高校中退中等教育不登校・ひきこもり

2人に1人が進学も就職もしないまま卒業する―生徒数も学校数も増える通信制高校の課題と可能性(後編)

クレッシェンドの授業の様子①(クレッシェンドの授業の様子①)

キャリア教育プログラム「クレッシェンド」

「先生方と協力して、この現状を何とかできないか?」

通信制高校が抱える「2人に1人が進路未決定のまま卒業する」という課題を知った私と共同代表の朴が、このような想いから設立したのが、NPO法人D×P(ディーピー)です。

当団体では、通信制高校と提携し、単位化したキャリア教育プログラム「クレッシェンド」という独自の授業を展開しています。

単位化された授業を通信制高校で提供しているNPOは、全国でD×Pのみだと聞いています。「クレッシェンド」は「コンポーザー」と呼ばれる大学生・社会人ボランティアと信頼関係を築きながら仕事の話や過去の経験談を語ります。

この授業の目的は塞ぎ込んでいる高校生を「できない」から「やってみたい」という意欲的な状況まで持ち上げることです。

10人の生徒に対し、8人の大人が関わり、3ヶ月間、4回の授業を行います。このように長期間にわたって多くの大人と関わり続けていくことにより、信頼関係を築きやすい場を作っています。

最初は生徒たちもあまり話しませんが、授業を重ねるごとに自分がやってみたいことを話してくれるようになります。

クレッシェンドの授業の様子②(クレッシェンドの授業の様子②)

挫折経験を持ち、発達障害などを持っている生徒も中にはいるため、コンポーザーの研修には力を入れています。

「D×Pコンポーザー3姿勢」を定めており、コンポーザーの皆さんには、「否定しない」「年上・年下から学ぶ」「様々なバックグラウンドから学ぶ」という3つの姿勢を大切に、高校生と関わっていただいています。

様々な職種・経験を持つ大人から否定されずに話を聞いてもらうこと、そしてその大人たちと交流できる機会を持つことで、高校生たちは自己肯定感と社会関係資本を獲得する機会を得ることができます。

チャレンジプログラム「フォルテッシモ」

また、クレッシェンドで「やってみたい」という意欲が育った生徒に対しては、実際にその「やってみたい」を「できた」に変える「フォルテッシモ」というプログラムを提供しています。

フォルテッシモは、通信制高校の生徒に向けた学校外でのチャレンジプログラムです。

企業インターン、イベントレポーター、写真展の開催、マラソンへの挑戦など、様々な学外での挑戦の機会を提供します。

2013年4月から始まったこのプログラムでは2013年9月までに約30名の生徒が参加しました。大阪のPR会社や雑誌の制作会社で企業インターンをした生徒もいます。また、地域活性で有名な海士町(あまちょう)の旅館でインターンをした生徒も出てきました。

海士町のインターンで、農作業に取り組む生徒(海士町のインターンで、農作業に取り組む生徒)

実際に「クレッシェンド」と「フォルテッシモ」を受けた生徒にたくさんの変化が生まれています。

ある生徒は中学のときからずっとひきこもり状態でした。そして通信制高校に進学し、私たちの授業に参加してくれたのですが、授業のなかでふと彼が「俺は絵が好き」という言葉をもらしたのです。その言葉をボランティアの方が注目してくださり、それがきっかけで彼は絵を主体的に書き始めました。

それであれば、「フォルテッシモ」の一環で、D×Pが応援するから個展を開催してみないかと彼に持ちかけたところ、彼は驚くほどの集中力で25枚もの絵を描き上げ、その年の夏にアメリカ村のアートギャラリーでアート展を開催することができました。

出会った当初よりたくさん話もしてくれるようになり、自分でバイトを見つけて、取り組むようになりました。以前の彼からは考えられなかったことだと思います。

通信制高校の生徒がアート展のために描き上げた絵(通信制高校の生徒がアート展のために描き上げた絵)

また、もうひとつ驚いたことがあります。

前編でも書いたとおり、「フォルテッシモ」の一環で、2013年の夏に写真展を開催した通信制高校の4人の生徒が、その写真をフォトブックとして自主制作・出版しました。この出版記念イベントのとき、生徒が次のように話したのです。

「”いろんな人に助けられてここにいる”ということを感じた。それを少しでもいいから周囲に返して行きたいと思った。」

その言葉を聞いた時は、驚きました。たくさんの事情を抱え、生きることも苦しそうにしていた彼らです。

でも、写真展を通じて、「自分で楽しむだけの写真」から「誰かに見せる、伝えるための写真」を撮ったことで、誰かのために何かをしたい、という気持ちを持つまでに変わったのだと思い、ジーンとしました。

このフォルテッシモというプログラムを提供するなかで、気付いたことがあります。

このプログラムは、通信制高校という、毎日学校に通う必要のない生徒だからこそ実現できるプログラムです。

通信制高校に通う生徒たちは多くの困難を抱えた生徒たちですが、通信制高校の仕組み自体は学校に通う回数などが少ないため、勉強をしながら学外での活動に取り組むことができる仕組みになっているのです。高校生の時分に、学校以外の場所で多様な大人たちと接触する経験は、その後の人生に大きく影響する価値ある体験になると感じます。

通信制高校には課題もありますが、一方で、全日制高校のモデルにもなりうるような大きな可能性も秘めていると感じます。私たちの取組みはまだ始まったばかりですが、通信制高校の先生方や保護者の方々と協力しながら、高校生たちをサポートしていきたいと考えています。

Author:今井紀明
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。偶然、通信制高校の先生から通信制高校の生徒が抱える課題に出会う。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、何かできないかと任意団体Dream Possibilityを設立。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。通信制高校の高校生向けのキャリア教育事業を関西で展開し、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指して行動している。 
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