(フォトブックを制作した通信制高校生)
現代の通信制高校に通う高校生は、高校中退や不登校の経験者が大半
「おれ、3年間不登校だったなぁ」
「いや、僕なんて6年間だよ(笑)」
「おれ、不登校期間4ヶ月しかないから、この中にいていいのかな(笑)」
こんな会話を笑顔で交わす彼らは、通信制高校に通う生徒たちです。先日、NPO法人D×P(ディーピー)のキャリア教育プログラム「クレッシェンド」を受けた通信制高校の高校生4人が、自主制作のフォトブックを出版しました。
2013年10月26日に開催されたフォトブック出版記念イベントで、彼らは冒頭のようなやりとりをしていました。フォトブック出版記念イベントでは、高校生4名が自らの過去の不登校経験やひきこもり経験を語り、フォトブック出版の経緯や、将来何をやっていきたいのかを語ってくれました。
イベントには「クレッシェンド」の卒業生、ボランティア、寄付者、保護者の方々など、多くの方々が集まってくださり、大盛況に終わりました。
「通信制高校にいる生徒が、不登校やひきこもりの経験者?」
「通信制高校は勤労学生たちが働きながら高卒資格をとる学校なのでは?」
こんな声をよく聞きます。しかし、勤労学生が多いのは過去のこと。現代の通信制高校に通う高校生は、高校中退や不登校の経験者が大半です。
ごく一部、タレント業やスポーツに取り組む生徒が通っているということもありますが、実際は7割が一度高校をやめた転・編入生で、統計上4割の生徒が中学までに不登校を経験している生徒です。高校時代の不登校経験者を合わせれば、その割合はもっと多いだろうと言われています。
(立命館大学での講演の様子)
そもそも、通信制高校とは?—通信制高校に通う生徒の実情
そもそも、通信制高校とはどのような高校か、ご存知でしょうか?
通信制高校は、毎日学校に通う全日制高校と異なり、少ない通学(スクーリング)とレポートを提出することによって高卒資格を取ることのできる高校です。この通信制高校は、全国に約210校あり、約19万人の高校生が在籍しています。
興味深いのは、少子化が進んでいくにつれ、多くの全日制高校は校数も生徒数も減少しているのに対し、通信制高校は学校数及び生徒数が増加していることです。
これは、通信制高校という、全日制とは異なった学びの場へのニーズが高まってきているためだと言われています。ニーズの高まりにより生徒数も校数も増えている通信制高校ですが、大きな課題があります。
実は、通信制高校の卒業生のうち、進学も就職もしない進路未決定者が43%もいます(文部科学省発表「学校基本調査」)。
「進路未決定者」とは、卒業後の進路として進学も、就職も選ばない状況にある生徒のことを指します。全日制高校は進路未決定者が5%ですから、通信制高校の卒業生の進路未決定者の多さがお分かりいただけると思います。
また、とある大学の調査によると、大学中退者の7割が通信制高校出身であるとのことでした。大学名の公表はできませんし、一校の例なので一般化できない事実です。
通信制高校の生徒の進路については、マクロデータも未整備ですので、当団体でも調査を重ねていきたいと考えています。
(キャリア教育「クレッシェンド」の授業の様子。少人数で生徒と語り合う)
進路未決定率の低さの要因は?—自己肯定感の低下と、社会関係資本の欠如
この2人に1人が進学も就職もしないという問題の原因は多種多様ですが、私は「不登校などの挫折経験による自己肯定感の低下」と「人とのつながる機会を逸したことによる社会関係資本の欠如」が原因だと考えています。
前述のとおり、4割の生徒が中学までの不登校経験者であるため、挫折経験により自己肯定感が下がっている生徒が多くいます。進路選択は、初めての社会との接点です。
進路選択の際はどんな高校生も自身の進路に迷うものですが、通信制高校の生徒は自己肯定感の低さにより、進路を選択することができない、もしくはその気力すらない生徒が見受けられます。
また、その学校の形態にもよりますが、多くの通信制高校が殆ど登校せずに、レポート提出によって卒業することができます。それにより、生徒は高校時代に人とつながる機会を失います。人との繋がりを失うことは、社会との繋がりを失うことです。
よほど丁寧に高校生を見守ることができる先生や親に恵まれなければ、なかなか進学や就職などに行きつく機会がないという現状があります。
通信制高校は多くが公的な学校ではないため、これまで前述したような課題は見過ごされてきました。NPO法人D×P(ディーピー)は、この通信制高校が抱える「2人に1人が進路未決定のまま卒業する」という課題をどうにかできないか、と立ち上がりました。
次回は、通信制高校におけるD×Pの取り組みについて、ご紹介いたします!
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。偶然、通信制高校の先生から通信制高校の生徒が抱える課題に出会う。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、何かできないかと任意団体Dream Possibilityを設立。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。通信制高校の高校生向けのキャリア教育事業を関西で展開し、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指して行動している。