就職・就労

日本の若者の不安定就労問題が深刻化し続ける理由-場当たり的な「就労対策」ばかりでは未来はない

キャリア教育のグループワーク

高卒の3人に2人、大卒の2人に1人が就労問題に直面!

今、若者の不安定就労の問題は深刻です。

内閣府発行の『子ども・若者白書平成25年版(平成25年6月)』によると、平成25年3月卒業者のうち、高校卒業者の4.9%、大学卒業者の15.5%は進学も就職もしていません。

平成21年3月卒業者では、中学校卒業者の64.2%、高校卒業者の35.7%、大学卒業者の28.8%が就職後3年以内の離職しています。

中退もしくは、卒業後に就職できない、就職しても3年以内の早期離職してしまう割合は、高卒の68%(約3人に2人)、大卒の52%(2人に1人)にのぼることが、平成24年3月に行われた雇用戦略対話で示されました。

つまり、小学校、中学校、高校、大学と卒業し就職し、そのまま仕事を続けてられる人のほうが少ないという状況なのです。

この問題を、不況の影響もあるので当たり前の現象という立場もあるでしょう。

ただ、若者の失業率が9.1%にのぼり、全年代の失業率5.3%に比べて約2倍であり、少子化で若者が減っていることに加えて、その若者が働いて支える側に回れないということは、今後の年金や医療など社会保障制度の根幹を揺るがす問題になることは明かです。

従って、政府は、若者の就労問題を解決するための何らかの対策を講じる必要性があります。

若者の就労問題解決のための予防と対症

キャリア教育のグループワーク

この若者の就労問題を、病気と例えてみましょう。

病気にあわせて症状を抑える薬を飲んだり、原因を手術したりして直すのが、いわゆる「対症対策」です。すでに病気になってしまったら、対症対策を行わないわけにはいきません。

しかし、本来もっと力を入れるべきなのは病気にならないように、手を洗ったり、うがいをしたりする「予防対策」です。

予防がきちんとなされれば、そもそも病気にならないわけだから、薬を買ったり、手術をしたりする費用は要りません。

イギリスのことわざで「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」(An ounce of prevention is worth a pound of cure.)という言葉があるように、予防対策は、多くの場合、対症対策より安くあがり、より効果が高いのです。

この若者の就労問題において、日本の「予防対策」と「対症対策」は、どれぐらいの比率で行われているのでしょうか?

何を「予防対策」とし、なにを「対症対策」と考えるべきなのでしょうか?

もしかしたら、今の若者の就労問題は、政府が、後手、後手に回っていることの結果ではないでしょうか?

これらの疑問に、私たち、一般社団法人アスバシ教育基金は、調査研究チームを組んで調査を試みました。

字数の制限があるため、この調査のより詳しいレポートについては、記事の末尾にあるリンクを参照にしていただければと思いますが、こちらの記事ではその概要を紹介します。

予防対策に使われる割合はわずか1割

私たちは、現在、都道府県自治体が行っている若年者就労問題の事業の「予防対策」と「就労対策」を、当初予算ベースで計算をしました。

データの入手方法は、全国都道府県に対して郵送による調査用紙によるアンケート調査(36都道府県より回答)と、ウェブサイト上で公開されている都道府県の予算案から調べる2通りの方法により、47都道府県分のデータを集約しました。

その結果、若者の就労問題に対する対策全体の中で、予防対策がしめる割合は金額比で約12%、金額にして38億円となり、対症対策は約280億円と比べて大変少なく、予算配分の偏りが見られ、都道府県の対策が後手に回っていることが示されました。

若者の就労対策事業に占める割合

対症対策のなかでも大きいものは、就業補助金、トライアル雇用等の若者が就労する際の人件費補助などを補助する事業で43.2%(137億円)でした。続いて、ハローワークやジョブカフェ、若者サポートステーションのような相談所を設置する事業であり、21.7%(69億円)でした。

この両者で、就労支援全施策のほぼ65%を占めていました。

これらの対策は、若者が主に失業状態になってからの対策であり、予算を使う割には若者の就労に至るまでの成果が得られないことを考えると、この状況になる前に、もっと有効な予防対策が打てなかったのか、という気持ちも沸いてきます。

それに対して、予防対策として行われている事業で最も大きかったものは、高校に就職支援の目的で、キャリアカウンセラー、キャリアアドバイザーなどを配置する事業であり4.3%(14億円)。

次に、高校向けへのキャリア教育やインターンシップ等を支援する事業で3.6%(11億円)であり、これに産業界とキャリア教育の推進体制などを検討するキャリア教育のプラットフォームづくりの予算を組み合わせてもわずか4.2%(約13億円)でした。

全都道府県における若者就労問題に対する対策事業の予算と割合

若者の不安定就労を支える専門人材が、不安定であるという矛盾

就労対策事業の主な財源が、予防対策・対症対策いずれも、緊急雇用創出事業基金という厚生労働省からの基金事業を使っている例が多く見られました。(末尾の都道府県別事業一覧参照)毎年の継続的な実施が求められる対策に、単年度の緊急的な措置としての財源が使われている現状は場当たり的だと言えます。その結果として、

若者の不安定就労問題を解決すべき専門人材が、不安定就労であるという矛盾を引き起こしています。

また、若者の就労対策について、予防は教育委員会、対症は産業労働関係部局と行政の縦割りのなかで分断されていることも浮き彫りになりました。

各都道府県の若年者の就労状況を把握しながら、問題の予防段階から対症対策に至るまでのトータルの課題として総合的に捉え、対策を立案し、実行する総合的な対策窓口を築くことも急務です。

効果的な予防対策の開発と必要な資源の投入へ!

予防対策であればなんでもよい、ということではありません。若者の就労支援における予防対策には、「効果的なワクチン」のように、一度のプログラムの実施(ワクチンの接種)で、若者の意識が変わり、その後の行動が変わる(免疫ができる)ようなインパクトのあるものが求められます。

私たちアスバシ教育基金は、「若者の心が起動する体験(ユースアクティベーション)」という概念を打ち出し、高校生段階において、社会とつながった実践型インターンシップ等の体験型プログラムを提供することを、効果的な予防対策として提唱しています。

今、政府の政策が後手に回っているという現状をまずは認識し、より効果的な予防対策を実施する体制を考える時期です。また、恒常的な財政難をかかえる都道府県のレベルで、目の前で苦しんでいる患者(不安定就労の若者)を放置して、予防対策にかけるという選択肢をとることも難しいでしょう。

予防対策にかける財源をどうするかも含めて、官民一体になって対策を講じることが、結果的に私たちの20年後、30年後の暮らしの豊かさにつながっていることを認識してほしいと思います。

Author:毛受芳高
一般社団法人アスバシ代表理事。NPO法人アスクネット創業者。学校と地域をつなぐキャリア教育の普及と、キャリア教育コーディネーターの仕事を提言し、仕組みをつくりだしてきた。現在は新しい時代の高卒就職「早活」と、働きながら学ぶキャリア「アプレンティスシップ」を推進。

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