、地道に対策を講じ続けることが参加する子どもやボランティアにとって極めて重要な事項であることを強く意識して取り組んでいかなければなりません。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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