学習支援教育格差

子どもの貧困連鎖の問題は、単なる「無料塾」をいくら作っても不十分!-支援への依存を助長する危険性あり

勉強する子ども

雨後の竹の子のごとく「無料塾」が全国各地に次々に出現

現在、全国各地の自治体で、貧困家庭の子ども向けの「学習支援事業」の立ち上げが相次いでいます。

平成27年4月から「生活困窮者自立支援法」が施行され、それに伴って厚生労働省の「生活困窮者自立支援制度」が創られました。

この制度では、「生活困窮家庭」(生活保護家庭、就学援助受給家庭等)に対して、様々な支援メニューを総合的に行うことを自治体に求めており、その中でも貧困の連鎖を断ち切るために、学習支援を行うことがメニューに組み込まれています。自治体が学習支援事業を実施すると、それにかかる費用の2分の1を国が補助する仕組みになっています。

厚生労働省の2015年4月時点での調査によると、すでに300の自治体(33%)がこの学習支援事業をはじめているそうです。同制度が始まる以前の184からほぼ倍増の勢い。今後も多くの自治体が、実施していくと考えられます。

しかし、貧困問題の捉え方に安易なケースがよく見受けられます。

①生活困窮者はお金がないので子どもを塾に通わせられない。
②そのため学習についていけず、学力が低迷する。
③その後の進学や就職で不利となり、貧困の連鎖へとつながる。
④その対策として、お金がない家庭でも通える無料の塾を提供する。

という考え方です。そのため、「無料塾」という実施形態に止まり、この貧困問題の複雑さを甘く見ていていると言わざるを得ません。

私は、地元の愛知県高浜市から、この生活困窮者向けの学習支援事業の立ち上げについて相談を受け、高浜市の担当者の方々との現状の問題についてのディスカッションを重ね、平成27年7月から、NPO法人アスクネットを委託先として学習支援事業「ステップ」を立ち上げました。現在、4ヶ月目となり運営も安定してきました。(冒頭の写真はイメージです。本事業とは直接関係ありません。)

平成28年度からも、「雨後の筍」のごとく自治体による安易な「無料塾」が出現すると思われるため、問題提起の意味で、「単なる無料塾では不十分な理由」をまとめたいと思います。

生活困窮者自立支援法

「学習支援」を通して本当に育むべきものとは?

愛知県高浜市は、人口約5万人の小さな市で、市内には中学校2校、小学校5校があります。その中で対象となる生活困窮家庭(生活保護、就学援助受給)を数えたところ高浜市全体で約1割。多い学校は2割近くにものぼり、比較的豊かな地域と言われる愛知県でも貧困が広がっていると感じました(全国の就学援助受給率はおよそ15%)。

これらの家庭向けに、学習支援事業「ステップ」は、生活困窮者の中学生向けに7月25日より、夏休み中は週3回程度の実施でスタートし、9月からは毎週土曜日に9:30 ~ 16:00の時間に開講し、大学生の学習支援者(チャレンジサポーター)の支援で、平均して15名程度が学んでいます。

愛知県高浜市での学習支援事業「ステップ」の様子(愛知県高浜市での学習支援事業「ステップ」の様子)

主な内容は「学習支援」ですが、当初から育てていくべき力を、テストの結果として測定される「学力」ではなく、自分の学習をマネジメントできる能力の育成においています。学習のPDCAサイクル(計画、実行、チェック、改善)を身につけさせるために、当面の目標とともに、参加したその日には、必ず目標シートを書き、帰る時に振り返るという習慣づけを行っています。

さらに支援すべき大事なことがあります。それは、子ども自身が、その後の自分の人生を「どう生きていくのか」の根幹を育てることです。

学力の背景にある、なりたい自分へのイメージを育て、そのイメージに向けて、自分が学ぶことで近づけることへの「手応え」、「自己効力感」を育てることなくしては、「学習支援がない環境」でも、自立的に成長していく子どもになりません。

ともすれば、民間の個別指導塾のように懇切丁寧に教えすぎ、「教えられること」に依存体質にしてしまう恐れもあります。そんな状況で、結果としての「学力」があがっても、高校進学後やその後にサポートがなくなったら、そこで行き詰まるだけです。

経済的に厳しい状況に置かれているからこそ、自発的に行動し、自らの成長をマネジメントできる習慣づけを、早期にしていくことが、貧困の連鎖から脱出するための最大の課題です。

そのためには、学習支援事業の中でただ勉強を教えているだけでは不十分で、信頼できる大人・地域との出会いを生み出し、大人との多様な人間関係づくりを、様々なイベント、講座などで行っています。

地域の方と一緒に竹切から準備をした「流しソーメンパーティ」や、「異文化の人々との交流」、「3Dプリンター講座」などを実施し、子どもたちは、様々な大人との出会いの中で、初めてきた時とは違う自発性が育まれ始めています。

学力の支援よりも切実度が高い、「食事」の問題

他にも、事業を行っていくなかで直面した切実な問題は、食事の問題です。生活困窮家庭は、食事環境においても厳しい状況に置かれていることもわかりました。とりわけ、給食がない夏休みなどの長期休暇中は、劣悪な栄養状態に置かれていることがわかりました。

そこで、このプロジェクトに携わっている元校長先生のコーディネートで、地域のまちづくり団体、婦人会等が持ち回りで、100円の材料費のみで食事を提供して頂けるようにもなりました。

食事の準備や片付け等も、子どもたちも共にやることで、大人との出会い、協働の場にもなっています。地域にとっても、食事の提供を通して、地域の子どもたちの実情を知る、つながりの場にもなっています。

自宅の畑などでとれた野菜などを使って、地域の方が昼食を提供してくれます(自宅の畑などでとれた野菜などを使って、地域の方が昼食を提供してくれます)

貧困の連鎖を断ち切る、効果の高い「学習支援プログラム」の構築へ

ここで紹介した高浜市の事例も、まだ端緒についたばかりで、試行錯誤が続いています。

大事なことは、「学力」にせよ、「食事」にせよ、貧困な家庭に生まれる切実な課題解決をきっかけとして、人とのつながりを育み、そこからどれだけ「自立心」を育んでいけるかです。

経済的に厳しい状況にうまれても、遭遇する高い困難=壁に対して、エレベーターやエスカレーターではなく、「自分の力」で、一歩一歩のぼっていける「階段(ステップ)」をつくることが大事です。

経済格差が開いている時代だからこそ、安易に目先の学力を支援することではなく、その子どもが成長し、役割を担っていくまでのプロセスを俯瞰した上での、効果の高い学習支援プログラムづくりの構築が今、求められているのです。

Author:毛受芳高
一般社団法人アスバシ代表理事。NPO法人アスクネット創業者。学校と地域をつなぐキャリア教育の普及と、キャリア教育コーディネーターの仕事を提言し、仕組みをつくりだしてきた。現在は新しい時代の高卒就職「早活」と、働きながら学ぶキャリア「アプレンティスシップ」を推進。
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